花りんに助けて貰って、やっと将来の道がかすかに見えてきました。私の根は花りんから離れて独立して伸びていくような感覚が足許から伝わってきました。体にも異変が起こりつつありました。皮膚、いや樹皮のようなものが生じはじめたのです。このまま変化すればいずれ葉が出てくるかもしれません。ははっ、葉をまとった電信柱ですか。いずれ枝も出てくる。滑稽だと思われますか。ははっ、これも自然、ジネンですね。花りんとともにここで生きていく。生きる ? 私には眩しすぎる言葉ですね。
ははっ、ええっ、そうですか、・・・私がどうして死んだのか知りたい ? まあ、当然でしょうね。私に思い出させたい ? そうですか。
恥ずかしいかぎりです。いや、私は、まっとうに仕事して、妻と、それから花りん親子も養って、・・・いや、正直、苦しかった。金をなんとかしなければ・・・、いつもそんなことを考えていました。ある夜、屋台で酒を飲んでいると、ふらっと、中年の女性が隣に座ったんですね。そして、私に絡んできました。あんたには分からない、なんて言い出すんです。黙って聞いていました。旦那に愛想が尽きて、家を出てから、もう随分経っているという話をしました。
「男はみんな自分のことばかり考えて・・・、ふん、あんたもでしょう」
私は、そう言われて、気分がよけいに滅入ってきました。
「私は、私で、苦しい」
「苦しい ? ああ、そう」
「苦しいですよ」
「ああ、分かった。女のこと、・・・そうだ、そうに違いない」
「・・・」
「そうなんだ。・・・それで、お金で苦しんでいる・・・、ああ、そうなんだ」
「勝手に決めないでください」
「図星だね、うん、分かる、顔に書いてある」
「・・・」
「金だったらいくらでも貸してあげる」
「えっ !」
私は、その話を聞いて、体全体がぐらっと揺れるような気持ちになりました。救いの神に見えてきました。
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