題名に惹かれて読んでみました。「意地悪な人」というのは林真理子さんのエッセイの題名でした。エッセイスト酒井順子さんの良いところは何と言ってもその意地悪さだと書いておられます。「あくまでも普通の人間として社会性を持ち、たくさんのボーイフレンドや友人に恵まれながら、ありきたりの日常に埋没しない。すうっと流れる日々の中から、砂金のような真実を見つける。これが意地の悪さというものである。」林真理子さんをうならせるような面白いエッセイスト酒井順子さんのエッセイを読みたくなります。この本には78人のエッセイが掲載されています。普段、読まないような作家のエッセイにめぐり合えるのも面白いです。たとえば出久根達郎さん、上原善広さん、長部日出雄さん、岡井隆さんなど書き上げたらきりがありません。川上弘美さんの「ふいうち」も面白かったです。井上ひさしさんの「庭先の真理」に出てくる一節に本当に嬉しくなりました。井上ひさしさんは切り立った崖のそばにお住まいなのだそうです。その崖から向こうは「源氏山」という公園で「休日になると風向き加減で思いがけなくハイキングにやってきた人たちの愉快そうな声が降ってくる。小鳥のさえずりも気分がいいが、和やかにしているときの人間の声には、はるかに美しい響きがある。」そうなのです。小鳥のさえずりよりもはるかに美しい、和やかな人間の声!それが降ってくるのです。「煙草を思う存分ふかしながら庭に立って天から降ってくる人の声に耳を傾けていると、世界と抱き合っているような安心感がある。」私も想像して世界と抱き合っているような安心感を体験したいと思いました。
お気に入り度:★★★★★ 図書館資料 分類番号:E/イジ