寓話
2012-03-18 | 詩
夕暮れ時の雨脚に
煙草屋の軒下でたたずむ昨日
街頭演説の煽りが鼓膜を不自然に揺らす
当たり障りの無い毎日
赤い公衆電話が苦々しく微笑む
赤い公衆電話
そんな物
この御時世に観た試しが無い
記憶の底に座礁した昨日
何時かの風景
何時かの香り
誰かが電話口で囁いている
ジリジリジリ
赤い電話が鳴っている
僕は想わず受話器を取った
もしもし?
十秒程の沈黙の後
少女の声が聴こえた
もしもし、
聴こえていますか?
はい、聴こえていますよ。
少女は続けた
伝言です。
「忘れないで。」
電話が切れた
つーつーつー
僕は途方に暮れて煙草に灯をつけた
混線し遮断された連絡網
あれは確かに遠い記憶
忘れた記憶
忘れそうな風景
雨が止んだ
水溜りで子供達がはしゃぐ
水の底で鳥の化石が眠っている
はしゃぎ過ぎた
子供達の想いは
砕け散る
忘れないで
中庭のテーブル椅子に腰掛け
彼女は少し目を伏せた
ごめんなさい。
あなたの何の助けにもなれなかった。
いいんです。
貴女はここで訪れる人々の話を聴いてあげて。
たぶん。
たぶんそれで救われる人も居る筈です。
僕は。
僕は此処を出て行きます。
そうしなくちゃあいけないんだ。
我々は最後の握手を交わした
夏が去り秋が来て
やがて白い冬が訪れる頃の寓話
遠い記憶
鮮明だったのは
事務所の窓口の赤い電話
誰それが語り尽くした公衆電話
人々の懺悔を赤い電話だけが知っている
寂しさ
悔しさ
投げつけられた優しさ
孤独の沈黙と
消えてゆく十円玉
僕は呆然とした
一体
一体僕は何処に辿り着いたのだろう
煙草屋の軒下
フィリップモーリスの白い煙
流れ行く白線
雨が止んだ
だがしかし僕は其処から一歩も足を踏み出せない
忘れないで
僕は郷愁に身を焦がした
失落した希望的観測
此処を出てゆかなければ
忘れないで
誰の伝言だったのだろう?
忘れないで
僕は佇み動けない
まるで意識的に動かないパントマイムの様
いつか動き方すら忘れ
赤い公衆電話のように
悪戯に排除される
それでも
声がする
忘れないで
煙草が白く燃え尽きた
煙草屋の軒下でたたずむ昨日
街頭演説の煽りが鼓膜を不自然に揺らす
当たり障りの無い毎日
赤い公衆電話が苦々しく微笑む
赤い公衆電話
そんな物
この御時世に観た試しが無い
記憶の底に座礁した昨日
何時かの風景
何時かの香り
誰かが電話口で囁いている
ジリジリジリ
赤い電話が鳴っている
僕は想わず受話器を取った
もしもし?
十秒程の沈黙の後
少女の声が聴こえた
もしもし、
聴こえていますか?
はい、聴こえていますよ。
少女は続けた
伝言です。
「忘れないで。」
電話が切れた
つーつーつー
僕は途方に暮れて煙草に灯をつけた
混線し遮断された連絡網
あれは確かに遠い記憶
忘れた記憶
忘れそうな風景
雨が止んだ
水溜りで子供達がはしゃぐ
水の底で鳥の化石が眠っている
はしゃぎ過ぎた
子供達の想いは
砕け散る
忘れないで
中庭のテーブル椅子に腰掛け
彼女は少し目を伏せた
ごめんなさい。
あなたの何の助けにもなれなかった。
いいんです。
貴女はここで訪れる人々の話を聴いてあげて。
たぶん。
たぶんそれで救われる人も居る筈です。
僕は。
僕は此処を出て行きます。
そうしなくちゃあいけないんだ。
我々は最後の握手を交わした
夏が去り秋が来て
やがて白い冬が訪れる頃の寓話
遠い記憶
鮮明だったのは
事務所の窓口の赤い電話
誰それが語り尽くした公衆電話
人々の懺悔を赤い電話だけが知っている
寂しさ
悔しさ
投げつけられた優しさ
孤独の沈黙と
消えてゆく十円玉
僕は呆然とした
一体
一体僕は何処に辿り着いたのだろう
煙草屋の軒下
フィリップモーリスの白い煙
流れ行く白線
雨が止んだ
だがしかし僕は其処から一歩も足を踏み出せない
忘れないで
僕は郷愁に身を焦がした
失落した希望的観測
此処を出てゆかなければ
忘れないで
誰の伝言だったのだろう?
忘れないで
僕は佇み動けない
まるで意識的に動かないパントマイムの様
いつか動き方すら忘れ
赤い公衆電話のように
悪戯に排除される
それでも
声がする
忘れないで
煙草が白く燃え尽きた