眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

原罪

2022-10-07 | 
薬を頂戴
 そう云って彼女は僕のテーブルをあさった
  それからすぐにボルタレンを見つけ
   2錠まとめて口に放り込みバーボンで飲み干した
    僕は黙って彼女が描きかけた水彩画を眺めながら煙草を吹かせていた
     やるせない記憶の断層
      僕にとって君じゃなく
       君にとって僕じゃなかった
        ただ同じ空気を吸い同じ時代を生きていただけだった

        外は台風の影響で酷い有様だった
         停電した部屋でお酒を舐め続けた
          お腹が空くとフランスパンを齧り
           ワインの瓶が2本空になった
            雨風の音が凄かった
             
            彼女も僕もひどい頭痛持ちだった
             天候の変わり目には僕等は残り少ない薬を分け合った
              世界はまるで僕等の存在を無視し
               僕等はそもそも世界自体に関心が無かった
                彼女は売れない絵描きで
                 ただ楽しそうに植物の絵ばかり描いていた
                  そんな彼女の後ろ姿を眺めながら
                   ぼんやりとジョー・パスのレコードを聴いていた
                    僕は一体何をしているんだろう?

                    雨は止まなかった
                     僕等はレコードを流し続けた
                      タック・アンドレス
                       イヴェット・ヤング
                        宇宙コンビニ

                       或いはスザンヌ・ベガ
                      中村由利子
                     マイク・オールドフィールド
                    片っ端から聴いていた

                   君はどうして植物しか描かないんだい?
                  僕は彼女にぼんやり尋ねた

                 植物は誰も傷つけないの
                人は人を傷つける生き物でしょう?
               だから嫌いなの
              その意見には同感だった

             僕等は神さまも人も思想も信じなかった
            ただ音楽と絵を愛した

           僕と彼女の孤独が雨の日に柔らかく重なった
          雨の音が優しく我々を包み込んだ

         原罪なの

        原罪?

      そう。人は人を激しく罵ったり馬鹿にしたり無視したりするでしょう?
     悪気がある訳じゃないの。
    それは私たちの原罪なの。

   彼女はそう云って煙草を吹かした

  僕等はこの雨が止む頃離れ離れになる

 それは決して哀しい事じゃないのだ

ただ

 ただ雨の夜に君と僕のはその時同じ空気を吸い

   同じ時代を生きているだけなのだ

    原罪なの

     たぶん雨の夜に

      彼女が告げた言葉を想い出すだろう

       雨の

        雨の夜に


































       
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