獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

佐藤優『国家の罠』その43

2025-03-06 01:10:44 | 佐藤優

佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優『国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
□第3章 作られた疑惑
 □「背任」と「偽計業務妨害」
 □ゴロデツキー教授との出会い
 □チェルノムィルジン首相更迭情報
 □プリマコフ首相の内在的ロジックとは?
 □ゴロデツキー教授夫妻の訪日
 □チェチェン情勢
 □「エリツィン引退」騒動で明けた2000年
 □小渕総理からの質問
 □クレムリン、総理特使の涙
 □テルアビブ国際会議
 □ディーゼル事業の特殊性とは
 □困窮を極めていた北方四島の生活
 □篠田ロシア課長の奮闘
 □サハリン州高官が漏らした本音
 □複雑な連立方程式
 □国後島へ
 □第三の男、サスコベッツ第一副首相
 ■エリツィン「サウナ政治」の実態
 □情報専門家としての飯野氏の実力 
 □川奈会談で動き始めた日露関係
 □「地理重視型」と「政商型」
 □飯野氏への情報提供の実態
 □国後島情勢の不穏な動き
□第4章 「国策捜査」開始
□第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


エリツィン「サウナ政治」の実態

1994年当時、エリツィン大統領の健康状態は比較的良好だったので、側近たちは「サウナ政治」を好んだ。
ロシアの要人が使うサウナは独特の形になっていて、サウナには必ず食堂が併設されている。まずウオトカをショットグラスに2、3杯、一気のみする。それからサウナに入って汗を出す。この後、17、8度の水風呂に入る。そして今度は、チョウザメの薫製、ハムやサラミソーセージ、キュウリやニンニクの漬け物をつまみにまた2、3杯ウオトカを飲む。ロシアでは、ひとりでちびちび酒を飲むのはルール違反で、かならずなにか乾杯の口上を述べ、みんなで一気のみをする。これで友情が深まっていくのである。
サウナに入ると新陳代謝が進み、酔いが早く回るが、アルコールもすぐ外に出るので、いくらでもウオトカを飲むことができる。この宴会を5、6時間続けると一人あたり3、4本のウオトカを消費することになる。
前にも述べたが、ロシアの酒飲み政治家は酒を飲まない者を信用しない。酒を飲んだときと素面のときの発言や態度の変化をよく観察して人物を見極めるのである。
エリツィン氏の場合、酔いが回ると、サウナの中では白樺の枝で友だちの背中を叩いたり、また、男同士で口元にキスをしたりする。3回キスをするのがしきたりだが、3回目には舌を軽く相手の口の中に入れるのが親愛の情の示し方である。もう少しレベルの高い親愛の情の示し方もあるのだが、それは日本の文化とかなりかけ離れているのでここでは書かないでおこう。
酔いが回ったところでエリツィン氏の大好物であるウラル風水餃子(ペリメニ)が出される。エリツィン氏は機嫌がよいとスプーンで皿やコップを叩いて音を出しながら愛唱歌「ウラルのナナカマド」を歌う。そうすると宴会はそろそろお開きだ。
そこで、側近たちは、大統領に懸案となっている人事や大統領令について相談する。もちろん大統領は宴会の雰囲気を壊したくないので、信頼する側近の見解を尊重する。このようにして、サウナ・パーティーの数日後には、数多くの人事や大統領令が発表されるのである。
この当時、1年間に公布される大統領令は1500程度、大統領決定は3000から4000にのぼった。これらの公文書にはエリツィン氏の署名が必要とされるが、こんなにたくさんの書類に署名しているとそれだけで大統領の仕事時間が終わってしまう。そこで、大統領署名機という書類をはさむとエリツィン氏のサインがなされる機械まで作られた。このようなサウナ政治は、96年にエリツィン氏が心臓バイパス手術で入院するまで続くのである。
サスコベッツ氏は、このサウナ政治の中心人物だった。飯野氏をはじめとする三井物産のロシア専門家集団が、そのサスコベッツ氏ときわめて良好な人脈をもっているというのは、実に興味深いことだった。

私は飯野氏と会う直前、ナポリG8サミット(主要国首脳会議)の応援出張に行ったが、そこで橋本龍太郎通産大臣とサスコベッツ第一副首相の通訳をした。当初、30分程度の表敬の予定であったが、話がはずみ、会談は1時間を超えた。このときサスコベッツ氏は橋本氏に好印象をもつ。それがサウナ政治でエリツィン氏に伝わり、クラスノヤルスク会談後の戦略的提携路線への土壌を作るのである。
後に私はサスコベッツ氏とサシで会える関係になり、それは96年夏に同氏が失脚してからも続いた。

 


解説
1994年当時、エリツィン大統領の健康状態は比較的良好だったので、側近たちは「サウナ政治」を好んだ。
(中略)ロシアの酒飲み政治家は酒を飲まない者を信用しない。酒を飲んだときと素面のときの発言や態度の変化をよく観察して人物を見極めるのである。
エリツィン氏の場合、酔いが回ると、サウナの中では白樺の枝で友だちの背中を叩いたり、また、男同士で口元にキスをしたりする。3回キスをするのがしきたりだが、3回目には舌を軽く相手の口の中に入れるのが親愛の情の示し方である。もう少しレベルの高い親愛の情の示し方もあるのだが、それは日本の文化とかなりかけ離れているのでここでは書かないでおこう。


エリツィンの「サウナ政治」……おぞましいですね。
現代の日本から見るとコンプライアンス的にアウトだと思うのですが、当時の佐藤氏や鈴木宗男氏はその現実を受け止め、エリツィン大統領の政治スタイルに合わせようと、涙ぐましい努力をしました。
日本の国益を守るためには、そこまでしなくてはいけなかったということでしょうか。

 

獅子風蓮