カーペンターズのことをもっと知りたくなり、こんな本を読んでみました。
レイ・コールマン『カレン・カーペンター栄光と悲劇の物語』(福武書店、1995.02)
かいつまんで、引用します。
(もくじ)
□序文(ハーブ・アルパート)
□プロローグ
□第1部 涙と恐れ
□第2部 栄光のアメリカン・ドリーム
■第3部 孤独な心
7)悲劇の予兆
8)相つぐヒットの陰で
9)ショービズ界の恋
□第4部 坂道
□第5部 両海岸ブルース
第3部 孤独な心
7)悲劇の予兆
(つづきです)
その後、1972年の夏のツアーの起点となったヒューストンのコンサートで、その曲をはじめて披露した。「新しいアルバムからちょっと一曲」とリチャードが言い……〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉の演奏へと入ると、群衆はやんやの喝采を浴びせた。
そのツアーのあいだずっと、その曲にたいする観客の反響が大きかったので、リチャードとカレンは顔を見合わせ、戸惑った。アルバムからの一曲がそれほどの大きな反響を呼ぶとは考えてもみなかったのだ。何がなんだかわからないうちに、その成功にはずみがついていった。
「A&Mの日本支社があの曲を独自でシングル・カットして、ゴールド・ディスクになったんですよ」
リチャードが言う。
「まもなくリン・アンダースンがレコーディングして、それがカントリー・チャートのトップになった。あの曲についてはいろいろ手紙をもらいましたよ。子供たちがぼくたちの実家にやって来て、両親に訊いたりもしたようです。いつ小さなレコードは出るのかってね。シングルのことですよ。リクエストだけでチャートに入れたラジオ局もありました」
しかしながら、アメリカではそうした不思議な形をとってヒットが生まれることはめったにない。リチャードとカレンは1年間というもの、その曲にたいする大衆の関心が高まっていくのを見守ったが、あいかわらずアルバムのなかの1曲という位置にとどまった。シングルにするのなら、もっとすばやく動けばアルバムの売上げも伸びたのではなかろうか。だがようやく、1972年も後半に入ったころになって、彼らはその曲をリミックスし、シングル盤をつくる決心をした。9月、ラスヴェガスに飛んだ彼らは、ステージからそれを“次のシングル”として紹介した。
だが、それを聞いたA&Mレコードのギル・フリーザンにはべつの思惑があった。ラスヴェガスのローカル・ラジオ局がアルバムから〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉をかけ、これが次のシングルだとDJが紹介するのを聞いたとき、彼はわざわざラスヴェガスに飛び、楽屋にいたカーペンターズに、〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉はシングル・リリースしない、と言った。たしかにヒットになる可能性はあるが、同じアルバムからあまりにも多くのシングルがすでにカットされているからだめなのだ、とフリーザンは付け加えた。
そうしたやりとりの結果、リチャードは放送でそのことを言ったDJに苛立ちを覚えながら、リリースを諦めた。
だが1972年6月から1973年9月のあいだに、〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉には永遠のヒット曲となる兆候がいろいろとありすぎて、リチャードは無視できなくなった。ファンからの要求も動きはじめた。リチャードは大いなる可能性に気づいた。いずれにせよ、フリーザンやほかの人々は〈シング〉のときにも疑問を抱いたが、結果はすばらしいものだったじゃないか! 今度は誰にも邪魔させない、自分の直感を信じよう。
リチャードは車を勢いよくカーヴさせ、A&Mレコードの駐車場に入った。フリーザンが歩み寄る。
「聞いてくれ。〈シング〉にかんしてわたしはたしかに間違っていた。〈イエスタデイ・ワンス・モア〉が大好きだったんだよ。だがとにかくもう、シングル・カットの選曲についてはもう何も言わないことにするよ」
「よかった。〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉はリリースすることにしましたから」 リチャードが即答した。
カレンはオリジナルのヴォーカルに不満な点があり、その他にも改良すべき点がいくつかあったので、録音し直すことになった。バディー・エモンズのスチール・ギター、トニー・ペルーソのエレクトリック・ギターを加えたサード・ヴァージョンはヒット・チャートを駆けのぼり、(〈遥かなる影〉についで)2曲目のナンバーワン・ヒットとなった。5位まで行ったイギリスでは、この曲は現在も人気があり、よくラジオから流れてくる。アップビートな歌詞は幅広い層にそれぞれ異なる感情を訴えかけ、宗教的な歌だとかスピリチュアルな歌だとかとらえる人すらいたのである。
「トップ・オブ・ザ・ワールド」
なんて素敵な気分なのかしら
見るものすべてが驚きよ
大空には雲ひとつなく
目にはお日さまが映るだけ
これが夢でも
ぜんぜん驚かないわ
私が望んでたものが全部
今 特別に叶えられようとしてる
理由はカンタン
それはあなたがここにいるから
あなたは私が知る中で
最高に天国みたいな人
私は今世界のてっぺんから
下界の創造物を見下ろしてる
その理由はただ一つ
あなたと出逢って知った愛のせい
あなたの愛が私を
世界の頂上に舞い上がらせたの
(以下省略)
【解説】
名曲〈トップ・オブ・ザ・ワールド〉は、いろいろな経緯を経て、シングルカットされたのですね。
この曲もアメブロで紹介したいと思います。
このシリーズは終わりです。
獅子風蓮