獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

イスラエル人材が最新ITを牽引する その2)

2024-09-19 01:50:10 | キリスト教・ユダヤ教・イスラム教

d-マガジンでこんな興味深い記事を読みました。

引用します。


ニューズウィーク日本版 9月17日・24日号

イスラエル人材が最新ITを牽引する

世界的企業の研究開発を支えるのは
徴兵制によるテック人材の育成システム

(つづきです)

「8200部隊」の出身者とは

そうした学生は大学を卒業した時点で軍に入隊し、有給の職務経験を軍で積み、能力を磨くことになる。イスラエル外務省のイノベーション開発部門を率いるラン・ナタンゾンによれば、軍ではスタートアップなどで革新的な開発を行うための「リーダーシップ」「チームワーク」「共同ミッション」「ネットワーキング力」を学ぶという。
また優秀なエンジニアなどは、イスラエル軍の「シギント」活動を担う「8200部隊」に配属され、国防の最前線でその腕を磨く。シギント活動とは、シグナルインテリジェンスの略で、通信の傍受や監視、ハッキングやサイバー攻撃などを指す。筆者が知るエンジニア出身のスタートアップ経営者などは、この8200部隊の出身者が少なくない。軍の実戦で身に付けた経験から、本当に民間が求める民生技術のアイデアを練り出す。
軍から最長5年で除隊すると、一般社会に出る時点で立派な即戦力になっている。イスラエルはこうしてエンジニアやプログラマーなどを育てており、世界的に見ても能力の高いエンジニア人材の宝庫となっている。そのイスラエルの技術力が、シリコンバレーをはじめとする世界的なテック業界を支えているのである。
先端技術を生み出すスタートアップ国家という立ち位置を生き残りの一つの手段として推し進めるイスラエル政府は、この「エコシステム」(*)を全面的にバックアップする。政府はイノベーション庁などを通して、スタートアップに多額の投資を行っている。イスラエル政府は現在、R&Dへの投資にGDPの6%(約170億ドル)を投資しており、この割合は世界で最も高い。
加えて、イスラエル外務省のナタンゾンによれば、「テック業界が盛り上がる環境が整っている」と言う。
「スタートアップに投資を行うベンチャーキャピタルファンドも400近く活動している。また企業をいろいろな側面から支援するインキュベーターも19組織あり、起業家たちはビジネスに集中できる」
そんなイスラエルが今、最も注目しているのがAI分野だ。世界のAI投資を「投資」「革新」「導入」で評価した「グローバルAI指標」によれば、イスラエルは現在、世界第7位にランクしている。ちなみに日本は12位だ。「いま政府は、今後何年かにわたってこの分野でのイスラエルの継続的なリーダーシップを確保することを目的とし、省庁横断でAI開発のための国家プログラムに約27億を投資している」と、ナタンゾンは言う。
必要に迫られた国防意識から始まった、世界に先駆けた革新技術の開発によって、今では世界から一目置かれる存在になったイスラエル。その長年培ってきたエコシステムによって、昨年10月のハマスによる大規模テロとその後の戦争状態の中でも、イスラエルのテック分野は足踏みすることなく投資を呼び込んだ。
テロ以降、イスラエルのテック人材の15%は戦争に招集されたが、スタートアップなどはテロ後の6ヵ月で総額31億ドルの投資を呼び込んでいる。テロの脅威の前にも止まらない イスラエルのイノベーション部門の強靭さが確認されたことになる。
それもまた、世界のテック企業がイスラエルを信頼する理由だ。


*エコシステム:経営・IT分野の新語。 複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。

 


解説

軍から最長5年で除隊すると、一般社会に出る時点で立派な即戦力になっている。イスラエルはこうしてエンジニアやプログラマーなどを育てており、世界的に見ても能力の高いエンジニア人材の宝庫となっている。そのイスラエルの技術力が、シリコンバレーをはじめとする世界的なテック業界を支えているのである。

イスラエルでは、軍がテック分野をけん引しているのですね。これでは、日本はかなうわけありません。

日本ではイスラエルのように徴兵制がありませんので、それに代わる有効な「エコシステム」を開発するしかありませんね。


獅子風蓮


イスラエル人材が最新ITを牽引する その1)

2024-09-18 01:22:06 | キリスト教・ユダヤ教・イスラム教

d-マガジンでこんな興味深い記事を読みました。

引用します。


ニューズウィーク日本版 9月17日・24日号

イスラエル人材が最新ITを牽引する

世界的企業の研究開発を支えるのは
徴兵制によるテック人材の育成システム


今年2月、イスラエルのテルアビブ大学で、最先端AI(人工知能)技術の進化や課題、最新トレンドを議論するイベント「AI Day」が開催された。
もともとこのイベントは1週間の日程で行われる予定だったが、昨年10月7日にイスラム組織ハマスが大規模テロを起こし、イスラエルが戦争状態に入っていたために開催が危ぶまれていた。だが、イスラエルのテクノロジー分野はテロに屈服しない、という意思を世界に示すため、1日限定でイベントは開催された。
筆者はこのイベントを取材するためにイスラエルを訪れていた。大学内の講堂で行われたイベントの冒頭には、進行役のテルアビブ大学関係者が「空襲警報が鳴ったら速やかに避難していただく」とステージ上でアナウンスし、戦時下の緊張状態にあることを再認識させた。
ただ、常に戦争と隣り合わせのこの日常こそがまさに世界のIT業界を支えるテック大国イスラエルの礎になっていると言えるだろう。
ユダヤ人国家であるイスラエルが、世界の名だたるテック企業を牽引していることはよく知られている。2024年現在の世界的企業の時価総額ランキングを見ると、トップ企業の多くは創業者や経営者がユダヤ系だ。アップル、マイクロソフト、アルファベット、メタ、インテル、オラクルなど、現代の世界を支える企業が名を連ねている。
またユダヤ系企業でなくとも、イスラエルの優れた技術を開発するスタートアップ(新興)企業を買収するなどしてイスラエル発のテクノロジーを獲得している世界的企業も数多い。その規模は22年に総額169億ドルにも上っている。
過去の有名なケースでは、06年に記録媒体で有名なサンディスクがイスラエル企業が開発したUSBドライブ技術を買収している。17年にはインテルが自動運転技術を開発するイスラエルのモービルアイを買収し、大きな話題になった。時価総額でアップルを抜いて話題になった半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)も今年、AI管理ソフトを開発するイスラエル企業を買収した。
そもそもイスラエルには、有能なテック人材が多い。そのため、世界中の企業が買収を視野にスタートアップに注目しているだけでなく、こぞってイスラエルにR&D(研究開発)の拠点を置いている。その数は現在、433企業にもなり、マイクロソフトやIBM、インテル、シスコ、クアルコム、シティバンク、シーメンスなど枚挙にいとまがない。


技術と科学に生存を懸けて

なぜイスラエルは技術力の高いテクノロジーを開発する有能なテック人材を輩出できるのか。その背景には、イスラエル独特の国家型エコシステム(*)がある。その鍵を握るのが「徴兵制」で、つまり軍事部門が重要な要素となっている。
このエコシステムを理解するのには、まず国の成り立ちを知る必要がある。日本の四国ほどの面積のイスラエルには現在、約955万人が暮らす。イスラエルは、宗教対立を抱え、領土をめぐって長く争うアラブ諸国に囲まれている。北はレバノンやシリア、東にはヨルダン、南にはエジプトが存在する。
1948年の独立から現在まで、周辺のアラブ諸国とは4度も戦火を交えている。イスラエルには3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の聖地エルサレムがあり、その帰属をめぐって、パレスチナ人が暮らすパレスチナ自治区とも敵対。特にイスラエル南部のガザ地区を拠点とするハマスとは、何度も軍事的衝突が起きている。
昨年10月に、ハマスの戦闘員らがイスラエルに侵入して約1200人が殺害されたテロ事件は記憶に新しい。イスラエル政府はハマス殲滅を掲げて今もガザ地区に報復攻撃を続けており、これまでに民間人を含め4万人以上が死亡している。
ハマスなど反イスラエル勢力による攻撃も、これまで何度も繰り返されてきた。イスラエルの背後には地中海が広がり、まさに背水の陣の様相で生存を懸けて戦ってきた。
そうした現実から、イスラエルは早い段階から自国を守るための軍事力に力を入れ、独自のエコシステムを確立してきた。
テルアビブ大学教授でイスラエルのIT部門を政府内で牽引してきたアイザック・ベンイスラエル少将は、「イスラエルは建国前から、天然資源のない国がいかに生き残れるのかを真剣に考えてきた。そこで必要なのは、教育や科学、テクノロジーの分野で他国に抜きんでることだとの認識を持つようになった」と話す。
そして建国後の貧しい時代にも、政府は、周辺の敵から身を守るための防衛技術につながる科学的な研究やテクノロジー開発を重要視して投資を行ってきた。現在では「デュアルユース(軍民両用)」と呼ばれる技術の開発だ。


1967年のフランスショック

大きな転機が訪れたのは66年。イスラエルと、エジプトやシリア、ヨルダンなどアラブ諸国の間で、第3次中東戦争、いわゆる6日間戦争が勃発した。それまで武器調達で依存していたフランスがアラブ諸国に肩入れすることを決め、イスラエルに対する武器禁輸措置に踏み切った。
このフランスの動きにショックを受けたイスラエルは、軍事部門における他国への依存度を減らす必要があると悟る。そこで国内の防衛分野やそれに関わるテクノロジー分野への投資を強化するようになり、そこから目覚ましい急成長を遂げることになった。さらに、自分たちの戦力を高めるだけでなく、開発した技術を輸出する知識集約型のハイテク分野の構築に焦点を置いた。アラブ諸国に対する地政学的な劣勢を埋め合わせるために、IT技術に傾倒していったというわけだ。
ベンイスラエルは、「そのおかげで70年代には、低賃金で雇える有能な科学者やエンジニアが数多く育っていた」と言う。80年代には既にIBMやインテル、モトローラなどが次々とイスラエルに研究開発センターを設置するようになっていた。
90年代半ばにパコソンや携帯電話が一般にも普及するようになると、イスラエルのそれまでの投資も実り、世界有数のIT国家として知られるようになった。防衛意識から生まれたイスラエルのIT分野は順調に成長を遂げ、スタートアップも数多く生まれている。
IT分野の成長を支える重要な要素が、イスラエル軍の徴兵制度だ。ベンイスラエルは、「意外に思うだろうが、徴兵制こそがイスラエルの技術的な革新を可能にしている」と言う。「端的に言えば、イスラエルがテック分野で成功した秘訣は『大規模な戦略』が根底にある。その戦略は、イスラエルの置かれている過酷な地政学的環境から生まれた。その戦略の大事な要素は、質で優位に立つことと、大規模な研究開発の取り組みを推進することだ」
イスラエルでは、18歳になれば国民はイスラエル軍に入隊する義務がある(アラブ系など一部免除あり)。男性は2年8ヵ月、女性は2年、イスラエル軍に所属して、国防の現場で勤務する必要がある。また、40歳までは予備役として登録される。
実はこの徴兵制は武器を持って戦闘をすることだけが目的ではない。優秀な人材を育成するための重要な役割を担っている。
イスラエル軍の人事部は、19歳のイスラエル人の若者を全て、入隊前にスクリーニングする。その際に、科学やエンジニア部門で秀でた人材を青田買いして、軍が学費を負担して徴兵時期を延期するなどの支援をしながら専門的な分野に送り込む。実際に毎年、1000人ほどの優秀な高校生が軍に入隊する前に大学へ送り込まれる。


*エコシステム:経営・IT分野の新語。 複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナーシップを組み、互いの技術や資本を生かしながら、開発業者・代理店・販売店・宣伝媒体、さらには消費者や社会を巻き込み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組み。

(つづく)


解説

なぜイスラエルは技術力の高いテクノロジーを開発する有能なテック人材を輩出できるのか。その背景には、イスラエル独特の国家型エコシステムがある。その鍵を握るのが「徴兵制」で、つまり軍事部門が重要な要素となっている。

興味深い話です。

日本はかつては世界を引っ張る技術大国でしたが、今では見る影もありません。

イスラエルのテック技術を推進してきた政策に、学ぶところがあるかもしれません。


獅子風蓮


聖書と歴史から読み解くユダヤ人とユダヤ教 その2)

2024-09-17 01:58:40 | キリスト教・ユダヤ教・イスラム教

中東の紛争を理解するには、その宗教と歴史から勉強する必要がありそうです。

d-マガジンでこんな記事を読みました。

引用します。


ニューズウィーク日本版 9月17日・24日号

聖書と歴史から読み解くユダヤ人とユダヤ教

ユダヤ人はなぜ世界に離散したのか? 
多くの優秀な人材を輩出したのはなぜか? 
ユダヤを知れば今の世界が見えてくる

嶋田英晴
(同志社大学一神教学際研究センター共同研究員)

(つづきです)

共同体を維持できた理由

神殿を失った離散のユダヤ社会では、200年頃、ダビデ王の子孫でユダヤ社会の指導者でもあったラビ・ユダ・ハナスィが生活原理の規範となる口伝律法であるミシュナを編纂した。これを基にラビたちの法解釈が連綿と積み重ねられ、やがて4世紀末および5世紀末にそれぞれ口伝律法のパレスチナ・タルムード、バビロニア・タルムードが結集された。こうして、ユダヤ社会はかつての神殿祭祀を脱し、ラビたちの指導による聖書(成文律法)やタルムード(口伝律法)の研究解釈を中心とするものへと変質していった。
このため、中世を経て近代に至るまでのユダヤ教はラビ・ユダヤ教と称される。ラビ・ユダヤ教の特徴は、2つのトーラー(律法)という信念である。すなわち神の意志は、成文トーラー(ヘブライ語聖書)と口伝トーラーによって二重にモーセに啓示されたとされ、成文トーラーに拘束されながらも、口伝トーラーによってそれを柔軟に解釈することで、環境の異なる新しい事態にも対処できるようにした。
ディアスポラのユダヤ人は、キリスト教国家やイスラム国家において、寄留民として独自の共同体を形成し、ユダヤの律法と宗教的伝統を守り抜くことにより、移住地の社会に溶け込まず、民族としてのアイデンティティーを保ち続けた。このことが、各地でユダヤ人が偏見と迫害にさらされる大きな要因の1つとなった。
そのユダヤのアイデンティティーを維持するため、ユダヤ社会に不可欠の制度が既に古代からラビたちによって明確に意識され定義されていた。タルムードによれば、それは賢者の子弟が住む社会に必要な10の条件とされている。それは、①ベート・ディーン(3人で構成される法延)、②慈善のための基金、③ベート・クネセト(シナゴーグ・ユダヤ人会堂)、 ④公衆浴場、⑤公衆便所、⑥医師、⑦外科医、⑧書記、⑨資格を有する家畜屠殺人、⑩子供の教師、である。
各地のこうした共同体から成り立つユダヤ社会のユダヤ人は、ササン朝ペルシアや旧ローマ帝国領内などで農業や商業を営んでいたが、7世紀以降両帝国の版図の大半がイスラム勢力によって征服された。そのため当時世界のユダヤ人口の90%以上がイスラム世界で居住することとなった。広大なイスラム世界では、非ムスリムはイスラム法の優越を認め、人頭税と土地税を支払えば、生命・財産・信仰の自由と共同体ごとの自治が保証された。
このためユダヤ人はイスラムによる支配を歓迎し、やがてその多くが離農して都市居住者となり、商業、手工業や金融業をはじめとするさまざまな職業に従事するようになった。イスラムは、宗教宗派や民族などの違いを超えてそれぞれの長所を積極的に活用したため、ユダヤ人も大いに活躍してイスラム世界の繁栄に貢献した。
ディアスポラのユダヤ社会がいかにして横のつながりを維持していたかについてはさまざまな要因が考えられるが、イスラム世界に関しては以下のとおりだ。イラクとパレスチナ(ティベリア)に存在したユダヤ教学の学塾(イェシヴァ)塾長(ガオン)の指導の下に、ラビたちが各地の共同体から寄せられる律法に関する問い合わせに対して、宗教規範に即した回答を与えていた。その結果、それまでイラクやパレスチナの学塾の周辺のみで通用していた ラビ・ユダヤ教のタルムードの伝統が遠隔地の共同体にまで次第に浸透していき、イラクやパレスチナを中心とした各地の共同体相互の交流や精神的絆が大いに促進された。このことが各地のユダヤ人がさまざまな活動を行う際の強力なネットワークとして機能した。
一方ヨーロッパでは、特に11世紀末から始まった十字軍派遣頃から、「新約聖書」でキリストを裏切ったユダへの憎悪になぞらえる形で、異教徒討伐の名の下にユダヤ人迫害が激化し、ライン川流域のユダヤ共同体などが襲撃された。またこの頃からユダヤ人は全ての組合から排除されるようになり、キリスト教徒に禁止されていた金融業に従事するようになった。ベストの流行や儀式殺人の疑いも迫害の原因となった。
1492年にイスラム勢力を掃討してキリスト教による国土統一を完成したスペインでは、ユダヤ人に対する追放令が発せられ、改宗か追放を迫られた。さらにイタリアでは、16世紀半ばにユダヤ人を集団隔離する居住区ゲットーが現れ、西欧各地に広まった。一方、主にドイツを中心とする西欧に居住していたユダヤ人は、迫害を逃れてポーランドなど東欧へ移住して繁栄したものの、17世紀半ばに幾度も迫害を受けた。
数々の差別・迫害を受けてきたユダヤ人であったが、ユダヤ人自身による解放を模索する動きもあった。しかし、実際にユダヤ人解放の契機となったのは、フランス革命とナポレオンによるゲットーの解体に伴うユダヤ人解放と、市民権の付与、そしてその潮流の西欧各国への伝播であった。こうして、西欧各地でユダヤ人の解放が進み、各界への進出が見られた。
しかし、これでユダヤ人差別が解消されたわけではなかった。ユダヤ人の各界への目覚ましい進出ぶりは、周囲の激しい妬みや反感を買い、19世紀後半になると西欧で民族主義が活発化し、反ユダヤ主義が台頭するようになった。またロシアでは、度重なるポグロム(ユダヤ人大虐殺)により多くのユダヤ人が犠牲になった。そんな中で、1894年にフランスで起きたドレフュス事件(ユダヤ人陸軍大尉がスパイ容疑で逮捕された冤罪事件)を契機に、ユダヤ人はその故地シオンの丘に帰還して自らの国家を再建すべきであるというシオニズム運動が盛んになった。
20世紀に入ると、ロシアで再びポグロムが発生し、多くのユダヤ人がアメリカに移住したが、この時パレスチナに移住したシオニストが後にイスラエル建国の基礎を築いた。第2次大戦では、ナチスによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)により600万人のユダヤ人の命が奪われるという大きな悲劇に見舞われた。度重なるポグロムやホロコーストに対抗する形でシオニズムが発展し、世界各地からパレスチナに多くのユダヤ人が移民した。
1948年にパレスチナのユダヤ人たちはイスラエル国家の独立を宣言した。ところが、これによりこの地域に居住していたアラブ人(パレスチナ人)が排除され、多くの社会的・政治的問題が生じた。これ以降、イスラエル/パレスチナ問題は、今日に至るまで中東地域ひいては世界で最も解決が困難な問題の1つとなっている。


ユダヤ人はなぜ「優秀」か

ユダヤ人はよく優秀な人物や大富豪を数多く輩出すると言われる。しかしその理由について説明することは極めて困難である。ユダヤ人はしばしば迫害や追放を受けたため、持ち運ぶのが可能なものは自分の頭にしまい込める知識や知恵であるとして、教育や学問を極めて尊ぶ精神や環境が大きく作用していることは間違いない。しかしここでは、ヘブライ語聖書に登場する1つのエピソードに的を絞って考えてみたい。
「創世記」に登場するヤコブは、祝福を求めることに対して誰よりも貪欲であった。ヤコブは兄エサウから長子権を奪っただけでなく、父イサクをだましてその祝福をも得た。さらに後に彼は神と格闘し、これに勝利するや否や、神による祝福を求めた。そして神から祝福を授かっただけでなく、もはやヤコブではなく「イスラエル」と改名するようにと告げられた。「イスラエル」とは、「神と人(複数形)と争い、これを「克服する者」を意味する。ユダヤ人は主に知的領域において常に神と格闘し、ユダヤの神はこれに対し「よく付き合って」くださる。ヤコブと神と人々との格闘に象徴される精神活動を通して、ユダヤ人の知的活動 は比類なき奥深さと独自性に至る。
ヤコブは兄のエサウと和解し祝福を返したが、この「格闘」は現在のユダヤ人に引き継がれている。問題は祝福としての「神の意志」の解釈である。ユダヤ人が祝福を自利のみと解釈すれば、世界に未来はないだろう。しかし彼らが祝福を自利・利他的なものと捉えるならば、まだそこに希望は残っている。

 


解説

20世紀に入ると、ロシアで再びポグロムが発生し、多くのユダヤ人がアメリカに移住したが、この時パレスチナに移住したシオニストが後にイスラエル建国の基礎を築いた。第2次大戦では、ナチスによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)により600万人のユダヤ人の命が奪われるという大きな悲劇に見舞われた。度重なるポグロムやホロコーストに対抗する形でシオニズムが発展し、世界各地からパレスチナに多くのユダヤ人が移民した。

図を見ると、アメリカに多くのユダヤ人がいることが分かります。イスラエルの人口に迫る数です。

アメリカの政策がイスラエルに偏りがちになるのもそのせいなのですね。

 

ヤコブは兄のエサウと和解し祝福を返したが、この「格闘」は現在のユダヤ人に引き継がれている。問題は祝福としての「神の意志」の解釈である。ユダヤ人が祝福を自利のみと解釈すれば、世界に未来はないだろう。しかし彼らが祝福を自利・利他的なものと捉えるならば、まだそこに希望は残っている。

やはり、宗教間の紛争を根本的に解決するには、それぞれの宗教が、「神の意志」を利他的に解釈する必要がありそうです。

仏教の利他の精神も、そこに協力できればいいのですが。

けっして、仏教への改宗を進めるという意味ではなく。

 

獅子風蓮


聖書と歴史から読み解くユダヤ人とユダヤ教 その1)

2024-09-16 01:48:30 | キリスト教・ユダヤ教・イスラム教

中東の紛争を理解するには、その宗教と歴史から勉強する必要がありそうです。

d-マガジンでこんな記事を読みました。

引用します。


ニューズウィーク日本版 9月17日・24日号

聖書と歴史から読み解くユダヤ人とユダヤ教

ユダヤ人はなぜ世界に離散したのか? 
多くの優秀な人材を輩出したのはなぜか? 
ユダヤを知れば今の世界が見えてくる

嶋田英晴
(同志社大学一神教学際研究センター共同研究員)


今年10月3日で世界各地のユダヤ人が用いるユダヤ暦は5785年を迎える。その起点は聖書に記された「天地創造」である。
ではユダヤ人とは一体何なのか。中世以来の定義によれば、ユダヤ人の母親から生まれた者、もしくはユダヤ教への改宗者である。これはどの民族にも通じることだが、ユダヤ人は自らのアイデンティティーを保持しながら生き残るために努力する。それはユダヤ人が神と契約を結び、神に選ばれた民として生きることにより、「神の意志」を地上に実現することを自らの使命と捉えた時以来、ユダヤ人が自らに課してきた定めだと言える。ではその神の意志とは何なのか。


神と交わした契約

ユダヤ人の信じる『ヘブライ語聖書』(構成は異なるがキリスト教でいう『旧約聖書』に相当)によれば、神は最初の人間アダムを創造してこれを「祝福」した。祝福とは繁栄や幸福などを引き起こすために発せられる神の言葉だ。しかしアダムは「悪への衝動」に負けて神に背いてしまう。そこで神はアダムの子孫のアブラハム(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教で「信仰の父」とされる)という人物に目を留める。
アブラハムは、ユダヤ人を含むイスラエルの民の祖先である。紀元前18世紀頃、神によって召命され(選ばれ)、神の示す地へ移住することを命ぜられた。神は彼と契約を結び、彼を祝福してその子孫を大いに増やすこと、彼とその子孫に永久にカナンの地(現在のイスラエルとパレスチナ)を与えること、そして彼とその子孫を通して全人類を祝福することを約束した。神はアブラハムの息子のイサク、孫のヤコブとの間にも同様の契約を結んだ。ヤコブは、後にイスラエルと名前を変え、その12人の息子たちはイスラエル12部族の祖となった。そして現在のユダヤ人を構成しているのは、そのうちのユダ族、ベンヤミン族、レビ族である。
ヤコブと共にエジプトに移住したイスラエルの民は、その後400年にわたって奴隷となっていたが、紀元前13世紀頃、預言者モーセが神によって召命されイスラエルの民をエジプトの圧政から解放し、シナイの荒野へと導いた。そこで神はモーセに十戒をはじめとする律法を授けた。
古代イスラエルの宗教の系譜を引くユダヤ教は、超越的な神がこの世界の人間たちに対して現れる現象、すなわち啓示を基盤とする宗教である。そしてユダヤ教では、啓示が「法」として理解され、モーセが荒野で授けられたとされる律法がその啓示である。
聖書の記述によれば、荒野で40年間の時を過ごしたイスラエルの民は、その間に律法に則した生活を送った。モーセの没後、後継者ヨシュアの下でカナンへと侵入したイスラエルの 民は、カリスマ的指導者である士師たちに従ってカナンの地の征服を進め、王国を築いた。第2代王のダビデはエブス(エルサレム)を攻略し、そこを首都としてカナンの全てを統治した。彼の下でイスラエルの民に対する神の約束が成就した。次の王ソロモンは、モーセが神から授かった十戒の石板を納めた「契約の箱(アーク)」を安置する壮麗な神殿をエルサレムに建設し、その治世下でイスラエル王国は繁栄を極めた。
しかし、ソロモン王の死後王国は北のイスラエル王国と南のユダ王国に分裂し、イスラエル王国はアッシリアによって、ユダ王国は新バビロニアによって滅ぼされた。この時神殿もエルサレムも破壊され、上層の人々はバビロニアに連行された(バビロン捕囚)。彼らは故国の滅亡の原因を、軍事力の強弱ではなく、唯一の神に対する信仰の多寡の問題と捉えたため、彼らは異邦人の地において、食物規定、安息日、割礼の遵守などの独自の規定を厳守することにより、自らを移住地の社会から切り離し、選民イスラエルとしてのアイデンティティーの維持に努めた。
やがて新バビロニアを滅ぼしたペルシア帝国のキュロス王により故地カナンへの帰還が許され、カナンに帰還した民によりエルサレムの神殿が再建された。もっともバビロンおよびその周辺にとどまった者も少なくなかった。その後、祭司エズラによるトーラー(律法)の朗読がなされ、ユダの民の悔い改めが行われた。後にペルシア帝国はアレクサンダー大王によって滅ぼされ、その支配の下でユダの民はヘレニズム文化と対峙して自らを「ユダヤ人」として強く自覚するようになった。ユダヤの地を支配したギリシャ系の王朝であるセレウコス朝がユダヤ人にヘレニズム文化を強制(偶像崇拝)したため、ユダヤ人は反乱を起こして独立を勝ち取った。


なぜユダヤ人は離散したのか

紀元前64年にはローマがセレウコス朝を滅ぼし、やがてユダヤはローマの属州とされてユダヤの民は圧政下に置かれた。こうした状況において、古くからその出現が期待されていた理想の王であるメシア(油を注がれた者=救世主)の到来が強く待望され、この頃登場したナザレのイエスこそメシアであると見なす人々は後にユダヤ人とはたもとを分かっていく。紀元66年にはユダヤ人迫害を機に第1次ユダヤ戦争(対ローマ戦争)が勃発し、激闘の末、70年にローマ軍によってエルサレムの第二神殿が破壊された。
この頃、ヘブライ語聖書の正典化が進み、ラビ(「教師」と呼ばれる俗人の律法学者)の称号を持つ賢者が台頭し、ユダヤ教は祭政一致から離脱して口伝律法の整備と祈りや学習の場所としてのシナゴーグ(礼拝・集会所)の利用が顕著になった。一方ローマに対する不満から、ついに132年に第2次ユダヤ戦争が勃発し、反乱鎮圧後にエルサレムはユダヤ人の出入りが禁止された。こうしてユダヤ人は本格的に世界中へと離散した(ディアスポラ)。

(つづく)

 


解説

ユダヤ人とユダヤ教の歴史を正しく知らないと、なぜイスラエルが領土にまつわる紛争をたびたび引き起こすのか、理解することはできません。

 

獅子風蓮


ガザ壊滅を正当化する論理

2024-09-15 01:45:54 | キリスト教・ユダヤ教・イスラム教

ロシアによるウクライナ侵攻に続いて、中東ではハマスによるテロとそれに続くイスラエルのガザ攻撃が止まりません。
一刻も早い停戦と和平を望まずにいられませんが、なんとガザ壊滅を正当化する論理というものがあるそうです。

d-マガジンでこんな記事を読みました。

引用します。


ニューズウィーク日本版 8月27日号
GAZA AND THE APOCALYPSE
ガザ壊滅を正当化するメシア信仰
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)

歴史を通じて、危機や悲劇はしばしば終末論的な解釈を引き起こし、世俗的な大惨事に神聖な、あるいは救済的な意味を与えてきた。これは一神教だけでなく、共産主義やナチズムにも見られる。人間は、サタン(悪魔)なしにはメシア(救世主)も存在しないと考えがちなようだ。
この論理がどれだけ危険なのか。それは、今のパレスチナ自治区ガザを見ればよく分かる。 ガザで起きている悲劇は、イスラエルやイスラム組織ハマス、そしてアメリカのキリスト教福音派のメシア幻想をあおっている。
イスラエルのネタニヤフ首相とその盟友で極右の宗教シオニスト党の神権的ファシストたちはガザの戦争を、聖書に記されたイスラエルの地(ヨルダン川と地中海に挟まれた地域)を完全支配するための前段階と見なしている。彼らにとってパレスチナ人は、この土地から完全に排除されるべき存在だ。
シオニストが掲げる終末論的な幻想には3つの段階がある。まず、国土を支配下に置く。次に、エルサレムの神殿の丘に「第三神殿」を建設する。そして最後の段階として民主主義を、イスラエル統治を神に任された「ダビデの王国」に置き換える。彼らはこの夢を実現するため、イスラエル政府が国内で民主主義や人権を侵害することを許している。
だが、メシアの到来を実現するには司法改革や入植地の建設だけでは不十分で、混乱や苦しみ、さらには聖書に預言がある終末の「ゴグとマゴグの戦い」が必要となる。イスラエルを根絶しようとする敵との戦いが勃発することで、メシアが到来すると考えられているのだ。
一部の狂信的な者たちは、ガザにおける戦争の引き金となった昨年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃を、ゴグとマゴグの戦いの始まりと見なしている。
メシア信仰を掲げるユダヤ人と同じような考え方を持つのが、アメリカのキリスト教福音派だ。彼らもガザの戦争を「神の計画を実行する契機になるもの」と見なし、終末を恐れるどころか待ち望んでいる。アメリカの著名な牧師ジョン・ヘイギーは、「イスラエルが大規模な戦争に関与しているときは喜べ。救済が近づいた証しだ」と語っている。
ハマスもメシア信仰のユダヤ人的イデオロギーを鏡写しにしている。1988年制定のハマス憲章では、「パレスチナの地」はイスラムの「ワクフ」(イスラム法の規定に基づく譲渡不可能な寄付)として「ムスリムの将来の世代にささげられる」もので、どの部分も「浪費または放棄」してはならないとされる。ハマスは2017年に発表した「一般原則と政策」でも、「ヨルダン川から地中海までのパレスチナの地の全面的かつ完全な解放以外のいかなる代替案も拒否する」と改めて表明している。
ハマスには通常のジハード(イスラム聖戦)組織とは異なる特徴がある。昨年10月のイスラエル襲撃では、過激派組織「イスラム国」(IS)などのテロ集団が使うような残虐な戦術を用いたが、ISや国際テロ組織アルカイダとは違って純粋に民族主義に駆り立てられた運動であり、世界規模の計画もない。
しかし先頃、ヤヒヤ・シンワールがハマス最高幹部の政治局長に任命された。これは強硬派がハマスの実権を握ったことを意味する。シンワールの下でハマスは、戦争と自己破壊を救済への唯一の道と見なすだろう。イスラエルとアメリカの宗教的狂信者たちも、その願望を共有している。
この聖なる地をめぐる終末的な闘争の脅威は、何としても外交で緩和すべきだ。さもなければ、狂信者たちの願いが達成されることになりかねない。

 


解説

ガザで起きている悲劇は、イスラエルやイスラム組織ハマス、そしてアメリカのキリスト教福音派のメシア幻想をあおっている。

彼ら原理主義者たちは、終末を恐れるどころか待ち望んでいるというのだ。

 

この聖なる地をめぐる終末的な闘争の脅威は、何としても外交で緩和すべきだ。さもなければ、狂信者たちの願いが達成されることになりかねない。

そもそも、同じ神を戴くユダヤ教+キリスト教とイスラム教が殺し合いをするのはおかしなことです。異教徒からみると愚かな争いに見えます。

しかもそれぞれの宗教の狂信者は、終末論を期待しているという。

いっそみんな仏教に改宗して、共存すればいいのに。広宣流布ですね。

創価学会に在籍していたころは、おおざっぱにそんな風に考えていました。

ユダヤ教、キリスト教とイスラム教の争いは、いわば外道同士の争いで、他人事でした。

創価学会の信仰から離れた今、私は「世界広宣流布」を自己の目標に立てることをやめました。

でも、中東の紛争に宗教の問題が根強くからんでいるのは確かなので、広い視野を持って問題解決を考えていきたいと思っています。

 


獅子風蓮