池田氏の逝去後、週刊文春では池田氏と創価学会に関する特集を組みましたが、d-マガジンでは、そういう目玉の記事は載せないようです。
しょうがないのでコンビニで立ち読みしました。
特集のあとに、こんな貴重な対談が載っていました。
せっかくなので、記録に残したいと思います。
週刊文春 11月30日号
緊急対談:
池上彰×佐藤優
池田“世界宗教”の内在的論理
国内会員世帯数827万、海外会員数280万(公称)を誇る創価学会を率いたカリスマとは何者だったのか。公明党議員への厳しい質問で知られる池上彰氏と『池田大作研究』などの著作がある佐藤優氏の最強コンビが徹底解剖する。
(つづきです)
宗教とネズミ講の違い
池上 信者を増やすという意味では現世利益というのも大きかったでしょうね。一生懸命頑張れば豊かになれるというのは、人々にとって信じるに値する。
佐藤 結局、宗教はこの世の問題を解決できないと駄目なんです。実はプロテスタントのカルヴァン派が発展したのも同じ理由です。神によってこの世で選ばれた確信を得るために成功しようと勤勉になる。そして、財産を生むことが出来る。それが即ち現世利益です。
池上 本人の努力ではない?
佐藤 ええ。あくまでも信仰のおかげです。だから、池上さんがジャーナリストとして成功しているのも、創価学会の視点からだと「お祖母さんが会員だったおかげ」となる。宗教は現世利益を捨てたら、社会で力を持てません。ただし、現世利益だけで来世の話がなくなるとその瞬間、宗教は金儲けのシステムになってしまう。ネズミ講は宗教的ですが、来世の話がないので、長続きしないのです。
池上 創価学会に対する国民の忌避感といえば、政党を作ったことも影響しているのでしょう。池田氏は1964年に公明党という政党を立ち上げた。池田氏が日本を“創価学会の国”にしようとしているんじゃないかというイメージを多くの人が持ったと思います。子どものころ読んだ聖教新聞には国立戒壇、つまり日蓮正宗を日本の国教にしようという掛け声が躍っていました(当時は、まだ創価学会は日蓮正宗から「破門」されていなかった)。
佐藤 いまは、違いますが、当時はそうでした。
池上 小学校以来ずっと音信不通だった同級生から、選挙前になると突然電話がかかってくる。そういうマイナスイメージのシンボルに池田氏はなってしまった。
佐藤 そこは学会員も苦悩していると思います。個人情報の取り扱いが厳しい時代に、昔の番号に電話をかけたり、家庭訪問したら嫌われるだろうなと思いながらやっている。それが公明党議員のためならまだいいのですが、選挙協力の関係で自民党のためにやらなきゃいけません。
池上 佐藤さんが公明党や創価学会を取材、研究しているのは、自民党の暴走を防ぐため、公明党がストッパーになるのを期待しているからですか?
佐藤 私の場合は単純に宗教的興味からです。世界観型の宗教の感覚からすれば、宗教と政治を切り離すのは不自然です。実際、学会の会合で講演する機会があったときに、「創価学会の集まりで公明党の話をしないとか、公明党の会合で創価学会の話をしないとか、嘘っぽくないですか」と言ったことがあるんです。政教分離は国家が特定の宗教を忌避したり優遇したりするのを禁止しているという話で、宗教団体が自らの判断で政治活動をするのは憲法上全く問題がありません。
池上 私がテレビ東京の選挙特番で、公明党の議員に創価学会との関係を聞くと、当初は口ごもった。視聴者から、「よく聞いてくれた」と言われることも多かったのです。ところが、最近は堂々と「創価学会のみなさんに助けてもらった」と語るので、こちらとしては聞く意味がなくなってしまった。
佐藤 創価学会の会員たちが選挙を頑張っている姿を世間に伝えてくれたと、いまでは池上さんは、学会内ではむしろ評判がいいようです(笑)。
池上 政治と宗教でいえば、安倍晋三さんが亡くなってから統一教会と自民党の関係が問題になりました。創価学会と統一教会の政治とのかかわりは、どう違うのでしょうか?
佐藤 根源的に人生の全ての領域を宗教観で律するという意味では統一教会もキリスト教のカルヴァン派も創価学会も同じなんです。ただ政治に関与する際の具体的行為として、違法だったり社会通念から著しく逸脱しているか否かが問題になる。かつて選挙違反事件で池田氏が逮捕された(判決は無罪)ことのある創価学会は必要以上に気を使っている部分がある。
ただ、創価学会の考えは、根源的に日本人に根付いている国家神道とは相いれない。創価学会は日本では少数派にとどまるのが宿命でしょう。
教団分裂の可能性は?
池上 そういう意味でもこれから注目すべきは海外での活動ですね。大きな注目点は、社会的な格差が拡大している中国です。
佐藤 池田氏は、江沢民元国家主席と会談するなど、諸外国の中でも中国との関係を重視しました。しかし、現状の中国では布教活動は認められていません。ただし、同国内には池田思想研究所があちこちにあり、潜在的な学会員は非常に多い。もし宗教が解禁されれば、すぐに1000万人の信者が誕生してもおかしくありません。現状でも日本を除くアジア大洋州だけで191万人の会員がいるそうです。人口減少が続く日本の会員数を超え、創価学会 はやがて中国でも無視できない規模の宗教団体になると思います。
池上 なるほど。
佐藤 宗教には「困った時の神頼み」のようなスポットで使うパターンAの他に、生活の全ての領域を宗教で律して実践するパターンBがある。創価学会は後者。西欧のプロテスタントなどはパターンAで、パターンBが実現できているのは、南米のカトリックやヒンズー教、イスラムあたりでしょうか。学会はこれらと同等の宗教的活力を持っている。池田氏は創価学会を世界宗教に発展させた人物だと私は評価しています。
池上 世界宗教とは大きくでましたね。創価学会が他の新興宗教と違い、世界宗教であるという“内在的論理”はどこにあると思いますか。
佐藤 例えば手をかざすと病気が治るとか特定の人の能力に依存するのではなく、ドクトリンを示すテキスト(経典)があることですね。そのテキストは、『聖書』や『コーラン』と同じように、誰でも努力をすれば読了できる分量でなければいけません。創価学会でいえば、『人間革命』12巻、『新・人間革命』30巻、そして日蓮が書いたと伝えられる御書がこれにあたります。『新約聖書』にあたるのが『人間革命』と『新・人間革命』です。その完結以降、池田氏はもう本を書いていない。さらに一昨年には創価学会独自の御書を完成させ、自らの『旧約聖書』をつくった。池田氏の存命中に、テキスト化が完了しているのです。
池上 池田氏というカリスマを失い、教団から離れていく人も今後増えていくと思います。実際、選挙でも公明党の比例票はかつての800万票から600万票に落ち込んでいる。退潮傾向が続き、分裂などが起こる可能性はないでしょうか。
佐藤 今まで学会活動にあまり参加せず献金もしていなかった人は、これが潮時だと離れていくでしょう。ただし本格的な分裂が起きるかといえば私は否定的です。分裂するには、かなりかちっとした別のドクトリンが必要になりますが、それが見当たらない。今後は、集団指導体制が続いていくと思います。
【解説】
佐藤 ……実はプロテスタントのカルヴァン派が発展したのも同じ理由です。神によってこの世で選ばれた確信を得るために成功しようと勤勉になる。そして、財産を生むことが出来る。それが即ち現世利益です。
プロテスタントのカルヴァン派が発展したのは現世利益のためだった、というのは初耳です。でも、これはさすがに言いすぎでしょう。
カルヴァン派のストイックな信仰態度と日本の新興宗教によく見られる(かつての創価学会を含む)御利益信仰を一緒にしては、カルヴァン派に申し訳ありません。
高校生の時に倫理社会で習った、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』によれば、カルヴァン派の人々は、自己の職業を、神によって与えられた「天職」と考え、そしてその職業で頑張ることがこの世の「神の栄光」を増すことであると信じたんですよね。そしてその職業において使命を達成し、成功し、さらに節約して禁欲する。これを行ったから救われるのではなく、これを行うことで「自分が救われているという確信が得られる」というわけでしょ。その結果として、資本が蓄積して、資本主義が発展したと。
佐藤 宗教には「困った時の神頼み」のようなスポットで使うパターンAの他に、生活の全ての領域を宗教で律して実践するパターンBがある。創価学会は後者。西欧のプロテスタントなどはパターンAで、パターンBが実現できているのは、南米のカトリックやヒンズー教、イスラムあたりでしょうか。学会はこれらと同等の宗教的活力を持っている。池田氏は創価学会を世界宗教に発展させた人物だと私は評価しています。
宗教の実践態度をパターンAとパターンBで分類したのは面白いですね。
「西欧のプロテスタントなどはパターンAで」あるというのは、にわかに信じられない感じがします。
創価学会を含めた日蓮仏法がパターンBだというのは、分かります。
よく故・友岡さんが言っていたことですが、日本人の中でちゃんとした宗教を持っているのは創価学会員だけだ、と。
そういう意味でのパターンBですね。
創価学会も、過酷な財務や新聞の多部購読、選挙運動への参加強要をやめて、純粋なパターンBの信仰だけに徹すれば、もっと発展すると思います。
もちろん、組織の中から嘘偽りをなくし、過去の過ちを認めることが前提ではありますが。
獅子風蓮