JTCの井原武人氏は、山本芳実あるいは佐倉敏明の名前で多数の文章を発表しています。
その中のいくつかは、創価学会、元本部職員の北林芳典氏のホームページ(地湧の電子書庫)のリンクで、読むことができます。
このうちのひとつに、「東村山市議転落事件」のことを言及していましたので、引用したいと思います。
佐倉敏明「創価学会報道に見る 週刊誌のウソと捏造」(エバラオフィス、1996.03)
□はじめに
■第一章〈ドキュメント〉東村山市議転落死の真相
□第二章 オウムと学会を一緒にしたこじつけ報道
□第三章 証人喚問を「魔女狩り」に使う雑誌
□第四章 自民党の広告ページと化した選挙報道
□第五章 すべては宗教法人法を通すために
□第六章〈特別講座〉週刊誌のウソの見抜き方
□あとがき
(つづきです)
反学会ジャーナリストたちの作意
実際に、週刊誌の捏造記事を資料に政治家を動かそうという意図は、矢野氏をはじめとした朝木市議側には早くからあった。
すでに九五年九月一八日に、龍年光元公明党都議襲撃未遂事件(九五年八月三一日に龍元都議の事務所に創価学会員を名乗る男が日本刀などの凶器を持って侵入しようとしたとされる事件)と、朝木東村山市議転落死事件の真相解明を求める請願書なるものを、深谷隆司国家公安委員長(当時)に提出しているのである。
その請願書には、こう書かれている。
「命を狙われた龍年光(元都議)も、怪死した朝木明代(市議)も、これまで一貫して、創価学会・公明党の反社会性を厳しく糾弾してきた。
そのため、両名とその関係者は、創価学会による(もしくは同会々員によるものと思われる)、さまざまな脅迫、監視、嫌がらせ、デッチ上げ訴訟によって、直接的または間接的な被害をこうむり続けることになったが、その果てに今回の事件が起きたものである。
状況から見て今回の事件の背景には、かの、坂本弁護士を教団の敵として麻原彰晃の命令で一家皆殺しにしたオウム真理教と、きわめて本質が酷似する、巨大宗教団体・創価学会の影が感ぜられる」
そして、その証拠の資料として、彼らは以下の週刊誌を提示している。
「週刊新潮 九月一四日号(女性市議「転落死」で一気に噴き出た「創価学会」疑惑)
週刊ポスト 九月二二日号(女性市議転落死、元公明都議襲撃、反創価学会闘士に次次奇っ怪事件が)
週刊実話 九月二一日号(創価学会批判者が受難、東村山女性市議が放火された直後に謎の死)
週刊現代 九月二三日号(夫と娘が激白! 『明代は創価学会に殺された』)」
(四誌のタイトル=筆者註)
さらに請願者には、龍年光、朝木大統、朝木直子、矢野穂積といった名が並ぶ。何をか言わんやである。
自分たちがニュースソースとなって、一方的な悪意の憶測を流し、それを事実の確認もなしに週刊誌が書き立てる、その週刊誌をふたたび証拠資料だとして、屋上屋を架すように、なんと「オウム真理教と、きわめて本質が酷似する、巨大宗教団体・創価学会の影が感ぜられる」と根拠のない決めつけを行っているのである。
朝木市議転落死事件とオウム真理教による坂本弁護士一家拉致・殺害事件とを同質視しようという動きは、この龍年光元都議同様に、反創価学会のブラック・ジャーナリスト内藤国夫にもあった。
内藤は「民主政治を考える会」などと称して「朝木明代市議怪死の経緯と創価学会の関わり!?」と題する怪文書をばらまいていた。この文書にも「坂本弁護士事件とそっくり!!」という見出しが踊っている。
その内容は、これまで見てきた週刊誌報道となんら変わらぬ捏造、憶測、決めつけのオンパレードである。いや、逆にいえば、彼らの広報機関としてさまざまな週刊誌が、彼らにその誌面を提供してきたと見るほうが妥当だろう。
九五年一〇月二九日に東村山社会福祉センターで、朝木市議の追悼集会が開かれた。当日、内藤国夫をはじめ、乙骨正生、段勲など反学会ジャーナリストといわれる者たちが顔をそろえ、故人の追悼というよりも、学会を感情的に中傷し糾弾するスピーチが続いたという。
この顔ぶれは、そのまま、この転落死に関するさまざまな週刊誌報道のコメンテーターでもある。その一事を見ただけでも、これらの週刊誌報道が最初からある意図(つまり、創価学会とオウム真理教とを同質視させ、うさん臭さを臭わせるという)にしたがって行われたものであることが理解できる。
常軌を逸した学会攻撃は、一一月二五日にそのピークを迎えた。日比谷公園の野外音楽堂で「東村山・朝木市議殺人事件糾明集会」なるものが開かれたのである。なんの根拠もなく「殺人事件」という決めつけが、すでに行われている。
その集会は、まさに彼らのヒステリックな狂気をまざまざと見せつけるものであった。その模様をレポートしよう。
かくして「狂気」の集会は開かれた
日比谷野音のステージ正面には「東村山・朝木市議殺人事件糾明集会」の横段幕と、菊花で飾られた朝木市議の大きな写真が掲げられていた。
主催者は、東村山朝木市議殺人事件を糾明する会、邪教から国政を守る会、草の根市民クラブなどの団体である。
会場には「創価学会を解散させよう」「池田大作は地獄へ行け」などと書かれたプラカードを持つ人が目立った。
このプラカードといい、転落死を何の根拠もなく「殺人事件」と決めつけている主催者の立場といい、会場には一種独得の雰囲気がかもしだされていた。「糾明」というかぎりは、なんらかの新しい事実が提示されるのかと期待していたのだが、集会は、ヒステリックな登壇者の決めつけに終始した。
まず、はじめに「東村山朝木市議殺人事件を糾明する会の会長がステージに立った。そして、いきなり、
「朝木市議殺害事件は、創価学会の犯罪だ。これは第二の坂本弁護士事件であり、このような市民へのテロ行為を許してはならない……」
と、決めつけた。もちろん、創価学会が「殺害」したと語る根拠は、なにひとつ提示されない。そして、
「……池田大作は『脱会者を自殺に追い込め』『脱会者はハリガネでゆわえトンカチで叩け!』といったという。その本性はアル・カポネ、ヒトラーだ。……警察は創価学会に強制捜査をすべきだ」
と結んだ。ここには感情的な中傷以外のなにものもない。
続いて紹介された四月会の有力メンバーでもある北野弘久日大教授のメッセージも、
「朝木さんの死は自殺ではないと確信している」
という一節から始まり、
「学会は、朝木さんたちだけではない。自分たちに敵対する文化人、ジャーナリストたちにもさまざまな暴行・暴力を加えている」
と、その暴力の延長線上には殺人もあるという含みをもたせるような内容だった。
草の根市民クラブの議員で、朝木議員の盟友だった矢野氏も、朝木議員の人柄を紹介しながらあの万引き事件を陰謀だと決めつけるなど一方的に転落死に至るまでの経緯を紹介し、さらに、
「朝木さんは落とされて死んだんです」
と、泣いて見せることまでした。そして、
「高潔な朝木市議。それを万引き犯人扱いする『スティル』の女店主。みなさん、『スティル』に行ってその女店主がどんな顔をしているか見てきてください」
なんと卑劣にも、洋品店の女性店主に社会的な制裁を加えるような扇動までしたのである。
「母の殺害の集会に、市民のみなさんがこんなにも集まってくれたことをうれしく思います」
壇上から、こう話しかけたのは娘の朝木直子氏だ。彼女は、
「議員が自宅から拉致され、強殺されるという事件が起きたんです」
と絶叫し、続いて、
「母は言論には言論でという人でした。その言論がいま、暴力によって殺されたのです。民主主義が危機に瀕しています」
と言うや、こんな決意表明までしたのだ。
「半年以内に行われるという総選挙に新二〇区から出馬することを決意しました。母の弔い合戦と真相究明のための出馬です。……新二〇区を学会に渡さないためにも闘います。よろしくお願いします……」
いったいこの集会は、何の集会だったのだろう。まるで選挙のための事前運動ではないか。彼女の選挙への出馬と、この転落死の真相究明がどうつながるのだろうか。
さらに、邪教より国政を守る会の長峰会長のスピーチは、聞くにたえない内容だった。
「朝木さんは学会を批判しただけで殺されたんです。これは市民への挑戦だ。市民への敵は断じて許さない」
「創価学会は、池田を見ればわかる。彼は留置場に入ったことがあるんです」
「八月頃、『脱会者は地獄に落とせ』と指令したことがあるんです」
「今回のことも池田の指令で朝木さんは殺されたんです」
「自分たちを批判する者は殺してもいいという学会は宗教ではない」
………
ここまでくれば、もう言いたい放題の世界である。「だから」と、長峰氏は次のように結論する。
「池田を国会に証人喚問し、朝木さん殺人事件を追及すべし。学会に強制捜査を行うべきだ。そうすればオウム以上の犯罪集団であることがわかるはずだ」
この日の登壇者に共通していたのは、自分勝手で一方的な決めつけと、根拠のない作り話だけであることだ。学会を中傷し、ただ参加者を煽っていく。その目的は、池田創価学会名誉会長の国会への証人喚問と、学会への強制捜査にあるようだ。
それは、一部与党議員の策謀と軌を一にするものである。
何がなんでも、朝木市議の転落死を「殺人」と呼び、それを創価学会封じの政争の具にしたい様子がありありと伝わってくる。
集会は、「池田を逮捕させ、学会を解散させるまでガンバロー!」と気勢をあげ、最後に「池田 逮捕!」「学会 解散!」と何度もシュプレヒコールを繰り返し、そのまま東京駅までデモ行進していった。
最後の最後まで、彼らが主張する「殺人」の根拠や証拠については、何一つ述べられることもなく終わってしまった。
すでに述べたように、朝木市議の転落死から一一〇日あまり経って、警察はそれを「自殺」と断定した。週刊誌の虚偽と捏造報道から始まり、この狂気の集会まで続いた一連の反学会キャンペーンは、この警察発表により前提とする根拠を完全に失ってしまったのである。
【解説】
九五年一〇月二九日に東村山社会福祉センターで、朝木市議の追悼集会が開かれた。当日、内藤国夫をはじめ、乙骨正生、段勲など反学会ジャーナリストといわれる者たちが顔をそろえ、故人の追悼というよりも、学会を感情的に中傷し糾弾するスピーチが続いたという。
(中略)
この日の登壇者に共通していたのは、自分勝手で一方的な決めつけと、根拠のない作り話だけであることだ。学会を中傷し、ただ参加者を煽っていく。その目的は、池田創価学会名誉会長の国会への証人喚問と、学会への強制捜査にあるようだ。
それは、一部与党議員の策謀と軌を一にするものである。
確かに、創価学会を糾弾する集会ですから、一部エスカレートして、「一方的な決めつけと、根拠のない作り話」が混じることもあったかもしれません。
でも、創価学会と警察組織の癒着など、一般市民にとっても重要な問題の解決のために開かれた集会の熱気をすべて否定することはできません。
獅子風蓮