JTCの井原武人氏は、山本芳実あるいは佐倉敏明の名前で多数の文章を発表しています。
その中のいくつかは、創価学会、元本部職員の北林芳典氏のホームページ(地湧の電子書庫)のリンクで、読むことができます。
このうちのひとつに、「東村山市議転落事件」のことを言及していましたので、引用したいと思います。
佐倉敏明「創価学会報道に見る 週刊誌のウソと捏造」(エバラオフィス、1996.03)
□はじめに
■第一章〈ドキュメント〉東村山市議転落死の真相
□第二章 オウムと学会を一緒にしたこじつけ報道
□第三章 証人喚問を「魔女狩り」に使う雑誌
□第四章 自民党の広告ページと化した選挙報道
□第五章 すべては宗教法人法を通すために
□第六章〈特別講座〉週刊誌のウソの見抜き方
□あとがき
(つづきです)
学会員による嫌がらせは事実なのか
『週刊現代』もさることながら、他誌にもひどいものがある。例えば、『週刊新潮』一〇月一二日号である。
タイトルは「創価学会員の関与が判明した東村山市議転落死の周辺」とある。このタイトルを読むかぎりでは、東村山市議の転落死に創価学会が関与していた事実が判明したかのように受け取れるが、記事を読むと、この転落死に至るまでに起こったとされる同市議への嫌がらせに学会員が関与していたというものだ。
ところが、例に挙げられたどのケースをとっても根拠が薄弱で、説得力がない。事実、嫌がらせのたびに捜査を依頼されている東村山署の係官も、
「矢野市議(朝木市議と同じ会派「草の根市民クラブ」の議員=筆者註)に代表される故朝木市議側の一方的な情報だけを週刊誌は取り上げて書くんです。でも、そのなかには明らかに攪乱情報もあるんですよ。ここにきて学会員による『嫌がらせ』や『脅迫』がこんなにもあったと言っていますが、警察では全部調べています。新聞紙に灯油を染み込ませて火をつけたという燃えカスも、脅迫状も……。でも、これらが学会員の仕業であるという証拠は何も見つかってないんです」
と言うのだ。
その一つに“ワゴン車で女性を待っていた男”というのがある。『週刊新潮』の記事からその部分を抜き書きしてみると、
「不気味だったのは、朝木市議が転落死した日の深夜二時過ぎ。家族が朝木さんの行方を案じていたまさにその時に、朝木家を監視するかのように、家のすぐ前にワゴン車が停っているのを家人が発見。不審に思った家族が運転手に声を掛けたところ、『男はニヤニヤ笑うだけで、返事もしないんです。なぜか暑い中、エンジンもかけずに車の中に座っているだけで、その内、車は急発進していなくなってしまったんです』(直子さん――朝木市議の娘=筆者註)」
ところが、後日、このワゴン車の男が東村山署に現われ、
「週刊誌などで自分が『不審なワゴン車の男』(この『週刊新潮』の記事以前にも数誌ですでに取り上げられていた)と書かれているが、事実はこうだ」
と証言したのである。それによると、彼は、その夜、近所のフィリピンパブで飲み、ホステスのフィリピン女性と待ち合わせ、彼女の来るのを車で待っていた。そこに彼女が自転車で現われた。「なんだ、自転車で来たのか」と話したところも、矢野市議は目撃して知っていたはずだし、それで誤解がとけたと思ってワゴン車を出したという。警察への通報はこのあと矢野市議によってなされたのである。
マスコミが煽り政治家が脅す
この「ワゴン車の男」の話は、反創価学会ジャーナリスト乙骨正生か『文藝春秋』一一月号に書いた「東村山市議怪死のミステリー」でも触れられている。その部分を引用してみよう。
「二時半、朝木宅前でニヤニヤ笑っている不審な人物の乗る車を発見。直子さんらが問いただしたところ、『女性を待っている』。
二時四〇分、矢野氏が『朝木さんの自宅前に不審車が止まっている。朝木さんは行方不明状態だ。連れさられた可能性もある』と110番通報。不審者運転手は、パトカーが来る前に、通りかかった女性を待っていたと称して逃走。車のナンバーから運転手は、狭山市広瀬に住むS氏であることが判明。このS氏、九日にフィリピン人らしき女性を伴って『草の根』事務所を来訪。『自分はこの人をまっていただけだ』と弁解」
前述の話と読み比べてみれば、このニュースソースが矢野市議であることは容易に想像がつく。この記事全体が、それまでに出されたこの「事件」に関する週刊誌報道の総まとめのような原稿でもある。もちろんその視点は、いつものように創価学会に対する悪意に満ちたものであり、記事に使われているデータも朝木市議側の提示する一方的なものばかりだ。
しかも、今回の「事件」では、乙骨自身がコメンテーターとしてしばしば何誌かの週刊誌に登場し、悪意に満ちた憶測によるコメントを述べている。いくつか紹介しよう。
「私はいろいろな面で今回の事件には納得がいきません。この事件の背後にはどうしても創価学会の影を感じるんです……この上なく公明党・創価学会は、朝木さんの存在を目の上のタンコブとして見ていたんです」(『週刊新潮』九月一四日号)
「朝木さんは最近、宗教法人法の改正にも力を入れていました。この問題は創価学会・公明にとっては死活問題。しかも、創価学会の認証は国ではなく東京都によるものだから、彼女が都議会に進出したら、とんでもないことになる。彼女の存在は、ただの地方議員というだけにとどまらず、創価学会はかなり危機感を持っていたはずです」(『週刊現代』九月二三日号)
学会の関与を臭わせ、荒唐無稽にその動機をひも解く。「殺人」を問題にしている記事中でのコメントとしては、タメにする発言以外の何物でもない。
乙骨と朝木市議の出会いは、『文藝春秋』の同記事によると、九四年六月頃からであるという。ある取材で知り合い、「私(乙骨)が東村山出身であること、また、以前、創価学会に在籍し、創価学会問題を重要な取材対象としていることなどもあって、創価学会・公明党(現公明)と厳しく対峙していた朝木さんと親交を重ねることになった」ということだ。
実際に、乙骨は朝木市議が主催する反学会集会などに呼ばれて講演をしたりしている。いわば同じ学会バッシング(叩き)仲間だったということである。その意味からも、乙骨の原稿が、一方的な意図をもって書かれたものであることが実によくわかる。
しかし、だからといって、次のようなくだりを何の注釈もなしに書くというのは、その意図があまりに露骨すぎはしないか。
「その朝木さんが亡くなったとの矢野市議の電話が、私のもとに入ったのは二日の午前六時。矢野氏は、絞り出すような声で朝木さんの死を私に伝えた。
『朝木さんが殺されました』
(中略)
『東村山駅前のビルから突き落とされたようです』
矢野氏の言葉に、私は取るものもとりあえず、東村山に向かった」
朝木市議が「殺された」というのは、あくまで矢野市議の推測にすぎない。事実を調べもしないで、それをまるで事実でもあるかのような印象を与える書き方をしているのは、朝木市議側は当初からこの出来事を「殺人」として位置づけようとする意図があったことをはからずも暗示しているようなものである。
さらに、この乙骨が書いた『文藝春秋』の記事をはじめ、『週刊新潮』『週刊朝日』などを資料に、自民党の穂積良行議員と熊代昭彦議員が宗教法人法改正審議の場において学会の関与を決めつける質問をするに及んだ(一一月七日、衆院宗教法人等特別委員会)。
その審議の席上、まず穂積議員は、
「実は、私、この雑誌(乙骨が書いた「東村山市議怪死のミステリー」『文藝春秋』一一月号ほか数誌)を見ていて思い出したものは、申すまでもなくオウム真理教の坂本弁護士拉致・殺害事件。……」
と、まるで創価学会とオウムが同質なカルト犯罪集団であるかのようなイメージ付けを行っている。
次に質問に立った熊代議員も、「東村山問題」に事寄せて「オウム真理教はそれ(国家乗っ取り=筆者註)を暴力でやろうとした。創価学会さんは合法的な選挙でやろうとしている」などと、週刊誌の記事をそのまま受け売りしたデマ情報を放言している。
さらに、同じく自民党の保坂三蔵議員も「(東村山問題は)これだけの週刊誌が取り上げているのだから(創価学会が)疑わしい」とか「創価学会もカルト教団に含まれる」と、週刊誌の記事が正しいことを前提にあからさまな学会中傷をくり広げた(一一月三〇日、参院宗教法人等特別委員会)。
こうした国会での中傷質問だけではなく、自民党執行部の反学会の急先鋒、亀井静香組織広報本部長などは、「警察庁長官や警視総監には『これを単に自殺事件として片づける度胸があるのか』と言いました。客観的な状況からいって、殺人事件の疑いもあるという観点から取り組む事案であることは間違いない」(『週刊朝日』一一月一〇日号)とか、「警視庁の国松長官に、事件の何日か後に電話をして、『やれ』と言ったんだ。(長官は)『ちゃんとやります』と言っていた。一連の件も含めて手加減する理由はない」(『週刊宝石』一二月一四日号)と、警察の捜査に圧力をかけたことまで放言している。
ここまでくれば、学会叩きのためにこの“転落死”を利用して、「マスコミが煽り、政治家が脅す」という構図が最初から予定されていたと考えるほうが自然ではないか。
(つづく)
【解説】
記事を読むと、この転落死に至るまでに起こったとされる同市議への嫌がらせに学会員が関与していたというものだ。
ところが、例に挙げられたどのケースをとっても根拠が薄弱で、説得力がない。事実、嫌がらせのたびに捜査を依頼されている東村山署の係官も、
「矢野市議(朝木市議と同じ会派「草の根市民クラブ」の議員=筆者註)に代表される故朝木市議側の一方的な情報だけを週刊誌は取り上げて書くんです。でも、そのなかには明らかに攪乱情報もあるんですよ。ここにきて学会員による『嫌がらせ』や『脅迫』がこんなにもあったと言っていますが、警察では全部調べています。新聞紙に灯油を染み込ませて火をつけたという燃えカスも、脅迫状も……。でも、これらが学会員の仕業であるという証拠は何も見つかってないんです」
と言うのだ。
ここは、事実と違うようです。
に詳しく書いてありますが、数々の嫌がらせや襲撃があったにもかかわらず、創価学会と連携をとった警察官が事件をもみ消すような働いたというのが事実のようです。
また、朝木さんの不可解な死の前日にあたる95年8月31日、反創価学会の急先鋒として創価学会を批判する龍年光氏の東京・西五反田の事務所に、30歳くらいの男が、模造日本刀とバールをもって押しかけ、「龍をブッ殺しに来た」と、女性事務員を脅すという事件が起こっています。
男の逃走後に、事務所に戻った龍氏が、さっそく警視庁大崎署に届出。事情を説明したところ、なんとこの男は、95年3月にも、龍氏を狙って事務所付近をうろつき、龍氏の事務所が入っているテナントビルに入っているホテルに「龍年光」の名前を使って無賃宿泊する事件を起こしており、大崎署では、この男の身元を把握しており、龍氏に顔写真まで見せたのである。
だが、大崎署は、9月4日になってこの男を逮捕したものの、学会員であるかどうかも含めて何も発表せず、容疑内容すら「ノーコメント」の一点張り。逆に龍氏に対し、「マスコミに情報を流さないように。新聞に載るとあなたの身の危険が増す」などと口止めする始末。
やむなく龍氏が、男が残した電話番号に架電したところ、電話に出た女性は、「高野は学会員」と認めた。この事件を取材した『赤旗』記者は、関西出身の高野が居留先にしていた家は、熱心な学会員一家であることを確認している。
事件はその後、れっきとした殺人未遂であるにもかかわらず、大崎署は、所持していた凶器が模造日本刀であることなどを理由に、わずかの罰金で男を釈放してしまったのである。
学会組織と警察の癒着、ここに極まれり。
獅子風蓮