煤払い一日持たず燻み出す 煤逃やスピード違反激増す 孤独死はまだまだ先と煤払い あをあをと己れを磨く煤湯かな 煤竹のしなる青さに見取れをり リサイクルごみばかりなり煤払い シェアハウス終の棲家の煤払い ワンルーム仏壇の煤払ひけり 煤逃げのゲーセンここも煤だらけ どうにもならぬことから先に煤払い
ふるさとは心の中に大根洗ふ 掛大根掛けし父母もうおらず 懸大根一本まるごと食べてみる 冬耕の空とはかくも遠きもの 干大根干されて日本の空うごく 頭のどこか溶けてしまいぬ冬の雨 虎落笛ジタバタしてもはじまらぬ 寒晴や日焼けサロンの黒き空 柚子湯出て天皇誕生前夜祭 冬服に人生の機微滲み出す 自己破産通知冬服の積まれをり(長兄がバブル倒産) 夢に母現れて丹前手を入れず
冬夕焼皆が見ている信じたし 冬耕すかつて地主の子と呼ばれ 冬耕やガーデニングも農なりき 何もかも捨てて冬田の暗がりに 冬景色あの世はたぶんこんなふう 泥んこで生まれたばかり蓮根掘 蓮根掘る巨大なブーツ蠢めけり 蓮根掘見たことのなき景色見ゆ 人間の臭いと違ふ蓮根掘 蓮根堀泥にまみれた人ばかり
虎落笛誰かの腕ちぎれ飛ぶ 人間に生まれて遠し虎落笛 地獄まで聞こえて来そうな虎落笛 虎落笛この世に生まれてわかること ストリート・ミュージシャンにも聞えているはず虎落笛 ひゅーひゅーと亡母の呼ぶ声虎落笛 人参をクレソンと呼び丸かじり 山茶花や母の系図に我れもをり 早過ぎる焚火に誰か黙しけり 人生は一度と知らず冬の虹