白菖蒲生死は問はず語りなり 青菖蒲冥界の火の遠ざかる 菖蒲田にぽっかりと赤い肉体なる 闇に降る雨音遠し花菖蒲 菖蒲田の欄干に佇つ亡父のごとし 聾唖者の一団菖蒲黄の語りだす 菖蒲田の闇と親しき齢なり 大東亜の夢包み隠さず花菖蒲(名札に大東亜) 菖蒲沼その欄干は越えられぬ ライトアップの闇雄弁に花菖蒲 花菖蒲平成の世はうつし世か はじまりの世は闇ばかり花菖蒲 涅槃までの旅程に加ふ花菖蒲 むらさきと言へぬ儚さ花菖蒲
菖蒲園板橋のあり彼岸あり 菖蒲田の泥から生まれ薄明り 大統領とはまさかカストロ花菖蒲 コーリャンタウンつらぬく白さ花菖蒲 長崎の雨激しかり花菖蒲 日本型インフル聞かず花菖蒲 休日白とは私の白さ菖蒲祭 戦後七十年越えられぬ壁花菖蒲 ねんてんさんの白髪菖蒲湯遠からず 花菖蒲幽体離脱の色をなす 咲ききって行方は問へぬ白菖蒲
遠雷や先進国革命成就せず 雷鳴は人間にしか聞こえない いくら句を詠んでも雷雨素通りす バイカル湖は地球のおへそ遠雷す 雷帝は通りすがりのへうげもの 自衛隊は軍隊なのか雷騒ぐ 雷鳴をなぜに恐れぬまだら猫 雷がいかほどのもの瀕死なり 天の岩戸開いてこその雷無音 鉄塔は身空も同じ落雷す スカイツリー微動だにせず雷去りぬ 雷門の雷おこし雷鳴す 大停電の夜の雷鳴は一度だけ
父の日や殺らねば殺られると遺訓 人間さまも蠅捕リボン避けきれず 蚊遣香死にゆく者の闇を見る 籐椅子の明るくて寂しい時間 船遊びふとひょうたん島のドンガバチョ 夏淡海人力飛行機往還す 鳥人間コンテスト遠泳に豹変す 夜店果つ中尾彬の地蔵の絵(谷中よみせ通り) 箱庭に「在りし日の歌」のごとき雲 路傍の百合亡母を背負って走る夢 半キャベツ甘さ藍さを極めけり 密厳浄土よりの一閃遠雷す 花氷浜崎あゆみのDEAREST
笛の音に身をくねらせてかきつばた 若葉風人生なかばといふ不幸 この震えこの寂莫も極暑かな 代掻くや日輪の仔の踊りだす 世の終り詮じつめれば蝉青し 恋の楽激しく奏で夜の蛙 遠蛙ロックでかき消す他はなく 夜濯やモーター音にかき消され 悪態の限りを尽くし遠蛙 わたしはわたし夏蜂を追いに追う 柿若葉ついぞ喰はれぬままをはる