川越商工会議所を東へすぐのT字路の交差点に赤煉瓦の外壁が美しい川越キリスト教会があります。設計は立教大学新築のため来日したアメリカ人技師W.ウィルソンで、鐘楼と平屋の煉瓦造教会というシンプルな形態。ウィルソンは同タイプの熊谷聖公会教会も設計しています。
礼拝堂の内部はハンマービーム風の小屋組を見せ、外壁のバットレス(控え壁)や尖塔アーチの縦長窓が中世ゴッシク教会の雰囲気を思わせる重厚な雰囲気を感じさせます。
■T字路の突き当たりに鐘楼と妻壁を見せる美しい外観は、川越の伝統的町並みの景観に寄与しています
■フランス積みの煉瓦壁にからまるツタがクラッシクな外観をきわだたせています
■尖頭アーチの玄関脇には「国登録有形文化財」のプレート
■日本聖公会川越キリスト教会礼拝堂/埼玉県川越市松江町2-4-13
竣工:大正10年(1921)
設計:W.ウィルソン
施工:清水組
構造:煉瓦造平屋
撮影:2018/04/30
※国登録有形文化財
りそな銀行のある蔵造りの町並の仲町交差点を東に入ると、ドリス式オーダーをずらりと並べた重厚な外観の川越商工会議所があります。
りそな銀行とは対照的なオーダーを前面に配したクラッシクな外観は、大正~昭和初期に流行った銀行建築の定番的手法。交差点の隅角部に出入り口を設け、上部にはバロック風のペディメント装飾を施すなど、当時の銀行建築の特徴をよく表しています。
■オーダーを配した重厚な古典主義風外観は、当時の銀行建築の定番
■2階分を貫くドリス式のジャイアント・オーダーは迫力満点、銀行の威厳をいやがうえにも強調します
■川越商工会議所(旧武州銀行川越支店)/埼玉県川越市仲町1-12
竣工:昭和3年(1928)
設計:前田健次郎
施工:清水組
構造:RC造地上2階、地下1階
撮影:2018/04/30
※国登録有形文化財
遅ればせながら5月の連休に訪れた、埼玉県川越市の建築探訪をアップします。
小江戸と呼ばれる蔵造りの町並みには、明治~戦前期の和洋取り混ぜた建物が今も数多く残っていて、町歩きを楽しむ観光客でにぎわっていました。
川越の中心にある蔵造の町並みにひときわ目を引く西洋建築、埼玉りそな銀行川越支店(旧八十五銀行本店)が建っています。
角に塔を頂いたルネサンス風ですが、バットレス(控柱)にサラセン風な縞模様を施した外観は大正期の建築らしい明るく軽やかな印象です。
■銀行建築に好んで用いられたオーダーを強調した古典主義建築の重厚さはなく明るく明快な外観
■白いタイルにグレーの縞が入るサラセン風の明るい外観は、黒壁の並ぶ明治の伝統的な蔵造りの町並みの近代化を象徴する建物
■蔵造の低い町並みにひときわ目立つルネサンス風塔屋
■埼玉りそな銀行川越支店(旧八十五銀行本店)/埼玉県川越市幸町4-2
竣工:大正7年(1918)
設計:保岡勝也
施工:印藤順造
構造:SRC造3階
撮影:2018/04/30
※国登録有形文化財
東ゾーンには戦前の昭和の面影を残す下町の商店建築が移築されています。
震災復興期の昭和初めに建てられた看板建築もそのひとつで、伝統的な出桁造りの商店とファサードを洋風に仕上げた看板建築が再現され、戦前の昭和の町並みにタイムスリップできます。
■植村邸/昭和2年(1927)/中央区新富町
前面を銅板で覆ったファサードは看板建築の特徴。
■丸二商店(荒物屋)/昭和初期/千代田区神田神保町
こちらは銅板片を組み合わせて模様にした凝ったデザイン。裏手に長屋が続きます。
■村上精華堂/昭和3年(1928)/台東区池之端
人造石洗い出しの外壁にイオニア式の列柱を配したファサード。
当時は化粧品屋さんだけに、洋風モダンな外観が目を引きます。
■大和屋本店(乾物屋)/昭和3年(1928)/港区白金台
木造3階建て出し桁造りの伝統的なファサードながら、縦長のプロポーションは看板建築の特徴。
■武居三省堂(文具店)/昭和2年(1927)/千代田区神田須田町
■花一生花店/昭和2年(1927)/千代田区神田淡路町
■万世橋交番/明治後期/千代田区神田須田町
こちらは煉瓦積みの明治期の建築様式が特徴の交番。
丸ポストが似合います。
撮影:2017/08/12
戦前の東京下町を再現した東ゾーンには、昔ながらの出桁造り商家や洋風の看板建築などが移築されています。その中でもひときわ目を引くのが、東ゾーンの一番奥にでーんとかまえる子宝湯です。東京の銭湯といえば、神社仏閣を思わせる宮造りが定番で、千鳥破風の大屋根と唐破風をのせた玄関が特徴。子宝湯もそんな東京の下町の銭湯を代表する建物で、足立区の千住から移築されました。
銭湯の軒数は東京オリンピックが開催された昭和40年頃がピークで、都内に2600軒あったそうです。私の実家に内風呂ができたのも昭和40年頃で、それまでは近所の銭湯に通っていたものです。内風呂が普及する以前、庶民にとって銭湯は一日の疲れをいやすオアシスであり、ご近所皆さんの社交場、憩いの場でもあったわけです。現在はわざわざ銭湯まで行く必要はなくなりましたが(そもそも銭湯が無い)、子どもの頃と大学時代に通った銭湯体験は、昭和のあの頃を懐かしく思い出させてくれます。
大きな湯船に肩までつかると、思わず「極楽、極楽」。まさにこの世の極楽を体感できる空間を演出する装置が、神社仏閣を思わせる東京型の銭湯といえるのかもしれません。
■東京型を代表するクラッシクな外観は威厳さえ漂います
■私の地元東海地方には、これだけ立派な宮造りの銭湯はほとんどありません
まじかで見ると、そのスケール感に「これが銭湯?」と圧倒されます
■立派な唐破風の下には舟に乗った七福神の彫刻がお出迎え
七福神の彫り物は神社仏閣で培われた職人のノミの技が生かされています
■玄関脇には大黒様と恵比寿様の飾り瓦が鎮座します
■銭湯といえば木製の蓋にカギ付きの下足箱が定番ですが、ここはタイル張りのシンプルなもの
■ここから男湯と女湯に分かれます。中央の番台が設置されているスペースにはタイル絵の装飾が
■男湯に入ると右手に男なら一度は上がってみたかった番台があります
昭和28年当時の入浴料金表には、大人12才以上金15円とあります
■天井の高い脱衣所には懐かしい籐のカゴが並びます
■男湯と女湯の境の壁は鏡になっていて、当時の広告看板からは昭和の香りが漂います
■昔の銭湯にはお約束のレトロな体重計
体重を測ったあとは、腰に手をあてコーヒー牛乳の一気飲みが銭湯の醍醐味
■脱衣場は広い吹き抜け空間で 豪華な折り上げ格天井はまるでお寺にいるようです
■男湯の浴場~正面のペンキ絵と境の壁のタイル絵が銭湯感を盛り上げます
■銭湯といえば...やっぱり富士山のペンキ絵にとどめを刺します
■源平合戦と弁慶・牛若丸のタイル絵
■こちらは女湯の浴場(そう言えば女湯に入るのは子どもの時以来です)
境の壁が低いので石鹸やシャンプーのやり取りをしたものです
■女湯は子ども向けでしょうか「さるかに合戦」と「ももたろう」のタイル絵です
■東京型の銭湯はとにかく天井がく、最上部には湯気抜きの窓がつく
■子宝湯/旧所在地:足立区千住元町
竣工:昭和4年(1929)
構造:木造
撮影:2017/08/12
コルビュジエに師事したモダニズム建築の巨匠、前川國男の自邸。戦時下竣工という建築資材が制約されるなか、中央の居間の天井を高くし、ロフト状の2階を設けることにより豊かな空間を実現しています。
1階の大きなガラス開口は、コルビュジエが提唱した「ピロティ」を意識しているといわれています。90度回転する戸袋、ディスプレイ機能をもつ棚、ダイナミックに開閉する大扉など、当時としては実験的なデザインを取り入れた斬新的な住宅作品です。
■大きな開口部が特徴的な居間
■天井を高くしてロフトを設けた空間は開放的
■ロフトへの階段
■書斎~やはり窓が大きく開放的で、気持ちの良い空間です
■台所と浴室~白で統一されたモダンで機能的なデザイン
■前川國男邸/旧所在地:品川区上大崎三丁目
竣工:昭和17年(1942)
設計:前川國男
構造:木造ロフト付
撮影:2017/08/12
〈参考〉江戸東京たてもの園特別展 世界遺産登録記念「ル・コルビュジエと前川國男」
設計の堀口捨己は、大正9年歴史主義からの脱却をめざし結成された「分離派」のメンバーで、日本のモダンデザインを牽引したひとり。堀口は代表作の一つ紫烟荘(大正15年)で、ヨーロッパのモダンデザインと茶室の融合を試みていますが、前年竣工の小出邸は和洋のハイブリッド住宅の先駆け的作品と言えるのではないでしょうか。
■和洋の造形を絶妙なバランスで折衷したデザインは、現代の住宅に通じるものがあります
■建物の内部は創建当時の間取りをとどめています
■小出邸/旧所在地:文京区西片二丁目
竣工:大正14年(1925)
設計:堀口捨己
構造:木造2階
撮影:2017/08/12
設計者のデ・ラランデは明治36年来日、横浜・神戸で外国人商館や邸宅を手がけ、神戸にある重要文化財トーマス家住宅(風見鶏の館)が現存しています。
建物は既存の木造平屋建ての洋館を、デ・ラランデが自邸として大幅に増改築したもので、その後何回も所有者が変わりましたが、昭和31年(1959)からカルピスの発明者として知られる三島海雲氏の自邸になり、平成11年(1999)まで三島食品工業の事務所として使われました。
■白く塗られた下見板張りの外壁と赤いマンサード屋根が特徴的
デ・ラランデは当時一世を風靡したドイツの「ユーゲント・シュティル」というスタイルを好み、この建物にもその影響がうかがえます
■デ・ラランデ邸(旧三島邸)/旧所在地:新宿区信濃町
竣工:明治43年(1910)
設計:デ・ラランデ
構造:木造3階
撮影:2017/08/12
江戸東京たてもの園は、1993年江戸東京博物館の分館として、小金井市の旧武蔵野郷土館の敷地に建設されました。園内には都内に現存した江戸~戦後までの文化的価値の高い歴史的建造物が移築復元され、後世に伝える文化遺産として保存展示されています。
今回は園内の洋風の近代建築を中心にご紹介します。
■常盤台写真場/昭和12年(1937)築/板橋区常盤台1丁目
郊外住宅地の常盤台に建てられた写真館で、外観は装飾を排除し直線を基調としたインターナショナル・スタイル。
建物かどのアールと英語で書かれた「TOKIWADAI PHOTO STUDIO」の屋号がモダンな感じです。
■縦長の窓と階段の円形にくりぬかれた壁が昭和のモダニズムを醸し出しています。
■戦前の写真館はスタジオの安定した照度を得るため、北側に大きな窓を配置しているのが特徴。
撮影:2017/08/12
■高田小熊写真館/明治41年(1908)頃/愛知県犬山市明治村内
こちらも屋根に大きな採光用の窓が設けられています。
建物外観は明治末~大正期の洋館造りで、モダンな昭和の常盤台写真場と比べると華やかな印象。
一時は改変がいちじるしく、外壁は白い外装材でおおわれた悲惨な状況でしたが、近年昭和6年開店当時のアールデコ調の外観が復活しました。
■広告塔だった塔屋も開店時と同じ時計塔にもどされました
■東武浅草駅・松屋浅草店/台東区花川戸1-4
竣工:昭和6年(1931)
設計:久野節
施工:清水組
構造:RC造
撮影:2017/08/12
浅草吾妻橋交差点の北角地に建つ大正期の商業ビル。正面外壁はタイル貼りで、三連の半円アーチ窓がモダンな外観を際立たせています。浅草六区の映画館街の戦前建築が失われた現在、大正~昭和戦前期の浅草繁華街の雰囲気を伝える唯一の建物。
神谷バーは電気ブランと葡萄酒で名を馳せた名店で、現在もデンキブランは人気商品。1階店内の本館部分は創建当時の姿を残していて、大正モダンな浅草の大衆バーの雰囲気に浸りながらお酒や料理が楽しめます。1階ホールは150席ほどの大きさで、先に食券を買い求め空いたテーブルに座ると、熟練のホール係のおねえさんたちがすぐにオーダーをとりに来てくれます。料理も比較的リーズナブルで、特にビールのおともに最適なメニューの品ぞろえが豊富で、居酒屋チェーン店とはひと味違った料理が楽しめます。一人でも気軽に入店でき、本物のモダン建築を楽しみながらちょっと一杯やるのに最適です。
■神谷バー本館/台東区浅草1-1-1
竣工:大正10年(1921)
設計:清水組
施工:清水組
構造:RC造4階
撮影:2017/08/12
※国登録有形文化財
現存する駅舎は、震災復興建築として建てられた二代目駅舎。東京駅と並ぶ巨大ターミナル駅ですが、東京駅は明治~大正期のクラッシクな古典様式、上野駅は昭和初期のモダニズムの影響を受けた新古典主義建築で外観は対照的。東京駅は皇居が近いこともあり、東京の玄関口としての威厳が感じられますが、上野駅は東北からの玄関口という地理的な要因もあり、庶民的なイメージが漂います。
上野駅の特徴は乗降客の動線を立体的に処理したことで、当時としては最先端の機能的な駅舎でした。その後全国で機能主義、合理主義に基づいた駅舎が続々と誕生しますが、上野駅はその先駆けとして、各地の駅舎に大きな影響をあたえました。
■駅舎外観(広小路口)
■JR上野駅/台東区上野7-1
竣工:昭和7年(1932)
設計:酒見佐市(鉄道省)
施工:鹿島建設
構造:RC造地上2階、地下1階
撮影:2017/08/12
■旧東京音楽学校奏楽堂/台東区上野公園8-43
竣工:明治23年(1890)
設計:山口半六+久留正道+上原六四郎
施工:田中幸次郎
構造:木造2階
撮影:2017/08/12
※国指定重要文化財
明治20年に設立された東京音楽学校の旧本館で、日本最古の洋風木造の音楽専用ホール。
滝廉太郎、山田耕筰など、多くの著名な音楽家がここで育ちました。
現在は東京都台東区が移築保存し、区の音楽ホールとして再活用をはかっています。
■東京芸術大学正木記念館/台東区上野公園12-8
竣工:昭和10年(1935)
設計:金沢庸治
施工:不詳
構造:RC造2階
撮影:2017/08/12
※都選定歴史的建造物
東京美術学校5代校長・正木直彦の業績を記念して建てられた作品陳列館。
昭和初期に流行した帝冠様式を採用した近代和風建築。
■東京芸術大学陳列館/台東区上野公園12-8
竣工:昭和4年(1929)
設計:岡田信一郎
施工:不詳
構造:RC造2階
撮影:2017/08/12
※東京都選定歴史的建造物
学生等の作品の展示施設。
同時期に建てられた黒田記念館とともに岡田信一郎の設計。
どちらも茶色のスクラッチタイル貼りですが、こちらはより端正で落ち着いた外観。
■東京芸術大学赤煉瓦1号館(旧教育博物館書籍閲覧所書庫)/台東区上野公園12-8
竣工:明治13年(1880)
設計:林忠恕
施工:不詳
構造:煉瓦造2階
撮影:2017/08/12
※東京都選定歴史的建造物
明治初期、煉瓦や石造の洋風建築のほとんどは、お雇い外国人建築家に委ねられていました。
明治13年に建てられたこの建物は、日本人技術者による最初期の煉瓦造建築で、現存する都内最古の煉瓦建築として大変貴重。
隣の2号館(明治19年)とともに、今も大学構内で大切に保存されています。
■東京芸術大学赤煉瓦2号館(旧東京図書館書籍庫)/台東区上野公園12-8
竣工:明治19年(1886)
設計:小島憲之
施工:服部浅五郎
構造:煉瓦造2階
撮影:2017/08/12
※東京都選定歴史的建造物
隣接する赤煉瓦1号館に次いで都内で2番目に古い煉瓦造建築。
入口のイスラム風尖塔アーチや最上部の丸窓など個性的なデザインが面白い。
■東京芸術大学音楽学部赤煉瓦門/台東区上野公園12-8
竣工:明治23年(1890)
構造:煉瓦造
撮影:2017/08/12
明治に建てられた本格的なルネッサンス様式のわが国初の国立図書館。当初の計画では中庭を囲むロの字型の平面の壮大な規模の建物(建坪900坪)でしたが、日露戦争による財政難のため東面部分を完成しただけで中止となりました。現存する建物は当初計画の3分の1の規模に縮小された東面だけですが、華麗なフランス・アンピール様式の外観は、未完成に終わった壮大な図書館の片鱗をしのばせてくれます。
建物は2002年に安藤忠雄の手で増改築が施され、現在は「国立国会図書館国際子ども図書館」として保存再生され一般に開放されています。
■建物東面
■エントランスから大階段
■大階段と廊下~木製の建具や鋳鉄製の手摺、漆喰仕上げの壁や天井は創建時の姿に保存復元されています
3階ホール
■国立国会図書館国際子ども図書館(旧帝国図書館)/台東区上野公園12-49
竣工:明治39年(1906)
設計:久留正道+真水英夫+岡田時太郎
施工:直営
構造:鉄骨補強煉瓦造地上4階、地下1階
撮影:2017/08/12
※東京都選定歴史的建造物