「何言ってるの、父さんの稼ぎに合わせて、家も1/4カットよ」
採集場所 愛知県碧南市/2009年3月
東芝は昭和42年から「光速エスパー」という子供向けの特撮物をテレビ放映して、東芝特約店の店頭にはマスコット人形も置かれました。確か三ツ木清隆と言う俳優さんがエスパー役で、ヘルメットに宇宙服姿で、「ピー、エスパー」と言いながら空を飛んでいました。当時はウルトラマンなどの特撮物が大流行で、わたしも夢中になって毎週見ていた記憶があります。
テレビ放映は2年間で終了、数年後にアニメのサザエさんが始まるとこれが大ヒットし、東芝のイメージキャラクターとして定着しました。そんなわけで初代イメージキャラクターの光速エスパーは、電気屋さんの店頭から急速に姿を消し、みんなから忘れ去られたちょっと切ない昭和のキャラなのです。
昭和40年代で時間が止まった電気店
シャッターにカラーで描かれたエスパーくんも健在。
こちらはお店の人が手書きしたのか、ちょっと情けない白黒エスパーくん。
エアコンの室外機の陰からダイビング。
トランジスター、ICブライトロン、ユニカラーなど、当時最新の言葉を並べた看板は、カラーテレビが普及しだした昭和40年代の高度成長期らしい勢いが感じられます。
一生懸命働いて最新の電化製品を揃え、誰もが明るい日本の未来を信じて疑わなかった時代でした。
薬局の前でゾウのサトコちゃんと並んで明るい笑顔を振りまくタモリのユンケル看板。
しかしその横には色あせた古い看板が、「おれを忘れないで」とばかりに白骨化した顔をのぞかせています。
採集場所 岐阜県恵那市岩村町/2001年7月
碧南市の帰りに知立で途中下車し、戦前の木造建築を訪れました。
●永田医院耳鼻咽喉科/知立市内幸町平田/建築年不明
街中ではほとんど見かけなくなったレトロな医院。
●養生館(旧明治用水土功会事務所)/知立市西町新田
知立神社の境内に鉄骨に支えられて建っています。
現在は集会所として利用されているようです。
養生館の前にぽつんとたたずむ二宮金次郎を見つけました。
最近はあまり見かけませんが、戦前からある古い小学校の校庭の片隅には必ず立っていました。
背中に背負っているのは薪(本当は柴:雑木の小枝)ですが、今の子どもたちは知らないだろうなあ~
●山中従天医館/碧南市東浦町/昭和5年 設計:大中肇
大浜警察署を設計した大中肇のライト式建築が碧南に現存しています。
ライトと言えば帝国ホテルに代表される大規模な建築を思い浮かべますが、プレーリーハウス(草原住宅)と呼ばれる独自のデザインの住宅作品も有名です。深い軒にゆるい勾配の寄棟屋根を載せ、軒先の水平線を強調し、その下に縦長の連続窓を配して流れるような連続的な動きを表現しています。
山中従天医館も当時流行のライト式を採用した医院建築で、現在も建設当時の外観を保ったまま、80年にわたり大切に使用されています。オーナーの建物に対する愛情が感じられ、建物を通じてその人柄が伝わってくるようです。
◆全景(南東面)
◆深い軒先、ゆるい勾配の屋根、連続した窓などが独自の空間を創り出しています。
◆玄関には茶褐色のスクラッチタイルや、幾何学模様の窓枠などライト風のデザインが随所に使われ
ています。
◆◇◆東海地方のフランク・ロイド・ライトの作品◆◇◆
●帝国ホテル中央玄関/愛知県犬山市明治村内/大正12年
20世紀建築界の巨匠ライトの帝国ホテル中欧玄関部分が明治村内に移築保存されています。玄関ロビーに立つと、天才建築家が表現した空間にただただ圧倒されます。
ホテル全体が保存されなかったのは悔やまれますが、玄関だけでも保存されたのは、多くの人がライトの作品に触れるきっかけになりました。近代建築の文化的価値が現在ほど認識されていない1960年代に、移築保存を決断した当時の佐藤栄作首相に感謝です。
◆帝国ホテル玄関正面
どこかの古代の遺跡のようでありながら、懐かしさが感じられる不思議な空間。
◆2階からロビーを望む
薄暗い洞窟のような囲まれ感が心地よい。
◆スクラッチタイルと大谷石の彫刻、多面体の照明器具など、まさに唯一無二の「ライトワールド」が広がります。
●石川鋳造(旧大浜火力発電所)大正12年/碧南市中松町
大浜港から臨海公園沿いに北へ向かうと2本の大きな煙突が見えてきます。当初は火力発電所として建設された建物ですが、現在は鋳造工場として再利用されています。南北の妻壁に竣工当時の岡崎電灯の社章がそのまま残っていて当時が偲ばれます。
●新川中央病院(旧私立新川中央病院本館)大正3年/碧南市松江町
碧南市の北西部に古い病院が残っています。建物は屋根に和瓦を使った折衷的な外観ですが、玄関ポーチはトスカナ式オーダーの石柱を6本立てて思いっきり古典様式しています。強調された玄関ポーチがアクセントになり、端正な外観ながら医療機関にふさわしい重厚な雰囲気が演出されています。
現在は西側に新病院が建設されたため、職員の施設として利用されているようですが、記念館として末永く保存されることを望むばかりです。
●全愛知県赤煉瓦工業協同組合/碧南市新川町/建築年不明
名鉄新川町駅の西側に赤煉瓦の箱のような建物があります。玄関脇の表札を見ると「全愛知縣赤煉瓦協同組合」とあり、なるほど納得です。戦前物件らしいのですが、赤煉瓦が美しく、非常によい状態で使われています。
●磯貝電機(旧名古屋相互銀行碧南支店)昭和12~13年
川を挟んで旧大浜警察署の北側にあるシンプルな外観の建物。
現在は会社の事務所として使われていますが、左右対称の端正な外観はいかにも銀行建築。
玄関周りの簡略化された装飾に、様式建築の面影が残ります。
●大浜漁業組合冷蔵庫(旧大浜製氷会社貯氷庫)昭和2年頃
旧大浜警察署を掘川沿いに下り、大浜港に出ると、レンガ造りの倉庫がぽつんと建っています。
周囲は白い現代的な建物ばかりなので、その赤レンガのレトロな建物はひときわ目を引き、港の風景に潤いを与えてくれます。
旧大浜警察署のように、地域の歴史的建造物として再活用が検討されているようですが、長い年月を過してきた古びた外観は味わい深いものがあり、このまま港の片隅で静かに時を刻む姿を見てみたい気もします。
春の陽ざしに誘われて、3月15日に碧南と知立の近代建築を訪ねました。
名鉄三河線の終点碧南駅で降り、大浜港を目指します。大浜港を望む大浜地区は、古くから漁港の町として栄え、現在も細い路地に板塀の続く古い町並が残っています。大浜港に近い堀川沿いに建つ旧大浜警察署は、大正13年竣工の鉄筋コンクリート建築で、玄関脇の八角形の塔屋が目を引きます。当時流行のセセッション様式を取り入れたデザインで、刈谷を中心に活躍した大中肇の設計と言われています。
現在は町の拠点施設として再活用されるためのリニューアル工事中で、外観も新しく塗り直されていました。
●建物全景
八角形の塔が大正時代のレトロな雰囲気を今に伝えます。
左端に見える石柱にはバロメートル(気圧計)が埋め込まれています。
●漁に出る船が利用した、石柱に埋め込まれたバロメートル(気圧計)
●塔は潮見台とも呼ばれ、当初は火の見櫓としても利用されました。
●建物裏手(東面)には新たに庭も造られ整備が進んでいます。
●玄関脇には「大濱警察署」と刻まれた白い石のプレートが埋め込まれています。
幾何学模様をモチーフにしたデザインは、大正から昭和初に流行したセセッションの影響がうかがえます。
昭和に入ると、大都市には鉄筋コンクリートの本格的なビルが建てられました。銀行建築は、アメリカの高層ビルに習い「古代ギリシャ復興式」と言う古典主義表現の建築様式が好んで用いられました。正面に柱を並べたギリシャ神殿のようなビルは、顧客の信用を得る上で、まさに銀行建築にぴったりだったようです。
しかし戦後になると、現在のビルと同じようなモダンデザインが世界中を席巻し、歴史様式を採用した建築はその役目を終え、姿を消していきました。
◆古典主義様式の銀行建築◆
◆東京三菱UFJ銀行貨幣資料館(旧名古屋銀行本店/昭和1年)
現在は貨幣資料館として一般公開されています。
◆旧津島信用金庫本店/昭和4年(名古屋銀行津島支店として開業)
◆三井住友銀行上前津支店(旧三井銀行上前津支店/昭和6年)
◆三井住友銀行名古屋支店(旧三井銀行名古屋支店/昭和10年)
◆十六銀行徹明支店(旧岐阜貯蓄銀行/昭和12年)
◆旧十六銀行広見支店/昭和3年
地方の小さな店舗ですが、当時最新のモダニズムの傾向がうかがえます。
◆十六銀行関支店/昭和15年
古典様式の柱がなくなり、現在に近いモダンな建物です。