かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

日比谷~霞が関(4) 中央合同庁舎六号館赤煉瓦棟(法務省旧本館)/千代田区

2017-09-06 | 東京の近代建築

皇居側から桜田通りを官庁街へ入ると、すぐ左手に巨大な赤レンガの建物が姿をあらわします。
このあたりには警察、検察、裁判所など法曹関係の機関が集中していますが、法務省旧本館、通称赤煉瓦棟はその圧倒的存在感で霞が関官庁街のランドマークになっています。
明治政府は明治19年(1886)「官庁集中計画」に着手、ドイツから建築家(エンデ&ベックマン)を招きました。
ただ彼らの計画案はスケールが大きすぎ、予算不足と計画推進者である時の外務大臣井上馨の失脚により、司法省と大審院が建てられた時点で計画は頓挫しました。
幸いにも2棟の建物は戦災を免れましたが、昭和51年に最高裁判所(旧大審院)が取り壊され、旧司法相だけが唯一現存する明治官庁建築の遺構として霞が関に往時の威容を誇っています。


■赤レンガに白い石材のコントラストが美しいドイツのネオ・バロック様式の壮麗な外観


■このスケールでも当初の計画よりはかなり縮小されたようで、まさに国の威信をかけた大事業でした







■戦災で大きな被害を受けましたが、1994年創建時の姿に復元され重要文化財に指定されました



■中央合同庁舎六号館赤煉瓦棟(法務省旧本館)/千代田区霞が関1-1-1
 竣工:明治28年(1895)
 設計:エンデ&ベックマン
 施工:直営
 構造:煉瓦造地上3階、地下1階
 撮影:2017/08/11
 ※国指定重要文化財

 


日比谷~霞が関(3) 法曹会館/千代田区

2017-09-03 | 東京の近代建築

日比谷公園の西側、巨大ビルが立ち並ぶ官庁街の北の端お堀沿いに建つこじんまりとした建物です。
小さなとんがり屋根の尖塔が印象的でロマネスク風ですが、タイル張りの外観は幾何学的な平面で構成されています。
彫りの深い濃厚なゴッシク様式の日比谷公会堂に対し、爽やかなあっさりした外観はモダニズムへの転換期の作品です。
四角四面の真っ白なトーフ建築(インターナショナルスタイル)に移行するまでの、様式とモダニズムがほどよくミックスされた、品の良さが感じられる建築です。


■淡い色のタイル張り外観はすぐ隣の赤煉瓦の旧法務省とは対照的です




■法曹会館/千代田区霞が関1-1
 竣工:昭和11年(1936)
 設計:藤村朗(三菱地所)
 施工:竹中工務店
 構造:RC4階
 撮影:2017/08/11


日比谷~霞が関(2)フェリーチェガーデン日比谷(旧日比谷公園事務所)/千代田区

2017-08-30 | 東京の近代建築

日比谷公園は日本初の西洋式庭園として明治36年(1903)に開園しました。
その公園の北側に明治期に建てられた木造の小さな山荘風建物が今も残っています。
この建物は当初公園の管理事務所として建てられたもので、その後公園資料館として長いあいだ利用されました。
現在はガーデンウェディングなどができる「フェリーチェガーデン日比谷」という結婚式場としてリニューアルされています。
スタイルはバンガロー建築といわれる日差しを遮る深い軒を持ったベランダが特徴で、一階部分は煉瓦造玉石積み、二階は木造になっています。


■明治生まれの建物が結婚式場という晴れの舞台として生まれ変わり再活用されているのは嬉しいかぎり



■外観はそのままペンションやレストランになりそうなおしゃれな雰囲気





■フェリーチェガーデン日比谷(旧日比谷公園事務所)/千代田区日比谷公園1-1
 竣工:明治43年(1910)
   設計:福田重義
 施工:不詳
 構造:木造2階
 撮影:2017/08/11
 ※東京都指定有形文化財


日比谷~霞が関(1) 市政会館・日比谷公会堂/千代田区

2017-08-27 | 東京の近代建築

日比谷公会堂として知られる建物ですが、日比谷公園の南側の道路に面した時計塔があるファサードが市政会館、公会堂の玄関は公園に面しています。
市政会館は科学的に市政を調査研究する目的で、公会堂は立会演説や討論ができる集会施設として、異なる用途をひとつの建物にまとめた複合施設として建てられました。
ちなみに設計者の佐藤功一は早稲田の教授で、大隈講堂も手がけています。


■外壁をスクラッチタイルでおおい垂直性を強調したデザインは、昭和初期に流行したネオ・ゴシックといわれるスタイル



■日比谷公園のランドマークとして親しまれている時計塔



■建物東側にも市政会館の玄関があります



■公園内にある公会堂玄関





■市政会館・日比谷公会堂/千代田区日比谷公園1-3
 竣工:昭和4年(1929)
 設計:佐藤功一
 施工:清水組
 構造:SRC造地上10階、地下1階
 撮影:2017/08/11
 ※東京都選定歴史的建造物

 


丸の内~有楽町(6)日本生命日比谷ビル・日生劇場/千代田区

2017-08-26 | 東京の近代建築

DNタワー21からお濠沿いを日比谷公園方面へ向かうと、日比谷公園の東側に戦後建築ながら戦前の様式建築の面影を残す建物があります。
設計はモダニズム建築の巨匠村野藤吾。軽やかなカーテンウォール全盛の1960年代、ツルピカのビルとは対照的な総花崗岩張りの重厚な外装、縦長窓には様式建築を思わせる柱の装飾を施しています。
なかには日生劇場が入っていて、表現主義やアールデコを取り込んだ村野流モダニズムが随所に散りばめられています。


■周囲のビルとは明らかに異なる戦前の様式建築を彷彿とさせる外観



◆日本生命日比谷ビル・日生劇場/千代田区有楽町1-12
 竣工:昭和38年(1963)
 設計:村野・森建築事務所
 施工:大林組
 構造:SRC地上8階、地下5階
 撮影:2017/08/11


丸の内~有楽町(5)DNタワー21(旧第一生命館)/千代田区

2017-08-23 | 東京の近代建築

明治生命館が建つお濠沿いを有楽町方面へ進むと、もうひとつの大作第一生命館のファサードがDNタワーの一部として保存されています。
こちらは明治生命館の華麗なアメリカンボザールとは対照的で、ファサードのオーダーを角柱にして細部の装飾を排除しているため、様式建築の骨格を残しながらディテールをより簡略モダン化した印象です。

要塞を思わせるその堅牢な外観からは、ナチス建築を連想させるものがありますが、建物竣工(昭和13年)の2年後には日独伊三国同盟が結ばれるご時世を考えれば「むべなるかな」といったところです。
またこの建物はGHQ(連合国軍総司令部)が置かれたことでも知られ、マッカーサーの執務室が現在でも当時のまま保存されています。
流麗な明治生命館よりお堅い第一生命館が司令部に選ばれたのは、威厳を重んじたマッカーサーの軍人気質によるものでしょうか?


■隣接した農林中央金庫(昭和8年)と第一生命館のファサードを残し合体、21階建てのビルを増設しました





◆DNタワー21(旧第一生命館)/千代田区有楽町1-13-1
 竣工:平成7年(1995)/昭和13年(1938)
 設計:清水建設+K・ローチ/渡辺仁+松本與作
 施工:清水組
 構造:        /SRC造地上8階、地下4階
 撮影:2017/08/11
 ※東京都選定歴史的建造物

 


丸の内~有楽町(4)明治生命館/千代田区

2017-08-22 | 東京の近代建築

皇居側馬場先濠に面して立つ戦前のオフィスビルですが、東隣の三菱一号館とはスケールが違います。お堀に面したファサードに10本のコリント式ジャイアントオーダーが立ち並ぶ威風堂々とした古典様式の建築は、明治以来先人たちが西洋から学んできた歴史様式建築の最後の到達点と言われています。

大正末から昭和初期にかけて、銀行や保険会社をはじめとするオフィスビルは、アメリカンボザールというアメリカナイズされた古典主義建築が黄金期を迎えます。現存する三井本館や明治生命館はその代表で、戦後に建てられたビルは装飾排除のインターナショナル・スタイル一色になってしまいます。

構造設計は日本の耐震構造技術の生みの親内藤多仲が担当、昭和期に建てられた建造物としては初めて重要文化財に指定されました。明治~戦前期の近代建築はまさに百花繚乱、咲き乱れた様式建築という華麗な花々の最後の大輪のひとつが明治生命館です。ツルピカの高層ビルが林立する丸の内のオフィスビルに囲まれて、明治生命館は平成の現在でもその圧倒的な造形美と存在感で、時代を超えてひときわその輝きを増しています。


■一階を石積み、2階以上を列柱、最上階に窓を並べる三層構成は、大規模な古典様式オフィスビルの定番



■こちらも背後には高層ビルがそびえます



■アカンサスの葉をかたどった精緻な彫刻がほどこされたコリント式ジャイアントオーダーは圧巻



◆明治生命保険相互会社本社本館/千代田区丸の内2-1-1
 竣工:昭和9年(1934)
 設計:岡田信一郎
 施工:竹中工務店
 構造:SRC地上8階、地下2階建、屋上塔屋付
 撮影:2017/08/11
 ※国指定重要文化財


丸の内~有楽町(3)三菱一号館/千代田区

2017-08-19 | 東京の近代建築

JPタワーのすぐ南にある三菱一号館は東京駅と同じ赤レンガ造の洋館ですが、残念ながらすべて復元されたレプリカで、本物の歴史的建造物ではありません。

元々は丸の内初のオフィスビルとしてコンドルが設計したもので竣工は1894年。コンドルは西洋建築を日本に伝えた御雇外国人建築家のひとりで、鹿鳴館の設計者として有名です。明治20年代には自ら設計事務所を開き、各国大使館や三菱一号館をはじめとする丸の内のオフィスビル群、ニコライ堂、岩崎久弥邸などの大作を手がけています。

その後三菱一号館は関東大震災や戦火もくぐり抜けてきましたが、高度成長の真っ只中の1968年に取り壊されました。時代は変わり近代建築が文化財として認識されるようになった2009年、高層棟竣工時に一緒に当時の姿が復元され、現在は美術館やカフェとしてつかわれています。近代建築としては外観だけではなく材質や構造など細部にわたり本格的に再建されたものの一つで、今では東京駅と並び丸の内の赤レンガ建築として親しまれています。


■赤レンガに白い窓脇と隅石でコントラストを付けた外観は、イギリスのクイーンアン様式を基調としています




■急勾配の大屋根に装飾を施したドーマー窓が華やかさを演出しています



◆三菱一号館/千代田区丸の内2-6-2
 竣工:平成21年(2009)/明治27年(1894)
 設計:三菱地所設計/ジョサイア・コンドル
 撮影:2017/08/11

 


丸の内~有楽町(2)JPタワー(東京中央郵便局)/千代田区

2017-08-16 | 東京の近代建築

東京駅丸の内南口のすぐ正面に建つJPタワーの低層部に、5階建の東京中央郵便局の旧局舎が部分保存されています。歴史的建造物の保存に最近よく見られる手法で、旧建物を一部保存した低層棟の上に、超高層棟を建て増ししています。

日本工業倶楽部会館(今回未見)もこの手法で、銀行協会ビルは保存した壁面だけの貼り付け、丸ビルは全て建て替えでイメージ保存、と丸の内のオフィスビルは様々な保存方法がとられています。(イメージだけの継承を「保存」というのは疑問も残るところですが…)

旧局舎のデザインは真っ白な装飾のない壁面に四角の窓が規則正しく並ぶ初期のモダニズムで、設計は逓信省の吉田鉄郎。吉田のデザインは当時としてはかなり先鋭的で、B・タウトやA・レーモンドといった海外のモダニズムの巨匠たちからも絶賛されました。

向かいの辰野の東京駅と比べると、そのデザインの違いは一目瞭然、この二つの建物がたった17年という短い期間に建てられたのは驚きです。明治~大正の歴史様式建築、昭和のモダニズム建築、カーテンウォールの高層ビルが同時に見られるのは、まさに「メガロポリス東京」ならではの醍醐味です。



■コンクリートのモダニズム建築から、ガラス・カーテンウォールのツルピカ高層ビルがニョキッと建っている風景はまさに東京ならでは。



■装飾を排し直線で構成された機能的なデザインながら、明るく軽やかな印象。
吉田は同様のモダンデザインで大阪中央郵便局も手がけています。



◆JPタワー(東京中央郵便局)/千代田区丸の内2-7-2
 竣工:平成24年(2012)/昭和6年(1931)
 設計:三菱地所設計/吉田鉄郎(逓信省経理局営繕課)
 施工:      /銭高組・大倉土木
 構造:      /SRC造5階建
 撮影:2017/8/11


丸の内~有楽町(1)JR東京駅丸ノ内本屋/千代田区

2017-08-15 | 東京の近代建築

お盆休みを利用して東京に住む娘を訪ねるついでに、近代建築巡り(実はこちらが本命)をしてきました。
近代建築探訪のバイブル、「日本近代建築総覧/1980年刊行」によると東京都23区内で実に2700ほどの建物が掲載されています。
今から37年前のデータですので、何割の建物が現存しているのかは想像もつきません。
それでも政治・経済の中心地東京が、全国で現存する近代建築のかなりの割合を占めているのは間違いありません。
今回は限られた日数でしたが、大東京ならではの圧倒的な質・量の建物を目の当たりにでき、近代建築好きにはたまらない至福の時間を過ごすことができました。

初日は東京駅を起点に、丸の内オフィス街から皇居一周コースを巡りました。
まずは2012年に戦災で失われた丸いドームが復活し、創建時の姿に復原された東京駅。
明治建築界のレジェンド、辰野金吾晩年の代表作が東京の玄関として蘇りました。
外観は煉瓦と花崗岩を交互に積むクイーン・アン様式を基調とした辰野式と呼ばれるデザインで、赤と白のコントラストがあざやかです。

東京駅は復原費用の面で一時取り壊しの話もありましたが、上空に建物を建てる権利「空中権取引」の売却を認めるウルトラC的特例制度で、JR東日本が三菱地所に使われていない容積率を譲渡することにより、復原にかかる大部分の事業費を賄うことができました。
また東京都は新たに「文化財特別型特定街区制度」を創設、東京駅とともに重要文化財の三井本館や明治生命館など、歴史的建造物保存への道が開かれたことは特筆に値します。


■3階部分が復原され創建時の重厚な姿を取り戻しました





■南北ドームの天井のレリーフは、創建時の意匠に復元され見どころがいっぱい。
見上げると八羽の鷲や干支の彫刻が出迎えてくれます。



◆JR東京駅丸ノ内本屋/千代田区丸の内1-9-1
 竣工:大正3年(1914)/平成24年(2012)復原工事
 設計:辰野金吾
 施工:大林組他
 構造:鉄骨煉瓦造3階
 撮影:2017/08/11
 ※国指定重要文化財