中学時代にどっぷり洋楽(ロック)にハマったぼくは、高校生になっても相変わらず暇さえあれば、プログレ、ハードロックを聴く毎日を送っていた。高校生になって大きく変わったのは、ついに自分の部屋にステレオがやってきたことだ。残念ながら最新のコンポというわけにはいかなかったが、もともと洋間にあった東芝のセパレート・ステレオ「ボストン」をオヤジから譲り受けたのだ。ステレオはオヤジが大好きなハワイアンや演歌を聴くために購入したのだが、ここ数年はもっぱらぼく専用という状態になっていたので、新しいのを買う代わりにオヤジのお古がまわってきたというわけだ。それでも当時のぼくにとって、自由に自分の部屋でレコードが聴けるのはなにより嬉しかった。
ここでちょっと当時のオーディオ事情を振り返ってみると、1960年代に入りセパーレートステレオといういわゆる現在のステレオの基本形になっている3点セット(レコードプレーヤーとアンプのある本体の両脇に分離した左右のスピーカーを配置)が登場。松下はテクニクス、日立はローディー、三菱はダイアトーンなどのブランド名で、各メーカーはこぞってこのセットものステレオを販売、70年代にはスピーカーが4つある4チャンネルステレオも人気だった。当時としてはかなり贅沢なステレオセットは、和室より洋間に置かれることが多く、玄関脇の応接間の洋酒が入ったサイドボードの横に家具調ステレオが置かれるという風景がよく見られた。我が家もご多分に漏れず、1968年発売の東芝「ボストンデラックス」という重厚な家具調デザインのステレオセットを購入、いつまでも未開封のもらい物のナポレオンが飾ってあるサイドボードの横に鎮座していたのである。
大学生になってやっと念願のコンポーネント・ステレオ(アンプ、レコードプレーヤー、スピーカーなどを単体で組み合わせるシステム)を手に入れたのだが、当時70年代はまさにオーディオブーム真っ只中で、ぼくの学生下宿にもテレビはないがステレオは持っているというヤツがたくさんいた。特にジャズやクラッシックファンは音にうるさい、いわゆるオーディオマニアがほとんどだった。自作スピーカーと管球アンプにとことんこだわるジャズファンや、最高の音で聴くためにバイト代をすべてオーディオにつぎ込んでいるクラッシックファンなど、かなりのツワモノがそろっていたものだ。
ぼくの買ったコンポなど彼らからすれば可愛いものだが、その当時はオーディオにもハマり、日本橋の電気街にもかなり通ったものである。もちろん貧乏学生なのでほとんど見るだけなのだが、同じ趣味の友人たちとの電気店めぐりは楽しいものだった。高級オーディオの試聴にため息をついてから、輸入レコード店を冷やかすのがぼくたちのお決まりのコース。各々お気に入りのレコードを手に、その戦果を行きつけの喫茶店で披露し合い、そのまま友人の下宿になだれ込んで酒を飲みながらレコードを聴く。今にして思えば最高に贅沢なひと時だった。
そんな友人たちの薫陶を受け、元々ロックしか聴かなかったぼくは、ジャズやクラッシックにも興味を持つようになり、様々なジャンルの音楽を楽しむようになった。友人が自作のフルレンジスピーカーで聴かせてくれたコルトレーンやマイルスは今も鮮明にぼくの耳に残っているし、タンノイのスピーカーで鳴らしてくれたバッハやベートーベンは改めてクラッシックの素晴らしさを教えてくれた。
ちなみに大学時代にバイト代を貯めて買ったヤマハのプレーヤーとスピーカーは今も健在で、35年前と変わらずぼくに至福のひと時を提供し続けてくれる。
いや~、音楽ってホントにいいもんですね!(水野晴郎風に)
■70年代前半に流行った4チャンネルステレオで、小型のリアスピーカーが2つ追加されるのがミソ。
CD-4とかマトリックスとかいろんな方式があったが、あっという間にブームは去っていった。
■今も現役のヤマハのプレーヤーとスピーカー。
同時期に買ったサンスイのアンプは惜しくもリタイアし、二代目のオンキョーになっています。