伊勢神宮への鉄道は明治中期以降、亀山から南下する参宮鉄道が唯一のものでしたが、昭和6年に前身の参宮急行宇治山田駅が建設され、大阪の上本町と伊勢が結ばれました。
近鉄宇治山田駅はJR参宮線をまたぐ高架駅で、3階のプラットホームに列車が入ります。
現在は新幹線をはじめ多くの駅がこのスタイルですが、当時としては鉄道が建物の中を通るという駅舎は前例がなく、まさに現在の駅舎の先駆けとなりました。
外宮側に向いた長大なファサードはクリーム色のタイルに覆われ、スカイラインの赤いスペイン瓦とあいまって、伊勢神宮の表玄関にふさわしい品のある柔らかい雰囲気を醸し出しています。
設計は多くの鉄道駅舎を手がけた建築家の久野節。
久野は元鉄道省の建築課長で、旧南海難波駅や高島屋大阪店などを設計しています。
■細長いファサードの右端の塔屋が外観のアクセントになっています
■中央玄関部分には草花の模様をあしらったテラコッタ(陶板)を多用しています
■タイル張りの壁面に連続する縦長の窓と装飾テラコッタやスペイン瓦がクラシカルで重厚な雰囲気を演出
現代の機能一点張りの金太郎飴的駅舎などにもぜひ見習ってほしい外観です
■御影石を使った豪華な玄関廻りはデパートやホテルを思わせます
■塔屋の上にはあんどんを思わせる細長い照明灯を設置
■2階部分まで吹き抜けの開放感のある1階コンコース
■八角形の高窓から優しい光がそそぎこみます
◆宇治山田駅~近畿日本鉄道山田線・鳥羽線/三重県伊勢市岩淵2丁目1-43
竣工:昭和6年(1931)
設計:久野節
施工:大林組
構造:RC造3階建
撮影:2015/09/21