がんで亡くなる患者さんは、病気の影響で、最期はやせ細っている方が多くいらっしゃいます。
こんな状態を、るい痩(emanciation)と呼びます。病的に脂肪組織が減少した状態を示すそうですね…。
言葉遊びはさておき。
佐治さん(仮名、男性)は、私が今までお世話させていただいた患者さんの中で、ダントツ、るい痩が激しかった方だと思います。
体幹の痩せはもちろん、顔面の痩せが半端じゃなくて…。
2日くらいお休みを経て、佐治さんのお部屋に出向くと、
「また、すごく痩せたんじゃない?」って、ぱっとみて、わかるくらい、るい痩が著しい患者さんでした。
例によって?私は患者さんの看取りの場面に立ち会うことに何の躊躇いもない私ですが、佐治さんの場合には、違っていました。
正直にいって、佐治さんの看取りに立ち会うとしたら…どないしよ?と思っていました。
なぜかというと…。
顔の痩せ具合が強くて…。
大したことのないように聞こえるかもしれませんが、私にはこれが大問題のように思えていました。
で、ねぇ。
そんなことを考えていると、神様は意地悪です。
佐治さんの看取りの場面を私にくださったのです。
えええええっ。
佐治さんのやせ細ったお顔、どうしたらいいの????
しかも、夜勤だしーーーっ。
やせ細った佐治さんのお顔は、頬や顎、眼窩のあたりが頭蓋骨の輪郭がくっきりとわかるくらいのものでした。
痩せた患者さんというのは、目を閉じることができません。
むりくりに閉じようとしたらわかるものですが、目を閉じるだけの瞼の余裕がないのです、痩せがひどすぎて。
エンジェルメイクというものがありますが…。
(エンジェルメイク=亡くなった患者さんに顔などにメイクを施し、できるだけその人らしい姿にして差し上げること…をいいます)
↑ ↑ 学術的に、こんな説明でよろしいかどうかはご勘弁ください。 ↑ ↑
こんなにやせ細ったために瞼を閉じることができない患者さんの目を閉じるにはどうしたらよいのか…。
困りました。
普通なら、ここまでるい痩の進行していない患者さんならば、
①ひたひたに浸したガーゼを目を閉じた状態で目の上にしばらく置いておく。
②眼球と瞼の間のところにうすーく綿やティッシュを詰める。
という手があると思うのですが、こんな手ではびくともしない。
文献では、「二重瞼用接着剤を使って瞼を閉じています」というのがあったわ、と想起して、アイプチを使ってみましたが、すぐに瞼は開いちゃう。
で、アロンアルファを使うことにしたのです。
おかげで、無事に目は閉じたものの…。
眼球を覆うだけの瞼の余裕がなかったために…。
目を閉じようと瞼をひっぱってしまったためにまつ毛が奥に引っ込んでしまった…。
しかも、上と下の瞼の接着面は、まるで「波のような」線になってしまい…。
人のお顔というものは、目を閉じた状態でまつ毛がないというのはとても不自然な状態だなと、あらためて思い知らされました。
少しでも自然な状態で眠っていただきたい…。
そう思ったポンは、上と下の瞼のところにマスカラを使って立体感を何とか、かんとか出せるようにラインを作ってみましたが…。
結果は散々。
目を閉じている佐治さんの姿がどうしても不自然に見えて仕方ありませんでしたが、私にはこれ以上、どうすることもできませんでした。
夜勤帯の時間に、おそろしいくらい時間をかけてみたけれど、ぱっとせず…。
メイクにあくせくしている間、相方には一人でナースコールの対応をしてもらって、とっても負担をかけちゃうし…。
もちろん、ご家族にはエンバーミングの情報も提供しましたが、全く、望んではおられませんでした。
佐治さんのお姿を見たご家族はポンにお礼を言ってくださいましたが、本当のところ、どうだったのだろう…。
このことがとても気になりました。
どうしたらよかったのかなぁ。
メイクで「ふっくら」みせるにも、このるい痩では限界があるし…。
ひょっとして、目は閉じずに開いたままにする方が、よっぽどましだったのかしら…とか…今更ながらに、ずっと考えています。
「エンジェルメイクは、テクニックではなく、グリーフケア含むケアの一環としてあること」
確かに、それはそうだけど、ある程度のテクニックは必要であると今回のことで痛感しました。
エンジェルメイクについて、もっと勉強しないといけないなぁ。
それまでの人生を重ねてきたご本人が、できるだけご本人らしくあるためにも…。
なにより、ご本人にとって大切な人であるご家族が、できるだけ穏やかにご本人を天国に送り出せるような気持ちを少しでももっていただけるように…。