緩和ケアで行こう

へなちょこ緩和ケアナース?!のネガティブ傾向な日記です。

日常が、非日常

2009-05-25 21:45:31 | 緩和ケア病棟
 
 病院は、患者さんにとって、生活の場です。


 『お部屋でタバコを吸ってもいい?』

 だめだよね、絶対。酸素を使っている時だってあるし、火事になったら他の患者さんにも迷惑がかかるしね。
 家なら、いつでもどこでも吸えるんでしょうけど。



 『真夜中だけど、散歩に行って、夜風に当たりたいのよ。』

 無理かな。だって、自分ひとりで歩くには自信がないし、看護師さんの手を借りないといけないしね。それに、夜は21時に消灯。夜は寝るもん!って決まっているかのように、周りが静まっちゃって。夜に活動していたら、看護師さんに迷惑をかけちゃう。
 元気な時なら、夜のお出かけなんて、誰にも気を遣わずにできたことなんでしょうけど。



 『今、○○のケーキが食べたい。』

 誰に買ってきてもらえばいいかな。家族も友達も仕事で忙しいんだな。食欲はないけど、ケーキなら、一口、味わってみようかなって思うんだけど。
 元気な時なら、自分で車を飛ばしてお気に入りの店に行って、あれとこれとあれを買って来れるんでしょうけど。



 『今、トイレに行ったばかりだけど、もう、トイレに行きたい。』

 また、看護師さんを呼ばないといけない。看護師さん、忙しそうにしてるし、嫌な顔をされないかな?って気を遣うわー。下の世話をされるのは、つらい。こうなりたくてなったわけじゃないのに。
 まさか、自分が他人に下の世話になるとはね。元気な時なら、心行くまで、トイレに座っていられたんでしょうけど。

 

 病院というところは、やっぱり、療養の場でしかないのでしょうか。
 たとえ、緩和ケア病棟であっても、その人なりの生活の場に近づけるよう、環境を整えて参りますが、やっぱり、限界があります。

 限界があることが、よくないということをいいたいのではありません。
 正直に言って、仕方のないことです。
 限界を見極めた上で、何ができるかを考えることこそが、私たちの役割です。

 環境だけでなく、患者さんの体調や病状も生活に大きく影響します。


 患者さんにとって、
 かつての普通の日常が、非日常になってしまう、それが病院なのでしょう。


 だからって、諦めているわけじゃありません。
 



 

「今」を逃さないように

2009-05-24 19:41:12 | 日々の「ケア」

 患者さんのご家族から、よく、このようなことを耳にします。

 「本人は嫌がっていたけど、ちゃんと病院に連れて行ったら、もっと早く見つかったかもしれない。」
 「本人が痛いって言っていた時から、何かあったんや。どうしてちゃんと気づいてやれなかったのか。」
 「こんなことになるなら、もっと、家族みんなで旅行にでもいけばよかった。」

 これらの中には、「後悔」の気持ちが含まれています。

 患者さんのご家族なら、何とかして楽にしてあげたい、何とか役に立ちたいと思うのは当然のことと思えます。

 そのご家族のケアをするために、私たち看護師の「出番」があるのですが…。

 実は(というほどでもないかもしれないですが。)、
 私たち医療者も「後悔の気持ち」をよく感じるのです。

 それは、病院での日常生活の中でのほんの些細なことであって、時が経って振り返ってみれば、とても大きなことであります。

 
 先日、「あの時を逃さなくてよかった。」という経験をしました。

 西庄さん(仮称)は、がんがいろいろな骨に転移して、自分ではまったく動けない状態になっていて、ベッドでの生活を余儀なくされていました。
 遅くまで残って仕事をしていたある夜、西庄さんに用事があって、その日の夜勤さんと一緒に患者さんのお部屋に行こうと歩いておりました。
 西庄さんの部屋の前で「あれれ?」と思う声を耳にしました。

 
 「きーーーーっ!」「い~~~~~っ!」

 明らかに、「何があったのですか?」と尋ねずにはいられない声でした。よく聞いてみると、ずっとベッドにいることがとてもストレスなので、いらいらして仕方ない、だから、そばのいた夫に当たってたんです、とのことでした。

 苛立ち。

 さて、こんなとき、どうする?

 苛立ちを精神的に不安定になっていると、時間帯が夜間であったことから、睡眠薬や抗不安薬を使用して、眠ってもらうこともできます。
 
 でも。
 この場面はどう考えても、そんなことを患者さん(心身ともに)が要求しているとは思えない…。

 
 私はベッドの上で端坐位になることを提案してみましたが、胸椎の転移の加減で、その体位は返って疼痛が悪化するので無理…、と患者さんから断りがあり…。

 そして、リクライニングの車椅子に移乗していただくことにしました。

 「車椅子に乗りますか?」
 と声をかけると、今までいらいらーーーーーーーっとしていた西庄さんは、本当に「がらっと!」という言葉がふさわしいくらい、曇った表情から、子どものようなとても可愛らしい笑顔に変わりました。

 ベッドでの生活を余儀なくされていた西庄さんは、緩和ケア病棟に入院してから、緩和ケア病棟がどんな構造になっているのか、病院の中はどうなっているのかというオリエンテーションを十分に受けられれずに、1週間を過ごされていました。

 ご主人さんと夜勤の担当看護師とともに、緩和ケア病棟と病院内をぐるぐる回って、約1時間ほど、散歩ができました。

 実は、大切な痛み止めなどは点滴や皮下注射で行われていたため、ポンプ類を散歩に持っていくのは至難の技と思われました(夜間帯は看護師の人数も少ないですし)。ベッドから車椅子に移動するときにも、チューブが邪魔になって、少ない人数で移乗するのは大変だー、と思いました。

 そこで、思い切って、車椅子に移乗する時から、すべてのチューブをはずして散歩に行ってもらっちゃいました。

 
 約1時間、痛みが増強することなく、患者さんの苛立ちは完全に和らぎました。


 その翌日から、西庄さんは意識がなくなりました。



 ご主人さんは言いました。
 「あの時が、車椅子に乗れる最後のときだと思いました。車椅子に乗れて、本当に良かったです。」


 本当に良かった…。

 そう思えたのは、私たちスタッフも同じでした。


 もし、あの時、夜勤で人の手がないからということで、翌日にしましょうと声をかけていたなら、西庄さんのいらいらを和らげることができないばかりでなく、車椅子に乗るという大切な時間を作ることすらできなかったと思います。

 けれど。タイミングを捉えて、いつもどんぴしゃにケアをできているかというと、そうでないときもあります。

 私たち看護師の満足が、必ずしも患者さんやご家族の満足につながるわけではありません。患者さんやご家族は、どうしたいのか、何を望んでいらっしゃるのか。
 そこんとこを実現するための行動を起こすタイミングと、患者さんの病状や体力、気持ちなどをうまく見極めることが必要だな、と思った出来事でした。
 
 私たちも後悔したくありませんから。
 

なんとかせにゃならん

2009-05-18 22:10:04 | 

 最近、自分の生活スタイルは至極「よろしくない」と思っています。
 普段は「仕事中心」の生活。朝から晩まで病院で過ごすパターンです。
 それにしても、私の生活ったら…。

 まず、朝がとても弱い。
 社会人になってから学生生活をしてしまったので、夜型人間に拍車がかかりました。
 それなのに、最近は、とても疲れやすくて、仕事から帰って来るとぐったりしてしまって、やらねばならぬことをやるよりも、休息をとることを優先させてしまう毎日。

 このままではいかん…。

 そう思っても、「このままではいかん」生活が続いていることが自分にとっては、すごくストレス!!!
 
 
 生活&体調改善策を練らねば…。

 体重も数年前に比べると、2キロ増えてしまったし。とほほ。


 今、気になるのは、朝の目覚めの悪さもあるのですが、何と言っても体重っ。
 
 目標はマイナス3キロ。
 目標達成のために、逃げ場をなくすために、みんなに公言してみようなんて、本に書いてあるのを見たことがあります。

 で、職場のみんなに、
 「私、夏までに3キロ痩せまーす」と発表いたしまして。

 それを、うちの緩和ケア医に言いましたところ、あるダイエット法を教えてくれました。
 それは、足に錘をつけて歩くこと。
 
 その話を聞いてすぐに、アマゾンで先生お勧めの、Gawriのアンクルウエイトを購入しました。
 
 実は、痩せますぅなんていいつつ、これといってダイエット法を考えていなかった私。
 (もう、すごくいい加減なんだからー。)

 で、今は、片足に1キロのアンクルウエイトを装着して「動いて」おります。
 病院で仕事をしているときにも装着しております。初日は、その状態で病院の階段を1階から4階まで昇ったところ、めまいがしましたが、今では、軽く走れるようになりました。

 そして、私のコーチングのコーチからのお勧めは、体重を毎日記載して、それをグラフにして、視覚的に効果を確認すること。
 (コーチにも宣言しちゃったのよねー。)

 早速、エクセルで体重表を作りまして…。


 なんせ、人よりも数倍食欲があるポンですから…。体重はまだ減ってないのが現状…
 
 でも、日々の仕事が終わった後の疲れが以前よりもましになっているような気がします。

 がんばるぞー!
 とはいいません。意思の弱い自分に過剰なプレッシャーは禁物…。
 (だから、だめなんだよなー。)
 ぼちぼちがんばります。
 

 

行こうよ(5)

2009-05-12 22:54:22 | 患者さん

 同窓会に出席された池畑さん(仮称)は、とても凛とされていました。
 
 出席者が1人ずつ、挨拶をしていきます。トップバッターの池畑さんは、「本当に命がけの病状でここにいるの?」と思えるくらい、しっかりと挨拶をされていました。

 特に、仲のよい同級生さんは、池畑さんが挨拶をしている姿を見聞きし、涙を流されていました。その同級生さんとは、これまで長く池畑さんとやりとりをしていたので、状況をわかっていただけあって、涙を流されていたのだと思います。

 それは、私も同じで…。
 これまでの池畑さんのことを思うと、涙が止まりませんでした。

 詳細を書くと、人物が特定されるといけないので、書くことはできませんが…。池畑さんが見せてくれた色々な表情、言葉がぶわーーっと思い出されてきました。

 挨拶が終わると、池畑さんは目を閉じていらっしゃいました。
 疲れたのかな?と察しましたが、おそらく、池畑さんは同級生さんみなさんの挨拶が済むまではその場にいようと、エネルギーを温存されているのだと思われました。

 
 無事に会場を後にした私たちは再び、介護タクシーに揺られました。
 同窓会に出席できた喜びをかみしめていたのですが、池畑さんの疲労はピークでした。
 帰りの介護タクシーでの時間は、往きの10倍くらい長く感じました。池畑さんにとってはもっと、もっと長い時間だったのはないでしょうか。
 道路のちょっとした段差で車が揺れることすら、池畑さんの体には負担になっていました。
 「運転手さん、もう少し、ゆっくり行って…。」
 往きはそうおっしゃっていた池畑さんですが、帰りはその言葉を発するエネルギーもなく、眼を閉じたまま、車の揺れにただただ耐えておられました。

 
 同窓会に、どうしても行きたい…。

 その思いは叶えられました。
 おそらく、病院で過ごしていたなら、同窓会に出席するだけの、あれだけのエネルギーが総動員されることはなかったでしょう。
 
 「できることがやりたいこと」。
 そうおっしゃっていた池畑さんの、池畑さんらしい生き方だったと思います。

 最後まで、目標に向かって生きている患者さんのそばにいさせていただけることがいかに光栄かということを経験させていただきました。
 
 池畑さん、ありがとうございました。