緩和ケア病棟に入院してこられる患者さんは、主に、がんの終末期の患者さんです。
「主に」という修飾語の通り、がんの終末期以外の患者さんもいらっしゃいます。
私の言う「それ」は、がんを持っているけれども特に症状はなく、余命もかなりあると思われる患者さん…なのです。要は、病院がその患者さんを引き受けたが、その人の適切な療養場所がなく(制度上の問題も絡んでます)、病院内で療養していただくにあたって、コストを考えると緩和ケア病棟がいいのではないか?と考えられる患者さんです。
緩和ケア病棟に、前記のような患者さんばかりが入院されると、正直にいって、スタッフの士気は下がってしまいます。そのような患者さんは、長期の入院となります。長期の入院とは、最近の在院日数の短縮とは反比例しているほどの年単位を想定できる期間となります。
そうなると、いざ、疼痛や呼吸困難などで緊急に入院しないといけない患者さんのためにベッドを提供できないというストレスから、スタッフの士気が下がってしまうのです。
しかし、一旦、患者さんを引き受けたからには、ちゃんとケアさせていただくことはいうまでもありません。
小田さんは、そんな患者さんのひとりです。
「遠い昔に」大腸がんだったよな~~~、という患者さんです。
小田さんは、脳梗塞を患ったこともあり、普通にコミュニケーションをとることができません。
しかし、限りなく「普通に近い」コミュニケーションもとれるときがあります。
小田さんが緩和ケア病棟にこられた時には、「ぎょっ!」っとするくらい、小田さんは怒り倒していました。
が。
何がきっかけか、何の変化があったのか、何が原因か、担当医も看護師もみなが全くわからない中、ある日突然、お怒りモードから、普通モードに小田さんは変化したのでした。
声をかけたり、体に触れると「ワーーーーーーーーーーーーーー!」と奇声?を発していた小田さんが、
「ありがと」
「はー、調子いいです」
とお話をし始めたのでした。
ただ、普通モードは長続きはせず、お怒りモードと普通モードを瞬間的に交互に変えながら、返答をしてくださっています。
それが小田さんなのだー、と、その反応のひとつひとつの意味を探りながらお世話させていただいている毎日です。
未だに、「わーーーーーーーーー!」っと、まるで辻斬りにあったかのように奇声を発していることがある小田さんです。
ある患者さんから、質問がありました。
「ここにはヤギがおるんかい?」
スタッフ一同、大笑いしつつも、絶句

ヤギ…。小田さんの声は結構大きく、状況の飲み込めないほかの患者さんはいろんな想像をしていることがわかりました。
そんな小田さんなのですが、奇声を発しても、普通に話してくださっても、患者さんとしては愛しい存在です。