増田さん(仮称)は、せん妄になっています。
がんの終末期の患者さんにはせん妄はよくみられます。
過去にせん妄の患者さんのことは何度か書いてきました。
やっぱりですね。
せん妄の患者さんは、一見、「せん妄」という意識混濁のために「つじつまの合わない」「わけのわからない」「ちぐはぐな」言動をとるように見えますが、意味があるように思えて仕方ありません。
その言動には、患者さんがその時に伝えたいことのメッセージが込められているということです…。
増田さんと、夜勤でお付き合いすることになりました。
4時くらいまでは眠っていただけていたのですが、それ以降は15分おきくらいにナースコールが鳴りました。
増田さん、かなり気が短くて、思い通りにならないと、ぴきーーーんっと怒りをあらわにして、時にはナースの手や背中などなどをぴしっと叩いたりします。
それも仕方のないことと思えます。
増田さんは頭頸部がんの患者さんで、発声ができないのです。
増田さんとのコミュニケーションは、筆談とジェスチャーと…、それと。
増田さんとのお付き合いの中で蓄積された増田さんの人となりや生活を吟味できるかどうかにかかってきてます。
で、増田さんとのやりとりで、ほほーーと思ったことが。
新聞屋さんのように早朝に目覚めた増田さん。
唐突に、着替えをしたいとおっしゃった。
増田さんのパジャマの上着は、唾液や痰で汚れていることが常。
ご希望通り、上着を着替えていただいた後、増田さんはズボンも着替えたいと言いました。
ズボンは汚れてはいなかったけど、着替えたいとおっしゃるなら…。持ってこようかぁ、そう思って部屋を出ようとしたのですが、増田さんはさらにボードに書きました。
「色をそろえたい」
病院が貸し出すパジャマって、水色のしましまなのですが、サイズごとに襟や袖、裾などに違った色のラインが入っています。
増田さんの来ているパジャマの色は、茶色。
一瞬、私が上着とズボンのサイズを間違って渡してしまったか?と思ってみてみましたが、上下ともに茶色でした。
そして、私はいいました。
「増田さん、この色は合ってるよ。」
そしたら、増田さん、息を荒くして怒り始めました。
違うっと私を払いのけるように手をさささっと振り回しました。
増田さんはぷいっとそっぽを向いて、諦めたかのように寝転がってしまいました。
着替えるっていってもなぁ、汚れてないし、色をそろえるって、どういうこっちゃ???
しばらく、増田さんのそばにいて、考えちゃいました。
何も考えず、さっさとズボンをはきかえてもらったらそれでよかったのかもしれません。
そうです、考え込むことは何もなかったのでしょうけど、考えちゃいました。
で、ふて寝しているような増田さんの姿をぼーっと眺めながら、ふっと気が付きました。
おおお、よーく見てみると、上下のパジャマの水色のしましまの色の濃さが違うぞーーー。
そうそう、病院のパジャマって、何度も洗濯すると、色褪せているものも結構あるのです。
で、ポンはリネン庫に行って、あまり色褪せていないパジャマを持っていき、増田さんに履き替えてもらいました。
増田さん、履き替えてくれました。
はい。
増田さんが色褪せていないパジャマを着たかった理由はよくわからないままですが、増田さんがあの時にどうしたかったのかということがわかったような感じになったことが、何だかとても嬉しく思えました。
せん妄の患者さんとのお付き合いは、時間がかかるし、「根気」も必要になってきます。
うまくマネジメントができていないせん妄の患者さんが増えると、病棟業務がとんでもなく増えて、病棟崩壊(いいすぎかもしれないけど、本当にこの勢い)につながりかねません。
せん妄の患者さんとかかわるのが面倒に思えることもしばしば。
だって、ほかにも患者さんがたくさんいるのだから…。
「もう、勘弁してよ」そう思うことだってあります。
でもねぇ、そんな時こそ、丁寧に患者さんの言動を見守って、お付き合いするのって大切で、それが結局のところ、患者さんとナースの両者の時間とエネルギーを浪費しない方法だったりすると思うのです。
あの時、「パジャマのサイズは同じだし、汚れてもいないのに、着替えなくてもいいじゃないか」で終わらせていたら、増田さんとのお付き合いは不十分だったのではないかと思います。
ああ。せん妄の患者さんとのお付き合いの原点を振り返らされたなぁ。
と、あらためて思いました。
しかし…。
あのせん妄、もうちょいと向精神薬の調整がいりますなぁ…。