長女(仮称ララ、6歳)のクラスで、本の読み聞かせが終わった後。
廊下に出たら、廊下までついてきたララと一人の男の子(リウ、仮称)が喧嘩を始めた。
先生たちの朝会の時間を利用して行っている読み聞かせである。
担任の先生はまだ職員室から戻ず、その場にいた大人は私だけ。
しかし私は、喧嘩はやめなさい、という言葉を言う気になれない。
(喧嘩も経験、子供時代に喧嘩のしかたをおぼえた方がいい・・・あ、問題発言?
そこでやめさせても、また大人の目が届かない所で喧嘩するに決まっているし)
決着が着くまでやらせよう、と思ってしばらく見ていた。
しばらく、というほどの時間ではなかったかもしれない。
リウがララに足をかけ、廊下に仰向けに転ばされたララの目に涙が出てきた。
・・・そこまで。
ララは涙目のまま真っ赤な顔をして、悔しそうだ。
床で打ったララの後頭部をなでてやったら、周囲で見ていたほかの男の子たちが
「よーしよーし、いたくないよー」と赤ちゃんに言うような口調ではやしたてた。
・・・思わずムカッときたので、大人として介入してやることにした。
厳しい表情で、喧嘩相手のリウの正面に立った。
大人(相手の親)に出てこられて、リウはふてくされた表情である。
まぁ、優しくするつもりはないが、理不尽な叱り方をする気もない。
まず、事実関係を追求した。なぜ喧嘩になったのか。
「ララがよー、朝の歌の時間によー、オレのことジジイって言ったんだよー。」
これがリウの言い分。
怖い顔をした大人にもちゃんと自己主張できる、リウは根性のある男の子である。
周囲の男の子たちが「そうだそうだー、ララがジジイって言った!」とはやしたてる。
ララの方を振り向くと、涙目で首を横に振っている。
一応、双方の言い分を確かめる必要はあるだろう。
「男は黙れ。女の子で、誰か聞いた子いる?」と周囲にいる子たちを見渡した。
ララの周囲をとりまく女の子たちは目をそらし、黙って首を横に振った。
余計なことを言ってとばっちりをくらうのもイヤなんだろう。
「そうか。知らないのか。誰も何も聞かなかったのか。」と言って、
ひと呼吸、ため息をついてみせた。
するとララの隣にもぐりこんできた女の子が私の目を見つめて
「リウが先にララに何か言ってたんだよ」とララの肩を持った。
よし。
これで双方の言い分を支持する友達がつき、どちらもメンツが立つ。
喧嘩の勝者、リウの目をみつめて確認した。
「リウもララに何か言ったんだな?」
リウ、黙ってうなずく。正直でよろしい。
「じゃあ、あいこだな?」
リウは同意した。喧嘩の原因追及なんて、これで十分だ。
すかさず話を変える。
「リウは、喧嘩が強いのか。」
リウは固く口を結んだまま、うなずいた。
「確かに強いな。喧嘩してララを泣かしたんだもんな。」
負けん気だけで立ち向かっていたララに対し、冷静に足をかけて倒したリウは、
ララよりはるかに喧嘩慣れしていそうな様子だった。
とりまきの男の子がはやす。「リウは強いんだよ、クラスで一番強いんだよ!」
周囲がうるさいが、私はリウしか見ていない。
リウも強い視線で私をにらみ返す。
子供と大人とはいえ、目をそらした方が負けだ。
視線での勝負である。
「アタシは強いよ。小学生の時には男の子を泣かしてたよ。」
ララを背後にして、リウをにらみつけてハッタリをかました。
リウの目つきがけわしくなる。
「でもアタシの娘のララは、アタシと違って、弱いな。
リウに泣かされるぐらいだもんな。リウより弱いヤツなんだな。」
リウはうなずいた。
「自分より弱いヤツを泣かすのが、強いヤツのすることか?」
リウは一瞬、目を見開いて、首を横に振った。
「弱いものいじめは、卑怯者のすることだよな。リウは、卑怯者か?」
リウは強く首を横に振った。
「卑怯者じゃないよな。クラスで一番、強いんだよな。
だったら、弱いヤツをからかったり泣かしたりしないで、守ってやってくれ。
それが、強い男のすることだろう?」
リウは私の目を見つめたまま、うなずいた。
「他にも卑怯者がいて、弱いものいじめするかもしれない。
そういう時に、弱い者を守るのが、ほんとうに強い男だよな?
頼んだぞ。強い男は、弱いヤツを守ってくれ。」
リウは私をにらんだまま、うなずいた。
これ以上、リウに言うことはない。
強い女と強い男の間に交わされた盟約なのだ。
他の子たちが話しかけてきて、適当に応対しながら、私はずっとリウから目を
離さなかった。リウもずっと私を見ていた。
リウが教室に入ったあと、ララの頭をなでて「頑張れ」と小さく声をかけた。
ララは悔しいだろう。子供の喧嘩でも、敗者は敗者。
あとはララ自身が頑張るしかない。
弱いことが悔しいんだったら、その悔しさをバネにして、強くなるんだ。
そしてリウ。強い者もただ強ければいい、何をしてもいい訳ではない。
強い者、力を持つ者は、正しく力を行使するように心がけねばならないのだ。
・・・な~んて気取ってみたが。
子供の学校での喧嘩に思いっきり介入する親、になってしまった。自己嫌悪。
これだけでいじめっ子が頼れる味方になるとは全然、思わないし。
でも、こういうのを通して、強者と弱者の正しい(?)あり方が、
子供たちの心のどこかに残ってくれたらいいんだけどなー。
追記:その後、2週間。「リウどうしてる?」とララに尋ねた。
「前とは違うよ。男とは喧嘩してるけど、女とは喧嘩しなくなったし。
ララがリウの方みたらニコッて笑ったりするんだよ。」という返事。
ふむふむ。クラスで1番強い男としての余裕と風格だな。
廊下に出たら、廊下までついてきたララと一人の男の子(リウ、仮称)が喧嘩を始めた。
先生たちの朝会の時間を利用して行っている読み聞かせである。
担任の先生はまだ職員室から戻ず、その場にいた大人は私だけ。
しかし私は、喧嘩はやめなさい、という言葉を言う気になれない。
(喧嘩も経験、子供時代に喧嘩のしかたをおぼえた方がいい・・・あ、問題発言?
そこでやめさせても、また大人の目が届かない所で喧嘩するに決まっているし)
決着が着くまでやらせよう、と思ってしばらく見ていた。
しばらく、というほどの時間ではなかったかもしれない。
リウがララに足をかけ、廊下に仰向けに転ばされたララの目に涙が出てきた。
・・・そこまで。
ララは涙目のまま真っ赤な顔をして、悔しそうだ。
床で打ったララの後頭部をなでてやったら、周囲で見ていたほかの男の子たちが
「よーしよーし、いたくないよー」と赤ちゃんに言うような口調ではやしたてた。
・・・思わずムカッときたので、大人として介入してやることにした。
厳しい表情で、喧嘩相手のリウの正面に立った。
大人(相手の親)に出てこられて、リウはふてくされた表情である。
まぁ、優しくするつもりはないが、理不尽な叱り方をする気もない。
まず、事実関係を追求した。なぜ喧嘩になったのか。
「ララがよー、朝の歌の時間によー、オレのことジジイって言ったんだよー。」
これがリウの言い分。
怖い顔をした大人にもちゃんと自己主張できる、リウは根性のある男の子である。
周囲の男の子たちが「そうだそうだー、ララがジジイって言った!」とはやしたてる。
ララの方を振り向くと、涙目で首を横に振っている。
一応、双方の言い分を確かめる必要はあるだろう。
「男は黙れ。女の子で、誰か聞いた子いる?」と周囲にいる子たちを見渡した。
ララの周囲をとりまく女の子たちは目をそらし、黙って首を横に振った。
余計なことを言ってとばっちりをくらうのもイヤなんだろう。
「そうか。知らないのか。誰も何も聞かなかったのか。」と言って、
ひと呼吸、ため息をついてみせた。
するとララの隣にもぐりこんできた女の子が私の目を見つめて
「リウが先にララに何か言ってたんだよ」とララの肩を持った。
よし。
これで双方の言い分を支持する友達がつき、どちらもメンツが立つ。
喧嘩の勝者、リウの目をみつめて確認した。
「リウもララに何か言ったんだな?」
リウ、黙ってうなずく。正直でよろしい。
「じゃあ、あいこだな?」
リウは同意した。喧嘩の原因追及なんて、これで十分だ。
すかさず話を変える。
「リウは、喧嘩が強いのか。」
リウは固く口を結んだまま、うなずいた。
「確かに強いな。喧嘩してララを泣かしたんだもんな。」
負けん気だけで立ち向かっていたララに対し、冷静に足をかけて倒したリウは、
ララよりはるかに喧嘩慣れしていそうな様子だった。
とりまきの男の子がはやす。「リウは強いんだよ、クラスで一番強いんだよ!」
周囲がうるさいが、私はリウしか見ていない。
リウも強い視線で私をにらみ返す。
子供と大人とはいえ、目をそらした方が負けだ。
視線での勝負である。
「アタシは強いよ。小学生の時には男の子を泣かしてたよ。」
ララを背後にして、リウをにらみつけてハッタリをかました。
リウの目つきがけわしくなる。
「でもアタシの娘のララは、アタシと違って、弱いな。
リウに泣かされるぐらいだもんな。リウより弱いヤツなんだな。」
リウはうなずいた。
「自分より弱いヤツを泣かすのが、強いヤツのすることか?」
リウは一瞬、目を見開いて、首を横に振った。
「弱いものいじめは、卑怯者のすることだよな。リウは、卑怯者か?」
リウは強く首を横に振った。
「卑怯者じゃないよな。クラスで一番、強いんだよな。
だったら、弱いヤツをからかったり泣かしたりしないで、守ってやってくれ。
それが、強い男のすることだろう?」
リウは私の目を見つめたまま、うなずいた。
「他にも卑怯者がいて、弱いものいじめするかもしれない。
そういう時に、弱い者を守るのが、ほんとうに強い男だよな?
頼んだぞ。強い男は、弱いヤツを守ってくれ。」
リウは私をにらんだまま、うなずいた。
これ以上、リウに言うことはない。
強い女と強い男の間に交わされた盟約なのだ。
他の子たちが話しかけてきて、適当に応対しながら、私はずっとリウから目を
離さなかった。リウもずっと私を見ていた。
リウが教室に入ったあと、ララの頭をなでて「頑張れ」と小さく声をかけた。
ララは悔しいだろう。子供の喧嘩でも、敗者は敗者。
あとはララ自身が頑張るしかない。
弱いことが悔しいんだったら、その悔しさをバネにして、強くなるんだ。
そしてリウ。強い者もただ強ければいい、何をしてもいい訳ではない。
強い者、力を持つ者は、正しく力を行使するように心がけねばならないのだ。
・・・な~んて気取ってみたが。
子供の学校での喧嘩に思いっきり介入する親、になってしまった。自己嫌悪。
これだけでいじめっ子が頼れる味方になるとは全然、思わないし。
でも、こういうのを通して、強者と弱者の正しい(?)あり方が、
子供たちの心のどこかに残ってくれたらいいんだけどなー。
追記:その後、2週間。「リウどうしてる?」とララに尋ねた。
「前とは違うよ。男とは喧嘩してるけど、女とは喧嘩しなくなったし。
ララがリウの方みたらニコッて笑ったりするんだよ。」という返事。
ふむふむ。クラスで1番強い男としての余裕と風格だな。