早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和九年三月 第十七巻三号 近詠

2021-08-05 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年三月 第十七巻三号 近詠

  近詠
早春の今日は野を見て来りけり

島といふも下萌をたゞ渉り越し  

春山のいさゝか深し水の音

梅の花幹にも生まれ咲けるかな

冱へ返り物干し竿も枯の中

初雷をうたがふ乙女みたり哉

古草の水とひとつになびきけり

東風吹いて港こゝらは農家かな

櫻苗木肌たのみに買ひにけり

硯汁これは誤植や春浅き

茎立にいまの心を措きにけり

風邪いまだ癒らず鉢の蕗の臺

春霧鶴は飛ばむと檻の中

寺門とも入るに空地の春時雨

苜蓿昃れば我と踏みありく

風呂敷に草草履だしけり春のひと

耕してある土親し雨の降る

細流れ草摘みのみな傳ひゆく

春の星丘は家積む暗さ哉

蛤を斗つて風の光るかな

しゃぼん玉の子は子で寒き霞かな

菫咲くひとつに跼み春邊哉

渡舟みち二すぢ歟あり冬磧

   大和室生寺にて
水に鮎その朱ヶの橋渡るなり

湖の風折りにつめたし草萌ゆる

   早春社本句會
冱返り雪のよごれも温泉山哉

   早春社一月例會
行人に波打ちよする初霞

初霞入りて伏木の苔をふむ

   早春社神戸例會
薄氷に松の内なる小門かな

餅花を今朝も掃くなり松の内

   地厚庵櫻寧会
燈の下の畳の蟲も夏近し

春深く山の夜に鳴く蛙哉

   早春社偶座句會
俎に冬至のかぼちや日あたれり