宋斤の俳句「早春」昭和九年十月 第十八巻四号 近詠 俳句
近詠
街空を渡る聯鴉が秋の風
おとろふるさまに草莖のいと赤し
草わけて馬はたてがみ露の秋
霧のなか人来て話す山の窗
ひとり生江の白雛頭や子規忌月
朝寒や水底映る波のかげ
句座の燈をふりかへりゆく花野哉
雲の遠ちくろずむさまが秋の島
暮れてくるしゞま青栗仰ぎけり
蝶々も木の葉のたぐひ里夕
大風大水害 (九年九月二十一日 近畿を襲った大風大水害)
颱風の眼とか川空彼の時ぞ
風白魔矢を雨黒魔槍をたゞ面り
船が筏が颱風いまや川たらず
颱風や硝子をいのち支へ居し
観念に掻き込む飯や颱風なほ
颱風のはれて夢飛ぶ鷺しろし
吟句座
こゝらより蟲深くなり月の徑
石垣に耳を寄せゆく蟲の徑
蟲腫れて月の木の間をひろふかな
蟲の徑筧のもれに馴れて往く
耳に選る蟲いろいろと萩の下
馬追は木の中らしも闇に彳つ
溝流れこゝに音して蟲もまた
かんたんの音と言ひ合ひて立ちにけり
萩さやか夜目にも花の蟲時雨
ゆき馴れの戻り馴れなる蟲の夜
干飯
白川や石のうへなる干飯笊
干飯ひろげて石臼の目もなかりけり
萩の寺圓座
秋なれば萩こそ寺へみち親し
くれぐれや萩に芭蕉に雨の降る
松の下遠明かりして秋の天
早春社九月本句會
芋畠の露に起きたる泊り哉
芋畑の風なるところ喜雨あり
芋畑のしどろ野露に風立ちて
冷じの野伏せびとの鼾かな
冷じの背負ふて帰る草の丈
宋斤先生歓迎句會(郡山)
於郡山赤膚山楽焼の窯元 尾西楽斎氏居
水團扇鵜飼どころの絵なりけり
陶床に露しめりなる團扇かな
夜の蝉や樹々ふかく来て露匂ふ
近詠
街空を渡る聯鴉が秋の風
おとろふるさまに草莖のいと赤し
草わけて馬はたてがみ露の秋
霧のなか人来て話す山の窗
ひとり生江の白雛頭や子規忌月
朝寒や水底映る波のかげ
句座の燈をふりかへりゆく花野哉
雲の遠ちくろずむさまが秋の島
暮れてくるしゞま青栗仰ぎけり
蝶々も木の葉のたぐひ里夕
大風大水害 (九年九月二十一日 近畿を襲った大風大水害)
颱風の眼とか川空彼の時ぞ
風白魔矢を雨黒魔槍をたゞ面り
船が筏が颱風いまや川たらず
颱風や硝子をいのち支へ居し
観念に掻き込む飯や颱風なほ
颱風のはれて夢飛ぶ鷺しろし
吟句座
こゝらより蟲深くなり月の徑
石垣に耳を寄せゆく蟲の徑
蟲腫れて月の木の間をひろふかな
蟲の徑筧のもれに馴れて往く
耳に選る蟲いろいろと萩の下
馬追は木の中らしも闇に彳つ
溝流れこゝに音して蟲もまた
かんたんの音と言ひ合ひて立ちにけり
萩さやか夜目にも花の蟲時雨
ゆき馴れの戻り馴れなる蟲の夜
干飯
白川や石のうへなる干飯笊
干飯ひろげて石臼の目もなかりけり
萩の寺圓座
秋なれば萩こそ寺へみち親し
くれぐれや萩に芭蕉に雨の降る
松の下遠明かりして秋の天
早春社九月本句會
芋畠の露に起きたる泊り哉
芋畑の風なるところ喜雨あり
芋畑のしどろ野露に風立ちて
冷じの野伏せびとの鼾かな
冷じの背負ふて帰る草の丈
宋斤先生歓迎句會(郡山)
於郡山赤膚山楽焼の窯元 尾西楽斎氏居
水團扇鵜飼どころの絵なりけり
陶床に露しめりなる團扇かな
夜の蝉や樹々ふかく来て露匂ふ