早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和九年五月 第十七巻五号 近詠

2021-08-08 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年五月 第十七巻五号 近詠

  近詠
花の京にひとり歩いて暮れにけり

暮れて去ぬ風車賣風車

夜の澄むは春のさびしさ柳かな

春月にそびらし語る窓のひと

丹生三社詣でて泊まり花うぐひ

春雨を風にあそびて笹の末

雪柳散り浮くが瀬にひかれけり

近みちは漁家にかげろう燃えにけり

春宵や裳おろして町に入る

畑中に藪も浅けれ春の寺

常にして夕鳥低き汐干哉

山吹の水に朝日の水馬

日のいろに藤いとけなく咲きにけり

春暁のなにかと笛もきこゑけり

晝はなにも出来ずには居て春火鉢

櫻過ぎて降るいち日の雨に居る

花ちれば柳にかくれ交み鳥

船に音春も短夜しらしらと

笠ぬぎて遍路ゆくなり餘花の下

水に咲く地に黄なる咲く夏近し



   下関より
春の山にはりまの山の鳥と浮く

野の水や春あかつきの日南して

雲とけて霞となりぬ花近し

雲の中雲遠くして春の朝

花近し雲はあしたのひろがりに

山の上見ゆる菜畑が春の朝

春朝の机の上の白磁かな

春の朝ひとふた鉢は洋花哉

  小門にて
東風の海にはるかたゝまれ春霞

小寒くも彌生曇って海のいろ

潮風や松の間そよぐ花梢

春潮に凡そ十松亭々と

  報濟園
春落葉十景臺の卓の上

一水のありて睡蓮巻葉かな

陶床のこゝに全望春の海

草萌の眞砂一所にかしこみぬ

濱沙をむらさき吸へる蜆蝶

漁家町のとあるところの芽の柳

ぬれぬれの海藻ひろげて東風渡る

  下関湾内
春風の湾内横切る渡船哉

鮫に厨のこゝろを春曇る

汽車のまゝ客乗す船も春港

桃供華ほころぶ墓がお初哉


  長老を壽く
春夜吟七十有翁を友と呼ぶ

長老にあやかる梅の一句哉

   大物庵追憶 十六年住硯心亭すでに毀たれ初めて形なし
明け易や昨日はむかし舊虛亡し

筍を毎日食へば花過ぎぬ

   春潮
春潮の波のかしらを汲みにけり

一桶に春潮を汲みしづめけり

船まどのひとつが汲める春の潮

いね足りし朝に若草ふみ入りぬ

若草に山往く霧の沈みけり

若草に小さき虫のはづかしげ

若草に風のまん中人たてり

  早春社四月本句會
春の闇林中鳥居また林

春の闇の鮎そだつ水さらに濃し

花の鳥傘の光りにちりにけり

花に鳥遠くに鐘のなりながら

花に鳥人に夕ぐれせまりつゝ
 
  早春社天王寺句會例會
よき朝と思ひ旅立つ木の芽哉

雨ためて楓木の芽咲きにけり

  早春社無月例會
麓や硯洗ふて池にごす

春雷や梢にかゝる鵙の贄

  早春社神戸例會
さざ波や浦輪日和をつぼやき屋

つぼやきのさざえの俵かげろへる

  早春社浪速例會
燈もたゞに朧ふかつめ木場の水

放牛の中を歩みつ春の鳥

  大和三輪しきしま句會
山風の耳に寒さを曾遊の地

暮れがてや芝置く雪を火桶より

  六橋観偶座句會
残寒やいまの落葉が芝に浮く

  本社樓上臨時句筵
冬はれの太融寺入れば古着市

ものみなに冬晴れの辻地蔵哉

冬はれの船が行くほど棹光る

かげろうに靴がうれしき子供哉

水取や小雪さらさら竹の中

一院の裏あけすけに春田哉

東風のすえ霞よせたる小島かな

手袋の指にてつまむ蜆貝