宋斤の俳句「早春」昭和九年六月 第十七巻六号 近詠 俳句
近詠
垣内なほ家に遠しや若楓
薫扇を柱にかけて夏来たる
虹いまに消ゆるとも人を待ちにけり
時鳥去って百鳥朝となる
浴衣着てもたるゝ橋の片てすり
夏ざしき相對したる燈の遠き
麥の秋島は夕の鳥とびて
走り雲ひとところ捲いて瀧の空
川軒に日覆して町の樵夫哉
あくせくとことを思ひつ扇哉
短夜の机になにもせで明けぬ
のがれ出て旅に来れば若葉照る
我 庵
桟橋に庭づくりして夏暁かな
昨夏大和室生句會にて貰ひたるせきこく我が家の鉢に咲く
石斛の花のほの香は室生かな
大野櫻里君より江州日野の石楠を今年また送られて
石楠を抱いて日野の飛脚かな
長府行吟
日頼寺
椿あかく山號曰く大雲山
關門や東風寒きより海のいろ
四月三日春帆樓の國旗哉
春陰をかしこみ拜す御陵哉
海ひたと鳥居のたちて春の風
下関言葉を模す
吟行やみな作つちよる春の丘
備考:可春、百青両氏の作句稿中に漏したり
餘花として山驛の朝雨の降る
山の上すこし平や餘花の雨
不用意を激しく餘花の雨ふりぬ
夜はさらに草木青くて春惜しき
第8回楠公忌俳句大會
楠公忌社内寺中と雨と往く
雨となれば懐古さらなり楠公忌
若葉雨にけふ集ふなる楠公忌
席上『即時即景』
細雨して遠くはゆるゝ若葉山
尼崎俳句會創立二十周年記念大會
花の中木の芽一二の涼しけれ
跫音の花にひゞくを怖れけり
早春社四月例會
雨のせて夕となりぬ葱坊主
花の雨ひとりひとりと縁に彳つ
ねぎの花桔槹あれば汲みあそぶ
貝からを小みちにふみて花の雨
早春社天王寺例會
尾をあげて子雀そこら往き失せぬ
たんぽゝや寝てゐた猫の起きてゆく
永尾宋斤先生歓迎句會 創立三周年 下関於紅石観
かすむ野は蝌蚪の國にも曇りけり
見はるかす磯山春の一二亭
陶床に春の海邊のぬくさかな
蝶とんで春の藻の乾き
春浦邉寺門のあれば潜りけり
蝌蚪それに長幼あるを見たりけり
蝌蚪それに長幼あるを見たりけり
港春波のすぐより宮の磴
春の浦空なく星と暮れにけり
春海邊ひたと一門閉したる
暮れもどる藻刈りの翁も春磯邊
天地にうまれておたまじゃくし哉
宮丘を越しても春の磯邊哉
町裏や春の濱邉の燈の暮れず
石臼を汀に沈め蝌蚪はれぬ
春の夜の膝にならして土の鈴
窓の燈の路次を行く人春の夜
早春社同人水曜會
猫の戀見ゆる湖のみ光りけり
立春會報
二三枝がほどは桃花を挿し残し
水鳥のぬらしゆく艸芳はしく
大斧の草に光って百千鳥
百千鳥收つて夜は星の數
同人句會
莖立ちの苔すゞしく重なりぬ
窓の下川の餘地あり莖立てり
町の中花咲いて春あかつきかな
近詠
垣内なほ家に遠しや若楓
薫扇を柱にかけて夏来たる
虹いまに消ゆるとも人を待ちにけり
時鳥去って百鳥朝となる
浴衣着てもたるゝ橋の片てすり
夏ざしき相對したる燈の遠き
麥の秋島は夕の鳥とびて
走り雲ひとところ捲いて瀧の空
川軒に日覆して町の樵夫哉
あくせくとことを思ひつ扇哉
短夜の机になにもせで明けぬ
のがれ出て旅に来れば若葉照る
我 庵
桟橋に庭づくりして夏暁かな
昨夏大和室生句會にて貰ひたるせきこく我が家の鉢に咲く
石斛の花のほの香は室生かな
大野櫻里君より江州日野の石楠を今年また送られて
石楠を抱いて日野の飛脚かな
長府行吟
日頼寺
椿あかく山號曰く大雲山
關門や東風寒きより海のいろ
四月三日春帆樓の國旗哉
春陰をかしこみ拜す御陵哉
海ひたと鳥居のたちて春の風
下関言葉を模す
吟行やみな作つちよる春の丘
備考:可春、百青両氏の作句稿中に漏したり
餘花として山驛の朝雨の降る
山の上すこし平や餘花の雨
不用意を激しく餘花の雨ふりぬ
夜はさらに草木青くて春惜しき
第8回楠公忌俳句大會
楠公忌社内寺中と雨と往く
雨となれば懐古さらなり楠公忌
若葉雨にけふ集ふなる楠公忌
席上『即時即景』
細雨して遠くはゆるゝ若葉山
尼崎俳句會創立二十周年記念大會
花の中木の芽一二の涼しけれ
跫音の花にひゞくを怖れけり
早春社四月例會
雨のせて夕となりぬ葱坊主
花の雨ひとりひとりと縁に彳つ
ねぎの花桔槹あれば汲みあそぶ
貝からを小みちにふみて花の雨
早春社天王寺例會
尾をあげて子雀そこら往き失せぬ
たんぽゝや寝てゐた猫の起きてゆく
永尾宋斤先生歓迎句會 創立三周年 下関於紅石観
かすむ野は蝌蚪の國にも曇りけり
見はるかす磯山春の一二亭
陶床に春の海邊のぬくさかな
蝶とんで春の藻の乾き
春浦邉寺門のあれば潜りけり
蝌蚪それに長幼あるを見たりけり
蝌蚪それに長幼あるを見たりけり
港春波のすぐより宮の磴
春の浦空なく星と暮れにけり
春海邊ひたと一門閉したる
暮れもどる藻刈りの翁も春磯邊
天地にうまれておたまじゃくし哉
宮丘を越しても春の磯邊哉
町裏や春の濱邉の燈の暮れず
石臼を汀に沈め蝌蚪はれぬ
春の夜の膝にならして土の鈴
窓の燈の路次を行く人春の夜
早春社同人水曜會
猫の戀見ゆる湖のみ光りけり
立春會報
二三枝がほどは桃花を挿し残し
水鳥のぬらしゆく艸芳はしく
大斧の草に光って百千鳥
百千鳥收つて夜は星の數
同人句會
莖立ちの苔すゞしく重なりぬ
窓の下川の餘地あり莖立てり
町の中花咲いて春あかつきかな