宋斤の俳句「早春」昭和九年八月 第十八巻二号 近詠
朝涼の乙鳥に渡舟あがりけり
鳴く蟲の微細生れて庭の土
雫する雨に葡萄の花を見る
室生桂村君より、はつちく筍を送られて(二句)
黒筍の蕗の山露匂ひけり
黒筍はきりそろえたる輪口かな
枝なりの實梅なかなかこぼれけり
梅雨出水欄下四國へ船出づる
日盛りの甍對岸一木なし
潮を棹す巨木の筏夏の夜
どくだみの花の田舎の廻り庭
起き出でて喜雨をながむる川の面
喜雨の音かくもはげしや川を打つ
喜雨のなか草のなか飛ぶ蛙かな
大和郡山赤乾膚燒を訪ふ (五句)
夏のれん麻潜り出て陶土干す
山と積むそこら陶もの葭簀陰
ロクロ場
水の手に土いぢる業の片かげり
老山に炎涼々やのぼり竈
陶に句をこゝろみつ夏座敷
しみじみと見る雲の峰他郷かな
山野に往きし時、あたりの土地を持ち帰り
一鉢にする私癖あり程經ていろいろの草の生ひたつに
會游の追懐甚し (四句)
雑草にまかせさながら露涼し
そのうち山城木幡の鉢
齒朶涼し實生の松の一木して
河内三日市山の鉢
咲き出でて釣鐘草や梅雨の晴れ
奥吉野の姥ヶ峠の鉢
夏木して柏楓とそよぎけり
昨日鹿壺君播磨の損保より、今日は是雲君より吉野の鮎を贈られて
膳上に富むは鮎たり夕端居
うたかたの花と面に箱眼鏡
班猫によきほどついて渓くだる
夏かすみ鳥の行方のふかき哉
毎日の机上亂雑極暑哉
芳里君より止々呂美の河鹿を貰ふ
櫓が鳴いて欄下はあれど河鹿哉
河鹿鳴くやとある旦の雨知って
河鹿笛夜更けの獨り弄ぶ
蛇涼し三千院の石崖に
鳩逃げ逃げ寺僕追ひ追ひ打水す
月見草汀に風の消ゆるかな
早春社同人大會 <涼一切 花ざくろ>
樹下石上夫子臥したる臍涼し
梅雨いつと明けて梢のざくろ花
花ざくろ垣外往来あるなしに
一枝の赤さ折り来ぬ花ざくろ
網の音打つなる聞いて窓涼し
かぶとむし露を甲にちらしけり
甲虫しなへの枝にゐたりけり
枝の腹わたりて朝の甲虫
薫風
野に出でて荷馬車はずむや風かほる
早春社七月本句會
さわさわと燈にする風の夏山家
早春社天王寺例會
川狩りの先陣廻る山のやみ
川狩りの我家の崖にもどりけり
こゝに水わかれて一社夏木立
西宮早春社改名祝宴句會
宵なればみな水打って初夏の町
暮れてくる庭が初夏なるそよぎ哉
朝涼の乙鳥に渡舟あがりけり
鳴く蟲の微細生れて庭の土
雫する雨に葡萄の花を見る
室生桂村君より、はつちく筍を送られて(二句)
黒筍の蕗の山露匂ひけり
黒筍はきりそろえたる輪口かな
枝なりの實梅なかなかこぼれけり
梅雨出水欄下四國へ船出づる
日盛りの甍對岸一木なし
潮を棹す巨木の筏夏の夜
どくだみの花の田舎の廻り庭
起き出でて喜雨をながむる川の面
喜雨の音かくもはげしや川を打つ
喜雨のなか草のなか飛ぶ蛙かな
大和郡山赤乾膚燒を訪ふ (五句)
夏のれん麻潜り出て陶土干す
山と積むそこら陶もの葭簀陰
ロクロ場
水の手に土いぢる業の片かげり
老山に炎涼々やのぼり竈
陶に句をこゝろみつ夏座敷
しみじみと見る雲の峰他郷かな
山野に往きし時、あたりの土地を持ち帰り
一鉢にする私癖あり程經ていろいろの草の生ひたつに
會游の追懐甚し (四句)
雑草にまかせさながら露涼し
そのうち山城木幡の鉢
齒朶涼し實生の松の一木して
河内三日市山の鉢
咲き出でて釣鐘草や梅雨の晴れ
奥吉野の姥ヶ峠の鉢
夏木して柏楓とそよぎけり
昨日鹿壺君播磨の損保より、今日は是雲君より吉野の鮎を贈られて
膳上に富むは鮎たり夕端居
うたかたの花と面に箱眼鏡
班猫によきほどついて渓くだる
夏かすみ鳥の行方のふかき哉
毎日の机上亂雑極暑哉
芳里君より止々呂美の河鹿を貰ふ
櫓が鳴いて欄下はあれど河鹿哉
河鹿鳴くやとある旦の雨知って
河鹿笛夜更けの獨り弄ぶ
蛇涼し三千院の石崖に
鳩逃げ逃げ寺僕追ひ追ひ打水す
月見草汀に風の消ゆるかな
早春社同人大會 <涼一切 花ざくろ>
樹下石上夫子臥したる臍涼し
梅雨いつと明けて梢のざくろ花
花ざくろ垣外往来あるなしに
一枝の赤さ折り来ぬ花ざくろ
網の音打つなる聞いて窓涼し
かぶとむし露を甲にちらしけり
甲虫しなへの枝にゐたりけり
枝の腹わたりて朝の甲虫
薫風
野に出でて荷馬車はずむや風かほる
早春社七月本句會
さわさわと燈にする風の夏山家
早春社天王寺例會
川狩りの先陣廻る山のやみ
川狩りの我家の崖にもどりけり
こゝに水わかれて一社夏木立
西宮早春社改名祝宴句會
宵なればみな水打って初夏の町
暮れてくる庭が初夏なるそよぎ哉