早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和九年七月 第十八巻一号 近詠

2021-08-23 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年七月 第十八巻一号 近詠




若竹に朝居してゐる床机かな

壺にさして花とながむる奈良團扇

雨の川霽れても梅雨の水泡かな

田の水に山家もうつり芒種かな

夏の雲汽車着きたれば降りるなる

金龜子捕られてゐると這ひにけり

玉蟲は掌に蟲よりぞ軽きかな

剖葦や舟の中にも阿伽の波

鷭鳴くや巨椋の蓮におくれ来て

麻のれん川の背戸口透きにけり

鮎鮓や雨をもて来し露の膳

   南陽園
噴水は蟇かまへたる口よりす

寝もやらず膝邊つめたき磁枕哉

雨匂ふ鹿若角の五、六ぴき

五月雨の野のたひらかさ傘が往く

一つ葉をまるくし吊るが欄の夏

梅雨出水木梚の音が向ひ岸

もの見る眼勞れてゐるに金魚哉

  志摩旅行
野に山に若葉さやける雨ちれり

河内大和雨来て伊賀夏の山

   外宮内宮
伊勢路来て地に咲くつゝじ神の花

取り外す春雨傘や神の前

宮若葉せきれい空を渡りけり

葉櫻の雨を白雛しづく振る

宇治橋や夏の雨さもきよめ降る

神橋にながめて彳てば河鹿哉

   日和山
島の名を聞いて忘れて夏がすみ

ほのしばし雨の晴れたり若楓

   鵜方句會記
大石の平に置きし金魚鉢

夏浅し樹下にまたぐる水たまり

金魚夜を寝てゐる尾鰭金魚玉

時鳥風樹を振って雨の中

時鳥甍々が朝茂り

麥をたつ蝶たかければ海風に

雷鳴のあとの細雨波切町

家積みて切崖町や青すだれ

魚市にまじり彳ちたり夏の雨後

  大玉崎燈臺所
太平洋雲層高をつばくらめ

交し去る二帆の所在夏かすみ

大濤の来る来る沖の夏しづか

  波切句會記
雨後の夏柳かむりて人待ちぬ

雨後夏や町の空とぶ海の鳥

雷はれてつゝじにかくる落花哉

   夏めく
夏めくや橋を渡つ虹をみる

一つ葉の若か若か立つは夏めくや

   結葉
むすび葉のちるさま水に光けり

むすび葉や朝々庭に嵐して

  早春社六月本句會
州畠の月夜うきたる夏匂ふ

桐の花町川こゝに畑あり

桐の花雲一二朶にさきにけり

  早春社神戸例會  <囀 陽炎>
錢を賣る老の生活かぎろへる 

城址いま一碑にのこる陽炎へる   

  早春社同人句會  薬の日 蜘蛛の子
薬の日野に出て雨に浴しけり

蜘蛛の子の擴がり盡くす壁畫哉


宋斤の俳句「早春」昭和九年六月 第十七巻六号 近詠

2021-08-12 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年六月 第十七巻六号 近詠 俳句

    近詠

垣内なほ家に遠しや若楓

薫扇を柱にかけて夏来たる

虹いまに消ゆるとも人を待ちにけり

時鳥去って百鳥朝となる

浴衣着てもたるゝ橋の片てすり

夏ざしき相對したる燈の遠き

麥の秋島は夕の鳥とびて

走り雲ひとところ捲いて瀧の空

川軒に日覆して町の樵夫哉

あくせくとことを思ひつ扇哉

短夜の机になにもせで明けぬ

のがれ出て旅に来れば若葉照る

  我 庵
桟橋に庭づくりして夏暁かな

   昨夏大和室生句會にて貰ひたるせきこく我が家の鉢に咲く
石斛の花のほの香は室生かな

   大野櫻里君より江州日野の石楠を今年また送られて
石楠を抱いて日野の飛脚かな

 
  長府行吟
   日頼寺
椿あかく山號曰く大雲山

關門や東風寒きより海のいろ

四月三日春帆樓の國旗哉

春陰をかしこみ拜す御陵哉

海ひたと鳥居のたちて春の風

  下関言葉を模す
吟行やみな作つちよる春の丘
      備考:可春、百青両氏の作句稿中に漏したり


餘花として山驛の朝雨の降る

山の上すこし平や餘花の雨

不用意を激しく餘花の雨ふりぬ

夜はさらに草木青くて春惜しき

   第8回楠公忌俳句大會

楠公忌社内寺中と雨と往く

雨となれば懐古さらなり楠公忌

若葉雨にけふ集ふなる楠公忌

   席上『即時即景』
細雨して遠くはゆるゝ若葉山

   尼崎俳句會創立二十周年記念大會
花の中木の芽一二の涼しけれ

跫音の花にひゞくを怖れけり

   早春社四月例會
雨のせて夕となりぬ葱坊主

花の雨ひとりひとりと縁に彳つ

ねぎの花桔槹あれば汲みあそぶ

貝からを小みちにふみて花の雨

  早春社天王寺例會
尾をあげて子雀そこら往き失せぬ

たんぽゝや寝てゐた猫の起きてゆく

  永尾宋斤先生歓迎句會  創立三周年 下関於紅石観
かすむ野は蝌蚪の國にも曇りけり

見はるかす磯山春の一二亭

陶床に春の海邊のぬくさかな

蝶とんで春の藻の乾き

春浦邉寺門のあれば潜りけり

蝌蚪それに長幼あるを見たりけり

蝌蚪それに長幼あるを見たりけり

港春波のすぐより宮の磴

春の浦空なく星と暮れにけり

春海邊ひたと一門閉したる

暮れもどる藻刈りの翁も春磯邊

天地にうまれておたまじゃくし哉

宮丘を越しても春の磯邊哉

町裏や春の濱邉の燈の暮れず

石臼を汀に沈め蝌蚪はれぬ

春の夜の膝にならして土の鈴

窓の燈の路次を行く人春の夜

   早春社同人水曜會
猫の戀見ゆる湖のみ光りけり

   立春會報
二三枝がほどは桃花を挿し残し

水鳥のぬらしゆく艸芳はしく 

大斧の草に光って百千鳥

百千鳥收つて夜は星の數

   同人句會
莖立ちの苔すゞしく重なりぬ

窓の下川の餘地あり莖立てり

町の中花咲いて春あかつきかな




宋斤の俳句「早春」昭和九年五月 第十七巻五号 近詠

2021-08-08 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年五月 第十七巻五号 近詠

  近詠
花の京にひとり歩いて暮れにけり

暮れて去ぬ風車賣風車

夜の澄むは春のさびしさ柳かな

春月にそびらし語る窓のひと

丹生三社詣でて泊まり花うぐひ

春雨を風にあそびて笹の末

雪柳散り浮くが瀬にひかれけり

近みちは漁家にかげろう燃えにけり

春宵や裳おろして町に入る

畑中に藪も浅けれ春の寺

常にして夕鳥低き汐干哉

山吹の水に朝日の水馬

日のいろに藤いとけなく咲きにけり

春暁のなにかと笛もきこゑけり

晝はなにも出来ずには居て春火鉢

櫻過ぎて降るいち日の雨に居る

花ちれば柳にかくれ交み鳥

船に音春も短夜しらしらと

笠ぬぎて遍路ゆくなり餘花の下

水に咲く地に黄なる咲く夏近し



   下関より
春の山にはりまの山の鳥と浮く

野の水や春あかつきの日南して

雲とけて霞となりぬ花近し

雲の中雲遠くして春の朝

花近し雲はあしたのひろがりに

山の上見ゆる菜畑が春の朝

春朝の机の上の白磁かな

春の朝ひとふた鉢は洋花哉

  小門にて
東風の海にはるかたゝまれ春霞

小寒くも彌生曇って海のいろ

潮風や松の間そよぐ花梢

春潮に凡そ十松亭々と

  報濟園
春落葉十景臺の卓の上

一水のありて睡蓮巻葉かな

陶床のこゝに全望春の海

草萌の眞砂一所にかしこみぬ

濱沙をむらさき吸へる蜆蝶

漁家町のとあるところの芽の柳

ぬれぬれの海藻ひろげて東風渡る

  下関湾内
春風の湾内横切る渡船哉

鮫に厨のこゝろを春曇る

汽車のまゝ客乗す船も春港

桃供華ほころぶ墓がお初哉


  長老を壽く
春夜吟七十有翁を友と呼ぶ

長老にあやかる梅の一句哉

   大物庵追憶 十六年住硯心亭すでに毀たれ初めて形なし
明け易や昨日はむかし舊虛亡し

筍を毎日食へば花過ぎぬ

   春潮
春潮の波のかしらを汲みにけり

一桶に春潮を汲みしづめけり

船まどのひとつが汲める春の潮

いね足りし朝に若草ふみ入りぬ

若草に山往く霧の沈みけり

若草に小さき虫のはづかしげ

若草に風のまん中人たてり

  早春社四月本句會
春の闇林中鳥居また林

春の闇の鮎そだつ水さらに濃し

花の鳥傘の光りにちりにけり

花に鳥遠くに鐘のなりながら

花に鳥人に夕ぐれせまりつゝ
 
  早春社天王寺句會例會
よき朝と思ひ旅立つ木の芽哉

雨ためて楓木の芽咲きにけり

  早春社無月例會
麓や硯洗ふて池にごす

春雷や梢にかゝる鵙の贄

  早春社神戸例會
さざ波や浦輪日和をつぼやき屋

つぼやきのさざえの俵かげろへる

  早春社浪速例會
燈もたゞに朧ふかつめ木場の水

放牛の中を歩みつ春の鳥

  大和三輪しきしま句會
山風の耳に寒さを曾遊の地

暮れがてや芝置く雪を火桶より

  六橋観偶座句會
残寒やいまの落葉が芝に浮く

  本社樓上臨時句筵
冬はれの太融寺入れば古着市

ものみなに冬晴れの辻地蔵哉

冬はれの船が行くほど棹光る

かげろうに靴がうれしき子供哉

水取や小雪さらさら竹の中

一院の裏あけすけに春田哉

東風のすえ霞よせたる小島かな

手袋の指にてつまむ蜆貝





宋斤の俳句「早春」昭和九年四月 第十七巻四号 俳句

2021-08-07 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年四月 第十七巻四号 俳句

   子規の句碑 祝建碑
句碑建ちし子規句碑成りし春麗

句碑の前句を読み仰ぎ春の風

風光る句碑南面して高し

   凧
一翁のうづくまり野は凧

凧を見て河内大和と旅にある

凧の子の野深帰ると連れにけり

町川や大船よりぞ凧のぼる

名の浦の蛤汁や夜に著いて

蛤の籠を舳に舟著きぬ

玉を洗ふ音にも似たり小蛤

  早春社三月本句會
夜の音は水邊いずれぞ花近し

山なみに夜明かりのして花近し

囀れる頬よまのあたり

頬を行く風は浦輪に花近し

  早春社わだつみ例會
俎に二月の小魚揃えけり

子が持つを吹いてまはすや風車

  早春社浪速例會
芦の角風ひたぶって雲にあり

春あられ臨水亭に朝して

  早春社無月例會
残寒や雀が土にひるがへる

枝の中透く日のあれば春落葉

  早春社立春例會
春光の檪ふかふか枯れながら

蛤も乾きて厨の晝しづか





宋斤の俳句「早春」昭和九年四月 第十七巻四号 近詠 俳句

2021-08-06 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和九年四月 第十七巻四号 近詠 俳句 

近詠

  播州那波 (三句)
春風の入江浅波島二つ

はじめての土地に春寒む海渡舟

波のどか岬の裏は室津かな

  播磨造船所初見
春曇る船渠に船を見舞いけり

大船の塗替へられて春陰す

  愛国丸船中
春晝や彩たゝまれて萬國旗

  那波より赤穂へ
山の外に海を忘れず峠春
  
小嶺越え来て赤穂の町に梅の花

町春やうみへひろが峡どころ

浅野藩菩提寺花岳寺(二句)
春寒むの案内僧なり香を焚く

義士の像に子葉をさがす春夕

  大石内蔵助址
風光る大石が門と聞くからに

松亭々雲に早春赤穂城

蝶飛んで暮色そめたる麓かな

いま流行る何やら音頭野は霞

一室や黄梅咲いて几

雨かすか降ってなよなよ菜種花

かげろうのみだれて虻を追いにけり

芦の芽にたぐひするもの競ひけり

春宵のますぐのみちに杜くろし

猫の戀鉢に芽の春きたりけり

  建武中興六百年記念(三月十三日)
建武むかし今日と咲くなる櫻ばな

  大阪萩の寺に子規の萩の句碑建設成る(昭和九年三月十八日)
句碑建ちし刈萩芽萩明るくに

おぼろ夜の松いにしへに高きかな


昭和九年三月十八日 早春社主宰永尾宋斤で建立された大阪豊中 萩の寺の子規の句碑
ほろほろと石にこぼれる萩の露