宋斤の俳句「早春」昭和十年十一月 第二十巻五号 十夜吟
十夜吟
第一夜 花野・秋祭 於露天神社
日の方へ往くにかげなき花野かな
花野来て空の涼しさ夕暮るゝ
村人と昨日に親し秋祭
第二夜 霧・藻に鳴く蟲 於日刊工業新聞社
霧の底落穂ひろひの失せにけり
霧ふかし手にくさびらのぬるゝ哉
われからや沖つ燈往き消えて
第三夜 山雀・秋の晝 於岐水居
露草の實のしろしろと秋の晝
里の霧はれたれば鳴く山がらめ
山雀の籠の下なる糸車
第四夜 秋季雑詠・甘干 於黄石居
黄落や一池平に磴のもと
干柿をかけて唐臼使はずに
甘干の一聯露の夜明けかな
第五夜 木々の色・夜長 於梅翁寺
木々のいろ鳥はねぐらに夜を待てり
草のいろ木のいろ蝶のなげき哉
第六夜 落穂・星月夜 於冬尊居
みちのうへさすは楓の星月夜
星月夜怖じたる雲の山にあり
第七夜 鵙・門の秋 於浄久寺
旅むなしく鵙啼き居れば佇ち止り
かどの秋の水二つ三つたまりけり
第八夜 露寒む・草紅葉 於堀越神社
草紅葉ふもと荒磯の夕にして
草紅葉朝の光りのくまもなく
露寒し風に葉返す葛もまた
露寒むの井の端にちれる貝割菜
第九夜 秋高し・稲株 於大輪寺
鶴嘴のあがつていとま秋高し
枯れたるはすでに野にちる秋たかし
稲株や山葵の水の涼じく
ひねもすを日の滋々として稲の株
第十夜 木の實・龍田姫 於早春社
朝風のひた吹き入つて木の實川
ひとむらの竹は春なり龍田姫
十夜吟
第一夜 花野・秋祭 於露天神社
日の方へ往くにかげなき花野かな
花野来て空の涼しさ夕暮るゝ
村人と昨日に親し秋祭
第二夜 霧・藻に鳴く蟲 於日刊工業新聞社
霧の底落穂ひろひの失せにけり
霧ふかし手にくさびらのぬるゝ哉
われからや沖つ燈往き消えて
第三夜 山雀・秋の晝 於岐水居
露草の實のしろしろと秋の晝
里の霧はれたれば鳴く山がらめ
山雀の籠の下なる糸車
第四夜 秋季雑詠・甘干 於黄石居
黄落や一池平に磴のもと
干柿をかけて唐臼使はずに
甘干の一聯露の夜明けかな
第五夜 木々の色・夜長 於梅翁寺
木々のいろ鳥はねぐらに夜を待てり
草のいろ木のいろ蝶のなげき哉
第六夜 落穂・星月夜 於冬尊居
みちのうへさすは楓の星月夜
星月夜怖じたる雲の山にあり
第七夜 鵙・門の秋 於浄久寺
旅むなしく鵙啼き居れば佇ち止り
かどの秋の水二つ三つたまりけり
第八夜 露寒む・草紅葉 於堀越神社
草紅葉ふもと荒磯の夕にして
草紅葉朝の光りのくまもなく
露寒し風に葉返す葛もまた
露寒むの井の端にちれる貝割菜
第九夜 秋高し・稲株 於大輪寺
鶴嘴のあがつていとま秋高し
枯れたるはすでに野にちる秋たかし
稲株や山葵の水の涼じく
ひねもすを日の滋々として稲の株
第十夜 木の實・龍田姫 於早春社
朝風のひた吹き入つて木の實川
ひとむらの竹は春なり龍田姫