早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年十一月 第二十巻五号 十夜吟

2021-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年十一月 第二十巻五号 十夜吟

    十夜吟   
  第一夜  花野・秋祭  於露天神社

日の方へ往くにかげなき花野かな    

花野来て空の涼しさ夕暮るゝ

村人と昨日に親し秋祭

  第二夜  霧・藻に鳴く蟲   於日刊工業新聞社
霧の底落穂ひろひの失せにけり

霧ふかし手にくさびらのぬるゝ哉

われからや沖つ燈往き消えて

  第三夜  山雀・秋の晝   於岐水居
露草の實のしろしろと秋の晝

里の霧はれたれば鳴く山がらめ

山雀の籠の下なる糸車

  第四夜 秋季雑詠・甘干  於黄石居
黄落や一池平に磴のもと

干柿をかけて唐臼使はずに

甘干の一聯露の夜明けかな

  第五夜 木々の色・夜長   於梅翁寺
木々のいろ鳥はねぐらに夜を待てり

草のいろ木のいろ蝶のなげき哉

  第六夜 落穂・星月夜 於冬尊居
みちのうへさすは楓の星月夜

星月夜怖じたる雲の山にあり

  第七夜 鵙・門の秋 於浄久寺
旅むなしく鵙啼き居れば佇ち止り

かどの秋の水二つ三つたまりけり

  第八夜 露寒む・草紅葉 於堀越神社
草紅葉ふもと荒磯の夕にして

草紅葉朝の光りのくまもなく

露寒し風に葉返す葛もまた

露寒むの井の端にちれる貝割菜

 第九夜 秋高し・稲株  於大輪寺
鶴嘴のあがつていとま秋高し

枯れたるはすでに野にちる秋たかし

稲株や山葵の水の涼じく

ひねもすを日の滋々として稲の株

  第十夜 木の實・龍田姫  於早春社
朝風のひた吹き入つて木の實川

ひとむらの竹は春なり龍田姫


















宋斤の俳句「早春」昭和十年十一月 第二十巻五号 近詠 十夜吟

2021-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年十一月 第二十巻五号 近詠 

   近詠
  淡路吟

  龜城確にて
島に居て海わすれゐる石蕗の花

窓いっぱい見上げるところも石蕗の花

しづかさは壁から聞ゆ蟲の聲

浦凪のまことにけさの石蕗黄なり

鳶大羽かたむいてくる窗の秋

蔦二た輪次第に高く秋の天

山と町鳩ひとむれの秋かすみ

  先山
けふの空秋定つて淡路不二

木の實飛ぶ下は三原野稲むしろ

しづかさや日南秋なる葉のそよぎ

  千光寺普請なりければ
山のうへに木組み木の香の秋うらら

秋さびの社後に壁ぬる寶庫哉 (國端社)

草たちて頬にくる蟲や秋うらゝ

  箪山新邸
毛糸網みさして新居のソファーかな

新邸やこのところまた爐の香り

  由良
由良の門に初來て秋の海のいろ

  蓮飯
蓮飯を食って戻りの野は暑し

一亭のむかしからなる蓮めし

  待宵艸
驛の外待宵艸に燈なし

秣夜にひろげて待宵艸咲けり

ちることを知らず待宵艸赤し

  収穫五題
  鳴子
鳴子縄こゝに鳥居を擦りをれり

遠山をはすかい切つて鳴子縄

  落し水
落し水石を洗ふて澄みにけり

落し水少しあるけばまたひゞく

  出來稲
出來稲の迫りて寺門低き哉

  稲塚
稲塚にある日盲のもたれゐる

稲塚の遠き近きは雲綴る

  今年米
新米をみながみな手に盛りにけり

  故塚田采鳥追悼句會
露に彳ち亡き友に思ひつのる哉

  早春社九月例會
宵闇の池心やむなき水輪哉

宵闇や山頭燈る松の下

龍膽に雨降りしづむ御山哉

かりそめを住むに押したるゑやみ艸

  早春社洲本・洲本鐘紡合同七月例會
夏木立そとは南瓜の花暑く

  早春社みなと七月例會
静かさや村の夕暮れ雲の峰

  早春社丸紅六月例會 
忘れゐし金魚に梅雨のあふれ哉

   同九月例會 
コスモスの門前立てば夜の白し









宋斤の俳句「早春」昭和十年九月 第二十巻三号 近詠 満洲より

2021-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年九月 第二十巻三号 近詠 満洲より

  大連
朝露に大陸一歩したりけり

秋なれや満洲雲の散るさまに

大連に上陸したり秋扇

  奉天より大連に迎へくれし要(息子)に逢ふ
さりげなく二人は立って朝の虫

要なり残暑の顔のすこやかに

秋はれて満洲の山若きかな

樹のかげの残暑埋めて苦力なる

秋の蝿苦力の群れと動きけり

  我日露没後に渡満し居たるも
秋の日や何処も知らぬ會遊の地

秋風に雲が大連日本橋

秋ながら町の乙鳥かげもなく

丘ゆるゝ如くも雲の秋なれや

我れ冠るヘルメット帽影うしろに

くさめして秋の暑さはありにけり

ものみながおほまかに秋の日の町の

籐椅子の背は秋ではなかりけり

満洲に来て盆過ぎの見ゆる哉

満洲の店の老舗が水打てり

秋光のみちにはてしもなかりけり

辻曲るところの壁に雁來紅

高梁に秋の暮れなる雀かな

石垣の残暑に蔦の荒び哉

満人や瓜携げ掴み闊歩する

満洲の馬の小さゝ草の秋

道を往く高み凹みに秋日暮


早秋の夜空星なり秋の欄

夜となれば秋陰つくる楊哉

大陸の空の澄みやう天の川

秋の夜や犬が遊んで首輪なし

秋の夜の人にすれ逢ふ韮くさし

片方はつゞく堀の闇月ながら

秋の夜や馬も歩いて町の音

虫鳴いて遠く丘なる夜の戰ぎ

  宋斤先生を若狭に迎えて
まのあたり桑高叢の夏匂ふ

  大黒寺の句筵 七月十五日夜
夏匂ふ床几の脚にものゝ蔓

夏匂ふ蕗の露より鼠出て

踏む島の夜に浮く如し夏匂ふ

  五月山
寝そべって風を聴くなり五月山

層岫に風を覗くや五月山

五月山雨中寺あり戸ありけり

五月山夕に雲の帰る哉

  早春社八月本句會
瀑の空さへぎるはなく夜にそまる

人ぬれてうれしかるなり朱の橋

  早春社日刊工業六月例會
若竹のあかつきさめす蝶々かな

  早春社無月六月例會
薫風や水を渡つて蜘蛛迅し

  早春わだつみ六月例會
若竹や有明いつと庭ひろく

  早春社立春六月例會
門内やはほ渓水の河鹿鳴く

  早春社立春七月例會
夏磧筏一夜の泊りして

 















宋斤の俳句「早春」昭和十年八月 第二十巻二号 俳句

2021-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年八月 第二十巻 俳句

号 

  第十回同人大会
葛のはしみちに這ふより夏の山

つぎつぎと蟲來て舞へり鴨足艸

時鳥待ちあぐむ徒の鐘をつく

砂丘や一木もなくて日傘往く

水を見て日傘まはしてゐたりけり

少女の日傘こゝらは廓邉かな

   早春社七月本句會
雨そゝぎ喝まず對山夜涼哉

拍手を社後にも打って夜涼哉

石段や夜涼のぼつて闇濃し

蝿叩冷徹打って書見哉

蝿叩人のみれんを打つて見す

  













宋斤の俳句「早春」昭和十年八月 第二十巻二号 近詠 若狭行

2021-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年八月 第二十巻二号 近詠 若狭行

  往路車外
旅ゆくや山の丹波が夏の雨

ちらちらと葛にたつ花梅雨残る (柏原)

山町の燕ばかり雨後の夏

植田なる一歩の端に人の佇つ

立葵汽車緩くなり町となる (福知山)

霽れ模様畦段々の歯朶若葉

山の間に海見えて来て夏の雲

  小浜ところところ
夏匂ふ海にも山にも鳥とびて

夏匂ふ草に大葉の南瓜かな

青蔦の窗は地につく低さ哉

居涼みて可恰小汀の海と山   可恰小汀うましをはま

  青井山公園
雲濱先生端坐の像が青あらし

  佐久間少佐の銅像
艇長の厳然たり矣海の夏

憶ひ惟ふ最後の手帖暑も亡ぶ

雨後のぼる公園の山露の蚊が

なでしこのことに雨後なる裏下山

海まこと寂かなる鵜の沈みきり

涼波の厳に釣りして一二童

また釣りし上手な子やなニイラギ歟

  小濱八幡神社
蟻や涼し晝を社のかげに寝て

黐の花山内の洞汽車の入る (空印寺)

  傳説八百比丘尼入定洞窟
人魚たうべて姫八百歳南風吹く

八百姫の由来の椿夏光る

芭蕉葉の炎天透いて蟻の国

  瀧の清水界隈
夜の花のダリアか何か句會寺

寺を出て社もくらがり夏を踏む

清水汲む夜人と語り旅ごころ

  鹿島町川島方三泊
梅のひとつ梢に残し庭若葉

夜涼きて仰ぐ後瀬の山の闇

蚊帳のうち若狭に来つる寝つる哉

砂糖水の朧みだすや杉の箸

蟻の翅の燋げてあるなり朝箒

夜涼ゆくみちに南北二川かな

二日三日海水浴へ道なじみ

  蘇洞門舟遊び
よき凪を艇まちて佇つ夏かすみ  (太鼓洞)

灣内や蒼いま一舟もなき涼し    (網掛岩)

夏讃めて小濱海出づ艪の波    (唐船島)

新緑の一陰海に點じけり     (児島)

一里なほ灣内出でず夏の蝶

日盛の蒼島あたり鳶鷗

双兒島そとにめぐって南風初む

日本海我船出たり胸涼し

海の夏蘇洞門いよいよこれからぞ

礁の名に猫巌は臥る日の盛り  礁=くり

青嵐いわ隠れ清水は観ざれども

蝙福の洞や名に飛ぶ船は入る

鉈岩と或は鎌とも藻の茂り

巌の上の華表が呼ぶや夏霞

南風や船の浪より海暢びて

岩燕のひらめき戻り洞雫

何魚の幼き群れて夏陰かな

藁帽に巌のしを驚きぬ

舟蟲のなかなか登る烏帽子巌

青鷺のなほざり立つも巌しゞま

蝉島の見えでしきりや洞のうへ  (太鼓洞)

まのあたり巌に網目の苔涼し   (網掛岩)

島かげの涼しさ仰ぐ松踈なり   (唐船島)

蠟涙のそれかも夏陰垂るゝもの  (蠟臺岩)

ひたひたと波日盛りを疊むのみ  (機織岩)

獅々岩の片陰去って像出づ

潮騒の石しろしろといきれけり  (碁石濱)

巌が空飛魚の渡ると飛び魚は   (飛魚越)

龜石のさもその甲に夏日かな   (夫婦龜岩)

船蟲の四散に舳著けにけり    (百疊敷)

  先夏大阪より遊覧の男女客八名船覆りて
  この海に死す岩上に位牌置かれて新し
供花を摘む草もあらなく巌の夏

夏の潮の大門小門奇々寂と

青嵐吹雪の瀑としるからに

久須夜巌ゆれ合ふ茂り夕そみぬ

船日覆陸なる外し夏ちる葉    (屏風ゝ巌)

巌千疊船蟲ばかり暮るゝ哉    (千疊敷) 

夏霞露西亜見えず船戻す

  赤礁 あかぐり
南風して岬は島を生みて見ゆ   (鋸崎)

風涼しく新造船の吹流し

こゝ陸る島の桟橋夏の波

夏風や島のぼり徑石蕗少し

新緑の島の天幕にのぼりけり

蟬の下旗亭敷きなす麻布團

島割れて海なる谿やくらげ浮く

木下闇島裡橋して潮の池

島の女のカルサン穿いて鮎焼き来

下闇の船頭を船に待ちにけり

はるかする若狭富士なれ雲涼し

船著いて濱砂そこが夏坐敷

遠敷其處此處  遠敷=をにう
川上へ堤一筋夏の風

炎天のたゞ仰ぐなる松並木   (生首松)
 
  小松原の綱女の墓は展せず
あの茂りあの家の邊が綱の墓

蝉降るやかるさんの童が髪洗ふ

野の百合の朱ヶの乾きに蛬の聲

夏の雲村の火の見が魚板吊る

   天徳寺
若竹のこゝら遅れて山清水

南天の花のしろさも山寺かな

山里と思ひつ潜る蝉の門

寺茂り僧を見かけず去り出づる

  瓜割の清水
山葵田のあそぶ清水が明るけれ

鴨脚草水擦る岩にかしぎけり

  山みづの冷たさ瓜を浸せば割るゝより名あり
  また水底の小石を足の指もて十チは拾ひあぐるに堪へずと、
  試みて三つ四つして止めたり
ひろひたる石に來蟻も凍へなむ

つめたさの痛さの清水蝉時雨

清水の面蟲もあそばずつめたけれ

底石の紅染むや谿清水

  鵜の瀬 (奈良二月堂水取りの水源)
雲一朶しろきは夏の匂ひかな

夏の蝶の空わすれけり草の中

足に蛃打つて山中應へあり

川清水鳥居ひとつへ草くだる

水すまし神秘の渦を渡りけり

鮎の水の浅きに足をひたし居る

  義民松木長操の碑
街道に塵舞ふ涼し青田かぜ

  若狭彦神社 (一句)
いにしへや杉の香に飛ぶ蝶しろく

猫萩といふかも紅し風の畦

涼しさは田草取女に聲かけて

青嵐河鹿を橋に覗きけり

紫陽花の必死と咲きて夢の如

  萬徳寺 (四句)
一山の涼たり仰ぐ山もみじ

若藪の傾き入りて寺涼し

趣は埋石にあり苔の花

寺門出てそよぐ紫萼の小溝ゆく

一木二木の桃に袋し住めるかな

  若狭姫神社
樹々の下旅に詣づる扇かな 

  大阪へ帰る日
欄へ海の空くる夕立雲

多田荘の鮎届きけり雨の中

  「千日泊まっても出船はせはしい」小濱口諺のそのままを
惜別の句も書きちらせ汗を著る