早春 俳人永尾宋斤

祖父で「早春」を大正15年2月に主宰・創刊した永尾宋斤の俳句・俳語・俳画などからひもといています

宋斤の俳句「早春」昭和十年十月 第二十巻四号 近詠 子規忌

2021-10-18 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年十月 第二十巻四号 近詠
  近詠
ふりかへる山路白さの野菊かな

ゆで栗を摑んで來たり秋磧

霧さやか手摺を胘をぬらすかな

我が二階しづかと云はれ秋の川

旅に出ては得たる壺々秋ふかし

一竿を取り巻く零餘子こぼれつゝ

間引き菜を洗てふはふは籠の嵩

芋の葉の差し入り交り夕日かな

せゝり蟻の道化の顔や放ちやる

秋の町に買物一つの擬卵かな

秋晴れて浅し一水鳥居の根

秋出水桟庭なれば魚あそぶ

吾亦紅露草はまたむらさきに

二三年㡡を知らずに名残ごろ

海蠃打や紐を甞めつて左り巻き

燈下親しをちこち蟲の迫めてけり

  子規忌 第十回早春社友忌併修 萩の寺 豊中


蝶澄んで映つてゆくや水のうへ

萩の中句の徒こゝにもうづくまる

さはさはと夜になる萩の澄みにけり 

  若葉寒む
すがゞきて夕ありけり若葉寒む

車降りていづことしらず若葉寒む

若葉寒む一端湖の濃かりけり

若葉寒むはるかに鳥のふゑて飛ぶ

   毛蟲
いとけなき毛蟲三つ四つ寄せにけり

熱き砂這ふて波打つ毛蟲の毛

   初秋五題
   初秋
初秋や萬年青の中の蝸牛

   残暑
嵐山残暑の雀道に飛ぶ

   盆過ぎ
盆過ぎの蜻蛉の翅濃き哉

   八朔
八朔や稲の穂活けて町の人

   爽 か
爽かに切岸の下暗きかな

   電気局例會
ばらの花すさびて雨を保ちけり








宋斤の俳句「早春」昭和十年七月 第二十巻一号 俳句 

2021-10-13 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年七月 第二十巻一号 俳句

  大楠公六百年祭 第九回楠公俳句會

夏めき賽者のぼるや石舞臺

青南風ふかれて石のみな佛

梅若葉みどりなり楠公忌

南風や海にゆく邊の篠すゝき


  雪解
雪解しておもはぬ庭のふかさ哉

雪解して我立つ杣のあれにけり

  花人
花人の夜明くる汽車下りたちて

花人のすゞしさほむる水の岸

花人の落柿舎とこそ覗くあり

渡舟より山より織りて花の人

  春の星
春の星晨は水に消ゆるかな

春の星藪がさわげばひやゝかし

   中山道北陸道中
   歓迎長野支社大會 
花の下いつと跼めば地も夢と

花に侘び打ち來る雨を見つる哉

我れ古りて花に面のいたき哉
 
   山々會の夜
衣更へて何もせぬ日の机哉

衣更へてよき勞れなる旅の宿

句案なほ千曲川にありて薄暑哉

桜さくら杏花は果てし薄暑哉

徑薄暑すみれと見れば至るところ

  藤棚庵の夕べ
残春を硯の山の乾きかな

頬にふるゝ闇を思ひぬ残る春

  湯桶温泉行
雨の山見上ぐるほどが椿かな

ゆく春や雨ふつてゐる山の土

温泉ごこちにたゞあり雨が残る春

  金澤歓迎句會 清水芳洲 昭和十年五月二日
庭茂り社が置いてあるところ

小茂りや住む瀬も並ぶ一二軒

雨ふるとおもへば水面茂り中

卓上や不順の寒さ金魚玉

ただひとつ寝てゐる尾鰭金魚哉

  大家雁山邸に於ける歓迎俳句會
舷にかがやく波の五月かな

  宋斤・雁山両氏一行歓迎 竹の浦支社句會
青嵐暮るゝ一字に去りおしみ

  遊覧バスにて大阪見物吟會
大阪に今日は旅なり春の風

  大阪城 伏見櫓 
遠かすみ海とおもへば光りけり

  住吉神社
住吉や御四社にふむ春の砂

  早春社六月本句會
床上や兜かざって人遠し

この頃や床の兜に夜の明くる

輿に冠る兜なりけり松の風

乙鳥の眞晝噴水高からず

庭ふかく噴水の宵まぎれなる

噴水や萩も芒も夏若き

  夏の動物五題
  燕の子 
燕の子幾日か經ぬる道飛べる

  鳥の子
鵜の子飼はれて畑に爺があと

  龜の子
龜の子やおもだかの水淺き邉に

  孑孑 ぼうふら
孑孑に葉そよぐ陰の澄みにけり

  蟻
蟻見れば朝の光りの地にありぬ




宋斤の俳句「早春」昭和十年七月 第二十巻一号 近詠 

2021-10-12 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年七月 第十九巻七号 近詠 



挿菊のいのちたしかな萎れかな

鳥瓜と思ふ葉なればうりは蟲

噴水と柳と風の違ひけり

月見草咲きしは赤で河岸の蝿

垣の外は夜の若者月見草

たかきより干衣のしづく夏の朝

短世の六つ並びたる地蔵かな

夏陰の地を走りたる雀かな

茂り中君見る我眼青きかも

百合の花しぼみて露に飽ける哉

客来に起きて陶枕撫しにけり

町裏や蘆青く細き煙筒と

羅のしゝむら締めてまろき哉

蝉鳴いて麓の村の聲のして

夜を踏みて喜雨の村坂仰ぎけり

井戸側の苔つけて麥茶冷やし哉

(新町)夜も日笠御田戻つて廓練り

湖に付く町々夏日射返しぬ

班猫の失せし思へば我影に

早乙女のいとまの顔に雨の玉

雁爪を腰にし胘を乗せてゆく

五月雨の笹間を暢びし花薊

苔舟や五月大雨打ちけむり

テニスコートいとも梅雨降る夕かな

梅雨川の町貫いて海指せる

梅雨霽れや草の節くれ壁に立つ






宋斤の俳句「早春」昭和十年六月 第十九巻六号 俳句

2021-10-11 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年六月 第十九巻六号 俳句

   高田屋嘉兵衛忌俳句大會 昭和十年四月
嘉兵衛忌や淡路遍路の春さ中

   

   早春社五月本句會
鷺ひとつ降りしまぎれて餘春哉

そこらあたり闇を歩いて餘春哉

釣しのぶ住めるが透いて鏡立

釣しのぶ夜更のしづくほつほつと

一二軒厨も川の釣しのぶ

   早春社四月例會
わが影のあざやかに落花しくところ

落花また雨後の朝水ふみゆくや

朝の蝶とまって碑文彫りふかし

  早春社初歩俳句會
草餅や夜に入るなる野のかすみ

雛の間に裏山筧ひびく哉

  徴兵検査
郷国へ百里を徴兵検査かな

  労働祭
メーデーも濟んで工場の庭躑蠋

  幟市
妻の腹男であれと幟市

  竹醉日
竹植ゑてこの壁に我窗の欲し

  蘭湯
蘭湯や父がつれ浴る女の子

  早春社郡山支社創立十周年記念俳句會
町の端や花に濁って金魚池

花に夜を待つに眺めて春の雲

城内外歩いて暑し春の雲

  早春社長野例會
浅春や旅の戸にたち雲匂ふ

亭の燈の樹の間暈して春浅き

  早春社無月例會
行雁や越路の虹をひたさして

引鶴のうららか雲の展けたり

  三月例會
みち岐れ徑岐れして囀りへ

春あられ水打って亭ともりある

  紅詠會一月句會
薄氷やところの梅の名のみなる

手の平らにひつきて失せし氷かな

涸池へ下りて行く道風の花

猪とれて犬のよろこび風の花

風花や茶店に飼われ雀鳴く

風の花遊里の背戸が枯芦に

風の花梢何かの花芽して

蠣の俵そこらこぼれて風の花

風の花池の中道沈みたる

風の花鳶が歩いてゐる畠

我が船につんざく汽笛風の花



  

宋斤の俳句「早春」昭和十年五月 第十九巻五号 近詠 俳句

2021-10-09 | 宋斤の俳句を大正十五年「早春」創刊〜昭和十九年休刊までひもとく
宋斤の俳句「早春」昭和十年五月 第十九巻五号 近詠 俳句

   満洲国皇帝陛下御来遊奉迎
御旅を地に満ち花の咲きにけり

   紀伊南部 
家’間を濱小田へ出る春日かな

春の砂に漁家の姥たち脚投げて

  南部沖の鹿島
はなれ島に貝ひろふなる我が音

掌のうへの貝がものいふ霞かな

  湯崎
春潮や濱一筋を温泉の往来

温泉の欄は春雨降って石蕗の崖

紀の濤にひと夜春雨沈みけり

温泉ながれの音と春雨蛙かな

  千畳敷岩にて
岩燕いともむらさき濤を飛ぶ

東風霽れて太平洋の一線す

  白濱
宿々や濱木綿植ゑて夏近し

鳥交る天地むかしに寂なり

蝶去ってあとに飛ぶなし古泉

潮風に扇をさむく持ちにけり

なほざりの菊と草とも根分け哉

籠の鳥わすれて飼へり花も過ぐ

  淡路に高田屋嘉兵衛忌を修す
嘉兵衛忌の淡路島空雁北す

  遊覧バスにて大阪市一日す 紅詠會銀行
我街や旅しめぐっって日の永し

竹秋へ沼みづ渡る小舟かな

若芝の露ひろゆけば家のうへ

春深し雲をはなして澄める月

行く春の焚火のけむり眞晝かな

  明廿五日より甲信及北陸地方へ赴かんとす
浅春や明日を信濃の旅支度

  舊正月
舊正の宵浅きなり村の口

朝照りに舊正月の野びろ哉

舊正や老がたのしむ縁日南

   春の池
春の池小魚に雨のふりやまず

野の水のひとすじ入れる春の池

春の池みなぎり寺のうちとなく

   早春社四月本句會
猫の子は椿落つるも嗅ぎにけり

櫻陰や夜にけだものゝ猫寝ねて

邸内や櫻陰潜る人忙し

跫音のわれにかへって櫻陰

  早春社三月例會
双林の夕を二木糸やなぎ

荼昆寺の掛けふるしたる涅槃繪圖

春泥のなほもこまかき雨のふる

春泥を花ちるところ遷りけり

春泥を渡舟の舳にふみにけり

  早春社立春例會
梅の枝に夕べ見えてぞ峡の風

城あとや梅とし潜る茶亭あり

  早春社欸乃會総會  神戸一宮神社社務所
二羽三羽町に煤けて寒雀

野に散って果てしもなしや寒雀

  早春社忘年句會
垣の外に遠き燈の師走かな

高窓に町を見下す師走哉

クリスマス雪の遠坂登り行く

  電気局句會
水靄のひろき彼方や春耕す

水温む渡舟の中の小いさかい

水温む昨日の鳰のけふふへて