私の母が施設ではなくまだうちにいた頃、今から三年位前、福祉関係者の勧めでオレンジカフェに通いだした。
オレンジカフェとは、認知症当事者やその家族、若しくはそれに関心のある人達の会合だ。私は初めて市立介護病院のカフェに参加し、そこで高齢男性のY田さんと知り合った。
私たちの前にトイレットペーパーの芯位の双眼鏡のような手作りの筒が渡され、司会の人は「高齢者の視界はこんなに狭いのですよ」と言った。
Y田さんが実際に顔に当て、「ほんとだなあ」と声を上げ、私に筒を渡した。
私も顔に当てた。
確かに視界が狭い。母を含め、高齢者は日頃こんなに苦労をしているのか、と実感した。
よく、うちの地方のテレビなどを見ていると、時々高齢者になった体験特集のような自治体番組を見る。五分か十分位の放送だ。
そこでは、子供などが、手や足に重りを付け、目に黒っぽいゴーグルを付けて数歩あるくような事をやっている。皆、口々に、「大変だあ」と声を上げる。高齢者がいかに大変かを体験していた。
私は、高齢者には、この日本を支えて頑張って来た先駆者として、もっと大事にしたい、と心から思った。