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<「漢字の学習の大禁忌は作輟なり」・・・「作輟(サクテツ)」:やったりやらなかったりすること・・・>
<漢検1級 27-③に向けて その117>
●「文章題訓練」その㊻です。復習・おさらい用にどうぞ👍
●難度は並・・・チャレンジャーは80%(24点)以上が目標・・・。リピーターは限りなく90%以上とりたい(^^)
●文章題㊻:次の文章中の傍線(1~10)のカタカナを漢字に直し、傍線(ア~コ)の漢字の読みをひらがなで記せ。(30) 書き2×10 読み1×10
「・・・ 後五年、昭帝の始元六年の夏、このまま人に知られず北方に(1)キュウシすると思われた蘇武が偶然にも漢に帰れることになった。漢の天子が上林苑中で得た雁の足に蘇武の(2)ハクショがついていた云々というあの有名な話は、もちろん、蘇武の死を主張する単于を説破するためのでたらめである。十九年前蘇武に従って胡地に来た常恵という者が漢使に遭って蘇武の生存を知らせ、この嘘をもって武を救い出すように教えたのであった。さっそく北海の上に使いが飛び、蘇武は単于の庭につれ出された。李陵の心はさすがに動揺した。ふたたび漢に戻れようと戻れまいと蘇武の偉大さに変わりはなく、したがって陵の心の(ア)笞たるに変わりはないに違いないが、しかし、天はやっぱり見ていたのだという考えが李陵をいたく打った。見ていないようでいて、やっぱり天は見ている。彼は粛然として(イ)懼れた。今でも、己れの過去をけっして非なりとは思わないけれども、なおここに蘇武という男があって、無理ではなかったはずの己れの過去をも恥ずかしく思わせることを堂々とやってのけ、しかも、その跡が今や天下に顕彰されることになったという事実は、なんとしても李陵にはこたえた。胸をかきむしられるような女々しい己れの気持が(3)センボウではないかと、李陵は極度に惧れた。
別れに臨んで李陵は友のために宴を張った。いいたいことは山ほどあった。しかし結局それは、胡こに降ったときの己れの志が(4)ナヘンにあったかということ。その志を行なう前に故国の一族が(5)リクせられて、もはや帰るに由なくなった事情とに尽きる。それを言えば愚痴になってしまう。彼は一言もそれについてはいわなかった。ただ、宴(ウ)酣にして堪えかねて立上がり、舞いかつ歌うた。
歌っているうちに、声が(6)フルえ涙が頬を伝わった。女々しいぞと自ら叱りながら、どうしようもなかった。
蘇武は十九年ぶりで祖国に帰って行った。
・・・司馬遷はその後も(エ)孜々として書き続けた。
この世に生きることをやめた彼は書中の人物としてのみ活きていた。現実の生活ではふたたび開かれることのなくなった彼の口が、魯仲連の舌端を借りてはじめて烈々と火を噴くのである。あるいは伍子胥となって己が眼を(オ)抉らしめ、あるいは藺相如となって秦王を叱し、あるいは太子丹となって泣いて荊軻を送った。楚の屈原の憂憤を叙して、そのまさに(カ)汨羅に身を投ぜんとして作るところの懐沙之賦を長々と引用したとき、司馬遷にはその賦がどうしても己れ自身の作品のごとき気がしてしかたがなかった。
稿を起こしてから十四年、(7)フケイの(キ)禍いに遭ってから八年。都では(ク)巫蠱の獄が起こり戻太子の悲劇が行なわれていたころ、父子相伝のこの著述がだいたい最初の構想どおりの通史がひととおりでき上がった。これに増補(8)カイサン推敲を加えているうちにまた数年がたった。史記百三十巻、五十二万六千五百字が完成したのは、すでに武帝の崩御に近いころであった。
列伝第七十太史公自序の最後の筆を擱いたとき、司馬遷は几に凭ったまま(ケ)惘然とした。深い溜息が腹の底から出た。目は庭前の(コ)槐の茂みに向かってしばらくはいたが、実は何ものをも見ていなかった。うつろな耳で、それでも彼は庭のどこからか聞こえてくる一匹の蝉の声に耳をすましているようにみえた。歓びがあるはずなのに気の抜けた漠然とした寂しさ、不安のほうが先に来た。
完成した著作を官に納め、父の墓前にその報告をするまではそれでもまだ気が張っていたが、それらが終わると急に酷い虚脱の状態が来た。(9)ヒョウイの去った(10)フシャのように、身も心もぐったりとくずおれ、まだ六十を出たばかりの彼が急に十年も年をとったように耄(ふ)けた。武帝の崩御も昭帝の即位もかつてのさきの太史令司馬遷の脱殻にとってはもはやなんの意味ももたないように見えた。前に述べた任立政らが胡地に李陵を訪ねて、ふたたび都に戻って来たころは、司馬遷はすでにこの世に亡なかった。」「李陵」(中島敦)
👍👍👍 🙊 👍👍👍
(1)窮死 (2)帛書 (3)羨望 (4)那辺(奈辺) (5)戮 (6)顫(震) (7)腐刑 (8)改刪 (9)憑依 (10)巫者
(ア)しもと (イ)おそ (ウ)たけなわ (エ)しし (オ)えぐ (カ)べきら (キ)わざわ (ク)ふこ (ケ)ぼうぜん (コ)えんじゅ
👍👍👍 🙊 👍👍👍
<「漢字の学習の大禁忌は作輟なり」・・・「作輟(サクテツ)」:やったりやらなかったりすること・・・>
<漢検1級 27-③に向けて その117>
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●難度は並・・・チャレンジャーは80%(24点)以上が目標・・・。リピーターは限りなく90%以上とりたい(^^)
●文章題㊻:次の文章中の傍線(1~10)のカタカナを漢字に直し、傍線(ア~コ)の漢字の読みをひらがなで記せ。(30) 書き2×10 読み1×10
「・・・ 後五年、昭帝の始元六年の夏、このまま人に知られず北方に(1)キュウシすると思われた蘇武が偶然にも漢に帰れることになった。漢の天子が上林苑中で得た雁の足に蘇武の(2)ハクショがついていた云々というあの有名な話は、もちろん、蘇武の死を主張する単于を説破するためのでたらめである。十九年前蘇武に従って胡地に来た常恵という者が漢使に遭って蘇武の生存を知らせ、この嘘をもって武を救い出すように教えたのであった。さっそく北海の上に使いが飛び、蘇武は単于の庭につれ出された。李陵の心はさすがに動揺した。ふたたび漢に戻れようと戻れまいと蘇武の偉大さに変わりはなく、したがって陵の心の(ア)笞たるに変わりはないに違いないが、しかし、天はやっぱり見ていたのだという考えが李陵をいたく打った。見ていないようでいて、やっぱり天は見ている。彼は粛然として(イ)懼れた。今でも、己れの過去をけっして非なりとは思わないけれども、なおここに蘇武という男があって、無理ではなかったはずの己れの過去をも恥ずかしく思わせることを堂々とやってのけ、しかも、その跡が今や天下に顕彰されることになったという事実は、なんとしても李陵にはこたえた。胸をかきむしられるような女々しい己れの気持が(3)センボウではないかと、李陵は極度に惧れた。
別れに臨んで李陵は友のために宴を張った。いいたいことは山ほどあった。しかし結局それは、胡こに降ったときの己れの志が(4)ナヘンにあったかということ。その志を行なう前に故国の一族が(5)リクせられて、もはや帰るに由なくなった事情とに尽きる。それを言えば愚痴になってしまう。彼は一言もそれについてはいわなかった。ただ、宴(ウ)酣にして堪えかねて立上がり、舞いかつ歌うた。
歌っているうちに、声が(6)フルえ涙が頬を伝わった。女々しいぞと自ら叱りながら、どうしようもなかった。
蘇武は十九年ぶりで祖国に帰って行った。
・・・司馬遷はその後も(エ)孜々として書き続けた。
この世に生きることをやめた彼は書中の人物としてのみ活きていた。現実の生活ではふたたび開かれることのなくなった彼の口が、魯仲連の舌端を借りてはじめて烈々と火を噴くのである。あるいは伍子胥となって己が眼を(オ)抉らしめ、あるいは藺相如となって秦王を叱し、あるいは太子丹となって泣いて荊軻を送った。楚の屈原の憂憤を叙して、そのまさに(カ)汨羅に身を投ぜんとして作るところの懐沙之賦を長々と引用したとき、司馬遷にはその賦がどうしても己れ自身の作品のごとき気がしてしかたがなかった。
稿を起こしてから十四年、(7)フケイの(キ)禍いに遭ってから八年。都では(ク)巫蠱の獄が起こり戻太子の悲劇が行なわれていたころ、父子相伝のこの著述がだいたい最初の構想どおりの通史がひととおりでき上がった。これに増補(8)カイサン推敲を加えているうちにまた数年がたった。史記百三十巻、五十二万六千五百字が完成したのは、すでに武帝の崩御に近いころであった。
列伝第七十太史公自序の最後の筆を擱いたとき、司馬遷は几に凭ったまま(ケ)惘然とした。深い溜息が腹の底から出た。目は庭前の(コ)槐の茂みに向かってしばらくはいたが、実は何ものをも見ていなかった。うつろな耳で、それでも彼は庭のどこからか聞こえてくる一匹の蝉の声に耳をすましているようにみえた。歓びがあるはずなのに気の抜けた漠然とした寂しさ、不安のほうが先に来た。
完成した著作を官に納め、父の墓前にその報告をするまではそれでもまだ気が張っていたが、それらが終わると急に酷い虚脱の状態が来た。(9)ヒョウイの去った(10)フシャのように、身も心もぐったりとくずおれ、まだ六十を出たばかりの彼が急に十年も年をとったように耄(ふ)けた。武帝の崩御も昭帝の即位もかつてのさきの太史令司馬遷の脱殻にとってはもはやなんの意味ももたないように見えた。前に述べた任立政らが胡地に李陵を訪ねて、ふたたび都に戻って来たころは、司馬遷はすでにこの世に亡なかった。」「李陵」(中島敦)
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(1)窮死 (2)帛書 (3)羨望 (4)那辺(奈辺) (5)戮 (6)顫(震) (7)腐刑 (8)改刪 (9)憑依 (10)巫者
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