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ダマスカスのイスラム主義グループ 2013年11月

2018-01-13 13:47:53 | シリア内戦

2012年5月19日サハバ大隊と名のるグループが「高官6名を殺害した」と発表した。

「私アフマド・タクタク中尉は、サハバ大隊の野戦指揮官の一人でである。私はサハバ大隊を代表し、我々の特殊作戦中隊が決行した成果を報告する」。

この秘密作戦は失敗に終わり、高官6名の生存が確認された。犯行声明を出したサハバ大隊はダマスカス南部を拠点とする有力なイスラム主義グループである。

2か月後の7月18日再び高官暗殺が企てられ、今度は成功し、高官4人が死亡した。これについて犯行声明を出したのはサハバ大隊ではなく、イスラム大隊である。イスラム大隊は小さなグループであり、このように大きな戦果を挙げることができたのは不思議である。

大きな戦火というのは、この事件は大統領暗殺に等しいからだ。アサド大統領個人に絶対的な権力はなく、死亡した4人こそが権力の中心だった。2000年ハフェズ・アサド大統領

が死亡したが、独裁者の死後にありがちな混乱はなかった。この微妙な時期、政権を支えたのは今回殺害された4人を頂点とする軍・情報機関・バース党の幹部だった。国家統治に未経験なバシャール・アサドが実権を持つことは不可能だった。バシャールは象徴としての役割を引き受け、粛清も行わず、予想外の行動もしなかった。バシャールの時代になっても、ハフェズ・アサドの体制が継続していた。

 

            〈イスラム大隊〉

大戦果を挙げたイスラム大隊については、ほとんど知られていない。2014年7月10月19日ダラア県で戦闘に参加したこと、2015 年12月25日ハマ県でヌスラと共に戦ったことが知られているだけである。

             〈サハバ大隊〉

高官6人の暗殺に失敗したサハバ大隊はダマスカスのイスララム諸派の中でも有力なグループである。

ダマスカスのイスララム諸派の内情について述べた述べた記事があり、サハバ大隊も取り上げられている。

自由シリア軍の活躍は2013年春に終了した。それ以前から戦いの主役であったイスラム諸派は反乱を継続した。

2012年夏反対派の軍事攻勢は頂点に達し、アサド政権の崩壊は時間の問題と考えられた。この状況は翌年春まで続いたが、5月19日反対派はクサイルで完敗し、続いて7月12日反対派はホムスから一掃された。ホムスでは早い時期に大規模な抗議運動が始まり、シリア革命の聖地と呼ばれていた。しかしクサイル以外に補給経路がなく、クサイルを失ったことで、ホムスの反対派は形勢が不利になった。

クサイルとホムスにおいてアサド政権は巻き返しの能力があることを示した。もっとも航空攻撃と砲撃はシリア軍が行ったが、歩兵の主力はレバノンのヒズボラだった。

反対派が負けたことに変わりはなく、彼らの勝利は無期限に遠のいた。

この状況に最も激しく反応したのはサウジアラビアだった。ヒズボラはイランから資金援助されており、クサイルとホムスでの勝利はイランの勝利とも言えた。サウジアラビアはこのことに恐怖を感じた。2013年夏以後、サウジアラビアは反対派の再建に乗り出した。

自由シリア軍は戦闘力がなく、メディアがとりあげただけで、最初から戦闘集団としての存在感はなかった。サウジアラビアがイスラム諸派の支援に力を入れた結果、名実ともにイスラム諸派が反対派の主要勢力となった。

2013年11月、ダマスカスのイスラム主義グループが一つにまとまり、統一戦線を形成した。

 

======(ダマスカス大攻勢作戦室)=======

          The Greater Damascus Operations Room

                             http://carnegie-mec.org/diwan/53566?lang=en

                                      Carnegie Middle East Center

 

 2013年11月6日反対派は「ダマスカス大攻勢作戦室」の成立を発表した。統一ある作戦を実行するため、各グループの意見を調整する場が「作戦室」だった。 一定地域の支配を実現するため、また大がかりな作戦を実行するために各派が緊密な協力を約束したのである。シリアの主要地域でイスラム諸派が「作戦室」を立ち上げているが、穏健自由シリア軍各派も同様である。「作戦室」という言葉が表すように、軍事的必要に迫られ、諸派はまとまって行動するようになった。各グループへの資金と武器の配布を容易にし、諸派が協力して共通の軍事目的を達成するため、「作戦室」は協議の場を提供する。 

2012年湾岸と欧米の諸国が自由シリア軍を統一指揮下に置くため、軍事会議を設立した。自由シリア軍の軍事会議とイスラム諸派の「作戦室」は同様な目的で設立されているが、「作戦室」は自由シリア軍と無関係であることに特徴がある。また「作戦室」は完全に外国によって支援されており、作戦に必要な経費をすべて支給されている。支援者は湾岸の個人であるが、彼らはしばしば国家から暗黙の承認を得ている。

                〈「作戦室」に所属する各派〉 

ダマスカスには以前からいくつかの作戦室が存在しており、11月6日の発表は9個の作戦室が統合したものである。「ダマスカス大攻勢作戦室」はダマスカス全域のイスラム諸派を統合することになった。。参加グループは次の12派である。

1. Islamic Ahrar al-Sham Movement(アフラール・シャム)

2. Shabab el-Hoda Battalions(シャバブ・ホダ大隊)

3. al-Habib al-Mustafa Brigades(ハビブ・ムスタファ旅団)

4. Sahaba Battalions and Brigades(サハバ大隊・旅団)

5. Amjad al-Islam Gathering

6. Der’ al-Asima Brigade

7. Eissa bin Maryam Battalion

8. Aknaf Beit al-Maqdes Brigade

9. Single Umma Brigade

10. Sham al-Rasoul Brigade

11. Tawhid al-Asima Brigade

12. Fursan al-Sunna Battalion

 これらのグループの中には他の複数の作戦室に関係しているものもあり、12のグーループの結束の緊密さについては確定的ではない。 

最初の4つのグループはダマスカス市内と郊外で有力な戦闘集団である。残りのグループのいくつかも、彼らの支配地では強力な存在である。12のグーループは程度の佐差はあるが、イスラム主義を信条としている。アフラール・シャムといくつかのグループはイスラム原理主義の熱心な信奉者である。

8番目のアクナフ・バイト旅団(Aknaf Beit al-Maqdes Brigade)はパレスチナ人のグループであり、ハマスの支援を受けているようだ。ハマスはムスリム同胞団に属している。

3番目のハビブ・ムスタファ旅団は以前自由シリア軍の一員であると表明しており、現在もサリム・イドリス将軍の最高軍事司令部と関係を維持している。

1番目のアフラール・シャムはイスラム戦線の一員である。イスラム戦線はシリア全土のイスラム主義者が結集した統一戦線である。

ダマスカスのイスラム主義グループが統一戦線を形成するのは今回が初めてではない。「アンサール・イスラム集合」という名の合同組織が存在したが、消滅した。ハビブ・ムスタファ旅団など今回「作戦室」に参加したグループのいくつかはかつて「アンサール・イスラム」の一員だった。

6日に成立した「ダマスカス大攻勢作戦室」はこれまでにない規模の統一戦線であるが、成功するか消滅するか予測できない。

はっきりしていることは、ダマスカスのイスラム主義グループが自由シリア軍とサリム・イドリスの軍事司令部と縁を切ったことである。反対派を代表するシリア国民連合に対するイスラム主義者の反乱であり、ジュネーブ会議を拒否し政権と戦い続ける決意の表明である。「作戦室」の一員がこう言った。「イスラム主義者の結集は、自由シリア軍の無能な軍事会議にとって必殺パンチとなるだろう」。  

「作戦室」から除外されたのはサリム・イドリス元将軍の軍事会議だけではない。反対派の有力なグループの多くはダマスカスに影響力があるが、彼らは全部排除されている。例をあげるなら、クネイトラを拠点とする フルカン旅団(Furqan Brigades)である。さらに重要な3グループも除外されている。

        

「ダマスカス大攻勢作戦室」に参加しているグループについて知ることは重要だが、これに参加していないグループを確認することも重要だ。
誰もが気づくことは、ザフラン・アルーシュのジャイシュ・イスラム(イスラム軍)が参加していないことだ。ダマスカス最強のこのグループは少し前までリワ・イスラム(イスラム旅団)と名乗っており、東部郊外のドゥーマを拠点としている。ジャイシュ・イスラムはダマスカスだけでなくシリア全体で最も戦闘力があり、有名なグループの一つである。彼らが湾岸の個人とサウジアラビアに支援されていることが、最近話題になった。リーダーのアルーシュは有名であるが、同時に彼に対する批判も多く、ジャイシュ・イスラムを中心とするイスラム主義グループの統一に反感を持つ者が多かった。9月リワ・イスラムがジャイシュ・イスラムを立ち上げると、ダマスカスのイスラム派の間に反対の声があがった。資金と武器をいっかつして受け取る必要からダマスカスのイスラム系グループが一つにまとまることにした時、彼らはジャイシュ・イスラムを除外した。なぜか。
「ダマスカス大攻勢作戦室」のメンバーのいくつかはジャイシュ・イスラムの支配拡大に反発していた。しかしジャイシュ・イスラムとライバル関係にありながら、「作戦室」に参加していないグループもある。アルーシュの地元ドゥーマで互いに争っている旅団や会議は参加していない。例えばジャイシュ・イスラムの最大のライバル、ドゥーマ殉教旅団は参加していない。「ダマスカス大攻勢作戦室」はドゥーマの内部抗争に巻き込まれるのを避けるため、ジャイシュ・イスラム以下ドゥーマのすべてのグループの参加を拒否した可能性がある。

ただし、11月6日の「ダマスカス大攻勢作戦室」の成立宣言には裏があり、公表された12の参加グループ以外にも参加しているグループがあるようなのだ。したがってジャイシュ・イスラムの不参加についても疑う余地がある。

               〈秘かに参加しているグループ〉
「作戦室」から除外されている重要なグループはジャイシュ・イスラムだけではない。ジャイシュ・イスラムに劣らず重要なグループが参加リストから消えている。それはアルカイダ系のヌスラ戦線とISISである。ヌスラ戦線はダマスカス県で活発に活動している。現時点ではISISの影響は首都では限定的なものにすぎない。「作戦室」の地域分室の参加グループを一つ一つ調べると矛盾にきづく。地域分室にはアルカイダ系が参加している。例えばヌスラはジュンド・マラヘム(Jund al-Malahem)同盟の創立メンバーである。またヌスラは「一つの旗同盟」と「イスラム連盟」の一員である。「イスラム連盟」にはISISも参加している。
つまりヌスラ戦線とISISは地域分室には参加していながら、「ダマスカス大攻勢作戦室」のメンバーではないことになっている。理由は簡単で、ヌスラとISISの参加を公表したくないのだ。「ダマスカス大攻勢作戦室」はアルカイダと無関係であるという体裁を取りたかったのだ。

これは首都大攻勢のための資金の性格を反映している。資金は湾岸の個人に由来するが、これは国家が支持する計画である。サウジはシリアの反乱を再建することを計画しており、「ダマスカス作戦」の根底にはサウジの意図があるようだ。イスラム主義グループの支援者たちは米国やメディアによってテロの支援者とみなされることを恐れた。
11月6日の「ダマスカス大攻勢作戦室」の成立宣言では、参加グループのリストにアルカイダ系の名はなかったが、実際にはヌスラは指導的なメンバーだった。ISISもその一員だった。

ジャイシュ・イスラムが「作戦室」に秘かに参加しているか、あるいは実際に排除されているかについては、わからない。
 

「ダマスカス大攻勢作戦室」に所属する12派についてはすでに紹介したが、彼らは以前からそれぞれの地域で作戦室を形成していた。11月6日発表に発表された「大攻勢作戦室」はこれらの作戦室が合同したものである。
ダマスカス市内と郊外の各地域に成立している作戦室とその構成グループは以下のとおりである。

主要4グループが複数の作戦室を掛け持ちしている。

1. The Jund al-Malahem Operations Room in East Ghouta:

        (Eastern/South-Eastern suburbs)

①アフラール・シャム

②シャバブ・ホダ大隊

③ハビブ・ムスタファ旅団

④Eissa bin Maryam Battalion.

2. The Jobar Operations Room:

             (East Damascus)

①シャバブ・ホダ大隊

② ハビブ・ムスタファ旅団     

3. The Mleha Operations Room:

              (Mleha, South-East suburbs)

①シャバブ・ホダ大隊

②ハビブ・ムスタファ旅団

4. The Amjad al-Islam Operations Room in Erbin:

              (East Damascus)

  The Amjad al-Islam Gathering.

5. The Harasta Operations Room:

             (North-East suburbs)

 ①Der’ al-Asima Brigade,

②シャバブ・ホダ大隊

③ ハビブ・ムスタファ旅団

④ Amjad al-Islam Gathering.

6. The Islamic League Operations Room in South Damascus:

    (Yarmouk Camp/al-Hajar al-Aswad, south Damascus)

① サハバ大隊・旅団

②Aknaf Beit al-Maqdes Brigade,

③アフラール・シャム

④シャバブ・ホダ大隊

⑤Single Umma Brigade,

⑥ Sham al-Rasoul Brigade.

 7. The Daraya and Moadamiya Operations Room:

         (Daraya/Moadamiya, west of Damascus)

 サハバ大隊・旅団

8. The One Flag Alliance Operations Room in Western Ghouta:

           (Western countryside)

① サハバ大隊・旅団

②Tawhid al-Asima Brigade,

③アフラール・シャム

④ Aknaf Beit al-Maqdes Brigade, Fursan al-Sunna Battalion.

 

9. The Zabadani Operations Room:.

      (North-West of Damascus, Lebanon border)

 アフラール・シャム

================(カーネギー終了)

 

 

 

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