青春18きっぷというもの、本来は青少年が鉄道旅行するための便宜を考えてのものだろうが、利用者の比率は、遠い昔に青春を送った還暦前後の熟年(流行の言い方ならアラカンとなろうか)、それも圧倒的にご婦人のグループが多いように思う。
彼女らの旅の最大の目的は、目的地よりも仲間同士のお喋りにあるようで、先を急がない彼女らには実に好適なきっぷである。このようなグループが多く乗り込んでいる車両は、甚だ賑やかなものになる。
のんびりひとり旅を楽しむ男性も多くいるのだろうが、静かだから目立たない。また、男だけのグループというのはまず見かけない。婦唱夫随の夫婦連れもよく見かける。
ひと綴り5枚のチケットを全て使って、最大4泊5日、景色のパノラマを車窓から眺めるには、在来線の普通電車の速度が適当だ。遠くの景色はゆっくりと移動し、近くの集落や街衢、田畑などは動体視力が追いつける程度の速さで過ぎるから、窓外の全景を無理なく眺めることができる。新幹線では、速すぎてじっくり景色を楽しむことはできない。
各駅停車で、乗客の入れ替わりが頻繁であることも、楽しみに加えてよいだろう。数駅の区間を、通学や通勤などで往復利用している土地の人達は、たいてい学校や職場の仲間と乗ることが多い。彼らや彼女ら気のおけない者同士が交わす、土地の訛りを帯びた会話を耳にすると、時間は要したものの、乗車地をはるかに遠ざかったことを実感し、旅情がひときわ深まる。
土地の人達の醸し出す雰囲気は、まさに日常そのもので、小旅行とはいえ、非日常の開放感に浮かれ騒いでいる婦人グループとの好対照が面白い。日常と非日常、互いに行動感覚の異なる乗客がを混在する車両内は、なぜか親密で温かな空気が漂っている。どこかよそよそしく取り澄ました新幹線の車内では感じられないものだ。
急ぐ旅ではないから、パンフレットを見ていて急に思い立ち、予定外の駅に降りることもある。18切符は、新幹線が出現する以前の鉄道を経験した者の、ノスタルジアを呼び醒す。
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