久しぶりに奥三河の山を歩いた。梅雨時の遠州や駿州の山々は、ヤマビルがウヨウヨ待ち構えているから決して登らない。天竜川以東の水成岩から成る土質は保水性に富み、湿潤を好む彼らにとって好適な環境なのだろう。
ところが、中央構造線を越えた三河の山では、未だかつてヤマビルに遭遇したことが無い。豊川以西の火成岩、特に風化した花崗岩を母岩とする土質は乾きやすく、ヤマビルには棲み難いのだろう。
コースの起点は、明治の頃に被災した山崩れ跡地の千枚田の頂点四谷。見下ろせば、麓の駐車場から撮影している足下まで、青い棚田がせり上がっている。四季に応じて変化を見せる棚田の景観を愛して、撮影や描画に訪れる人は多い。
奥三河の山々の多くは、その成因を古い火山に由っているため、地質、植生、景観の上で、遠州の山々と趣が違う。様々な火山噴出物、断層の露頭、滝、甌穴、岩脈その他地学的な観察対象に事欠かない。植物、動物、地質等、博物的に自然を探求するには、恵まれた場所だと思う。
自然ばかりか、奧三河の山間の高地に点在する村落は、かつて民俗研究の宝庫でもあった。また、過去に大地震や戦災など破壊的な変化を蒙っていないおかげで、歴史の痕跡はいたるところに遺っている。奥三河は、自然と人文への興味を等分に満足させてくれる稀有のフィールドであるように思う。
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