陽射しに暖かみが感じられるようになると、佐鳴湖までの川べり歩きにも弾みがつく。
2月も余すところ数日のある朝、散歩に出かけた。途中の流れが浅く緩くなっている地点に近づいたとき、そのあたりの水中が径6mほどの大きさで真っ黒になっているのに気が付いた。
その墨汁のような黒い塊は、ひとつの生き物のように少しづつ形を変えていたが、中心はほとんど動いていない。目を凝らして水中を見ると、
それは20センチほどのボラの幼魚イナだった。無数のイナが互いに隙間無く身を寄せ合い、魚体を同じ方向に曲げ円弧を描きながらゆっくり群泳しているのだった。この魚は春を迎えると浅場に集結して産卵行動に入る。
築地界隈で働く若い衆の髻(もとどり)が、鯔の背のように曲がっているのをイナセと呼んだのは、この時期の堀割りを泳ぐイナの群れを、橋上から見て覚えた江戸の感性だろう。
季節の変わり目は、川筋の生き物に教えられることが多いのだが、この光景は初めて目にしたものだった。
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