美術展のキービジュアル。展覧会HPから引用。その他の図も同様である。
https://kingdom-exhibit.com/
展覧会名 キングダム展 -信-
会期:2022年4月 4月23日~6月11日
会場:松坂屋美術館
惹句:原泰久先生全面監修のもと、信の物語を再構築
訪問日:5月19日
1.はじめに
これまでとはちょっと毛色の違う話、高齢者なのだけれども、漫画展「キングダム展 -信-」に行ってきた。
理由は下記の通り
①松坂屋の招待券(無料)があった。(一般の大人の入場券は1800円)
②2019年に大英博物館で日本の漫画展が大規模開催されていて、漫画とアートの関係に興味を持っていた。
⓷暫く前までは青少年対象の仕事をしていて、意識把握の中でこの漫画について知っていた。
この漫画展は2021年6月に東京の上野の森美術館にて開催され、その後福岡市美術館を経て、名古屋のこの松坂屋美術館に来た。その後大阪、宮城と回るようである。
2.開催内容
この漫画は2006年に青年漫画誌ヤングジャンプで始まり、継続掲載されている。春秋戦国時代の終わりの始皇帝による統一の経緯を扱っており、不安定な状態であった少年の始皇帝と偶然知り合った下僕の少年が、始皇帝の危機を救いながらだんだんと力をつけて出世していく物語である。
その粗筋に沿って重要な部分の漫画の原画を並べるとともに、特に拘ったところには特に新しく書き下ろしを追加している。また表紙やカラーイラストがところどころに掲示されている。書き下ろし作品は例えば3m高さの絵で漫画の絵を描いているが、書き方は漫画とは当然異なる。
作品の展示は、狭い会場に迷路のように壁を並べて、見通しのない状態で作品を並べるという方式だった。見にくいなと思ったが、解説書では上野の森美術館の1階/2階の展示を想定して作品を選んだようで、ある意味この会場の作品展示は可哀そうと思った。
展示の最初 作家のメッセージ付き
作家が3mのサイズで描いた絵が左
展示風景 ただしこれは 上野の森美術館
3.感想
(1)アートと扱いうるか
前述のように、漫画のアートとしての扱いは大英博物館等の海外でもなされ始めている。この展示会の解説書もそれを意識してか、日本語と英語が併記されている。
そこでアートとして扱いうるかと考えた。
漫画は、ストーリー構想、連続したイラストによる流れの表現構想、作画(ラフから完成まで数工程)、大量印刷で成立する。この中で印刷前の原画がアートとして扱われている。ストーリーや流れのイラスト構想がなければ、かなり浮世絵に似ている。
大英博物館の展示は、情報によれば日本文化の象徴である浮世絵と対比したものだったようで、海外では原画もしくは作者が独立して描いたイラストが、肉筆浮世絵のように扱われていると思う。
それに対し漫画作者は、ストーリー構想がすごく物語の流れが評価できる人と、物語の中でのストップモーションに味わいのある人がいる。前者は絵がなければ文学として十分評価されるべきである。萩尾望都はストーリーおよび作画がともにすごいが、ちゃんと文学賞の対象になっている。
後者はある意味源氏物語絵巻などもそうだろうし、この作者が一時期弟子入りしていた井上雄彦などがそうである。後者のほうがアートとして評価しやすいし、大英博物館もそういった視点で展示を選んでいるようである。
この作者の場合は、圧倒的に前者のストーリー展開である。若い人向けだけれどもちゃんと高齢者にも説得力がある。絵の表現は丁寧でそのストーリーを前へ前へと押しやっていくエネルギーを持っているが、残念ながらというかストーリーの推進力のためか、ストップモーションの味わいに少し欠けると思う。
だからこの漫画に対しては、構想と作画の総体で評価すべきだし、その総体は十分アートとして評価すべきだろう。ただしその評価をどうやって共通認識にするかは難しい。
ストップモーションで表現される場合は、抜き出した1枚の絵から、従来の絵画の基準で味わいを感じることができる。全体構想が価値があるとなったら、今回のようにたくさん並べて音楽や映画のように時間をかけて、理解しなければならない。(かなり昔の白戸三平の漫画(忍者武芸帳)を大島渚が映画化したようにするか?)
オリジナリティと表現技術の集積は十分にここにある。それをどのようにしてアートとして扱い、感動を伝播させるかは今後の課題である。観賞者それぞれがなるほどと感じ、周りに伝えたくなりそれなりに説明しやすい蘊蓄が必要だ。
(2)キングダムという物語の今後について
この物語は、2006年9月に始まった。その頃多分主役は10歳を過ぎた程度ではないか。それから歴史書を丁寧に調べて大きな矛盾のないように、壮大なドラマを作ってきた。現在2022年で16年たったが、漫画もほぼその時間の流れに合わせて進行し、主役の年齢も青年となった。
まだ秦が統一の戦争を開始したばかりで、ここから統一までに10年かかる。それぞれの国に魅力的な敵役をばら撒いたから、それらの行末を処理しなければならず、現在のペースで書いていると10年はかかるのではないか。
また連載のヤングジャンプは10歳台後半から20歳台(30歳との話もある)を対象としているとされる。今が丁度その歳に適合しているが、今後主人公が高齢化していくとともにそのゾーンを通り過ぎていく。
1968年から続くゴルゴ13、また1994年から続く名探偵コナンは主人公の年齢は、長く続いても年齢不明か変わっていないのに対して、これはどのようにしてそのゾーンを終わる人を引きとどめ、また新しく入ってくる人をひきつけようとするのか。とても興味がある。
私が死ぬまでに終わらないような気も、いきなりフェードアウトしそうな気もする。ともかく 作者さんの健康維持がもっとも大事です。
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