てんちゃんのビックリ箱

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ホセ・カレーラス 名古屋公演感想

2021-11-02 23:08:16 | 音楽会



  ホセ・カレーラス テノールリサイタル ~心からのセレナータ~
  日時:2021年10月31日 17時~
  場所:愛知県芸術劇場コンサートホール


 名古屋市では、10月末から来年3月まで、ずらずらっと有名どころの演奏会が並ぶ。
 今日はその先陣を切って、ホセ・カレーラスのコンサートがありチケットが入手できたので行くことにした。

 カレーラスは世界三大テノールとして有名だけれどもそれは1990年ごろの話で、今は74歳となると老齢による衰えが不安。チケットもかなり高い。でも行くことにしたのは、もう聴くチャンスがないであろうということと、だいぶ前にプラシド・ドミンゴを聴いていたからやはりカレーラスも聴いておこうということ。

 県の芸術劇場の周りは、例年名古屋のハロウィンの仮装者が集まるところ。今年も集まっていたが、私たちの演奏会中に排除されるとのことだった。
 会場内に入ると、聴衆は2/3弱。ただしアリーナ形式の会場の舞台周辺と正面1階席がほぼぎっしり詰まるような状態だから、演奏家への失礼にはならないなと思った。
 
 演奏内容は、窓辺で女性に歌うことを想定したセレナータ。優しくロマンチックに歌う歌でカレーラス向き。プログラムは最後に示す。
 

1. 前半
 
 きちんとした正装で、ゆっくりと老人の足取りでピアニストを引き連れて登場。足取りに不安を覚えた。
 聴衆に礼をし、口元をハンカチで吹く。ピアノの横にピッタリとついて右手をその上に置き、前傾姿勢をとって歌い始める。
 うわぁ、バリトンの響き。頭を抱えたい気持ちだった。でもロマンチックさは素敵。丁寧にメロディが流れる。そんなにボリュームはあげないので中高音領域まで艶があるが、高音域は伸びないというか、この人の特長であるキラキラきらめきどこまで翔んでいくのかという高音の響きがない。
 2~3曲ごとに出入りを繰り返し、8曲歌って前半を終わった。頑張った老人をいたわるように優しく盛大な拍手で舞台袖へと見送った。

 休憩はみんな静かだった。



2.後半

 後半も、最初は前半と同様だった。
 しかし4曲目くらいで何かギアチェンジが起こり、カレーラスは高音部のボリュームを上げた。するとその領域がぐんと艶やかになった。たぶん老人ゆえ前半は自分の体調を測ろうとしていたのだろう。

 その後は多分ピアニストへの目配せそして彼の楽譜チェンジから、予定のプログラムとはずれたのでは思う。どんどん声が伸びやかになっていく。最高音域には達しないがそれより少し低い領域はかなり素晴らしい状況になってきた。そして後ろから3曲目ピアニストがおやっという顔でカレーラスを見て、曲後に彼自身がカレーラスに拍手をした。もちろん聴衆は大拍手。

 その後は彼自身もニコニコとしながら気分よく残りの曲を歌った。聴衆もこのあたりからスタンディングオベーションをする人が出てきた。
 彼特有のきらめく声は聴けなかったが、聴きに来てよかったと思った。



3.アンコール

 大拍手の中で、彼が出てきてアンコールが始まった。
 名前は出てこないが、時々聴く曲が出てきて、彼が一層乗って歌いだす。声がどんどん出てくる。ピアニストに彼がどんなもんだいという顔をして、ピアニストが恐れ入りましたというような顔で返す。
 アンコールのたびにスタンディングオペレーションする人が増える。すると彼がニコニコしながらおどけて出てくる。それが7回ほど続いた。

 その中で確か3回目のアンコール。アリーナ形式の演奏会場と最初に書いたが、このアンコールは本来の客席を背に、ステージの後ろ側や側面の聴衆に向かってのものだった。もちろんその人達は大喜び。そして前にいる私にとっても、背中からこんなに声が出ているという驚きだった。コーラスの時に背中から声を出せとよく言われるが本当だなと思った。
 後ろから2曲目に「川の流れのように」を日本語で歌い、次が最後のアンコールのはずがほぼ全員のスタンディングオペレーションと大拍手のため、もう一度出てきて同じ曲を歌って強制終了。

 コロナ禍のためにエリアごとに少しずつ退場することになったが、皆和やかな顔で楽しくしゃべっている人もいて、皆幸せになったのだなと思った。



4.おわりに

 全盛期の状態ではないけれども高齢になっても十分なパーフォーマンスに頭が下がった。
前半はかなり不安だったが、後半からアンコールにかけて演奏家のトライに聴衆が敏感に反応するということが積み重なって、演奏家の素晴らしい演奏が生まれた。
 17時から19時半までの、とてもハートウォーミングな演奏会だった。

 カレーラスの今回のコンサートは、国内で3回のみ。
  奈良: 10月28日
  名古屋:10月31日
  高崎: 11月 3日
 あと1回。 東京を外しているが、3日に高崎で聴くことができる人も幸せを感じることでしょう。

(修正  11月6日に東京のサントリーホールでも公演するようです。)



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4 コメント

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ホセ カレーラス (カンサン)
2021-11-10 20:38:16
てんちゃんへ、関西でもこのリサイタルがありましたが、行きませんでした。オペラ歌手は自分がもう声が出ない、と思えたら引退するのでしょうね。まだまだ大丈夫と思っているうちはリサイタルをしたい気持ちがあるのでしょう。
私は11月5日(金曜)から8日(月曜)まで高知県に行っていました。秋の花が見られました。
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はじめまして 楽しみました。 (はな)
2021-11-11 15:57:14
90年代の3大テノールに恋していたホセ同世代です。
とても興味深く読ませていただきました、ありがとうございました。 
東京はパス? 6日に開催していたのですね、知りませんで残念。
オール80代しかも後半の、ボニージャックスコンサートを来週聴きに行きます。 
が、どのジャンルでもプロは、年齢相応の歌い方を知っているようで、いつも感動します。
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カンサンさん (てんちゃん)
2021-11-13 01:33:57
コメントありがとうございます。

歌手の場合は、身体が楽器だから高齢になるとやはり鳴り方が変わります。それよりも体調維持が難しいでしょう。

 今回のカレーラスさんも、テノールとしてこんなに高い響きの声が出るというのではなく、曲のニュアンスを聴かせようとする公演になっていました。
 でもとても頑張っていったと思います。高齢者にとってある意味ロールモデルになります。
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はなさん (てんちゃん)
2021-11-13 01:46:38
コメントありがとうございます。

ボニージャックスのコンサートですか。80歳後半てすごいですね。
私が参加した第9で、錦織さんが調子が悪いということで急遽代役を立てたことがあります。歌手の体調管理は大変なのだなと思いました。
 私の大学時代の教授が90歳近くになっても講演活動をしていましたが、数人の医師がチームで体調管理していました。そのチームもお年だったので、先生のようなケアは我々同窓生は受けることができないと残念に思いました。
 ボニーさんたちの演奏状況はもちろんですが、生活すべての状況を知りたいと思います。
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