夕庵にて

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ときどき写真と短歌を

『ことばの食卓』 

2017年05月03日 | 
『ことばの食卓』 武田百合子著 ちくま文庫

武田泰淳氏夫人のエッセイ集。

食料に関する昔の思い出をすらすらと話しかける様に綴られていてとても

好感が持てる。特に「枇杷」の内容は武田氏の老いた様子を突き放した感じで

描写していて実にリアルなのだ。引用すると(枇杷の汁がだらだらと指を伝って

手首へ流れる。一切れづつ口の中へ押し込むのに鎌首を立てたような少し震える

指を4本も使うのです。そして唇をしっかり閉じたまま、口中で枇杷をもごもごまわし

長いことかかって歯ぐきで噛みつくしてから飲み下しています。目じりには涙のような

汗までたまっています。しわ深くニス色をした手の甲が柔らかく、白い手のひらや

指先が湿っていて「ゴムみたい、黒ん坊みたい、吸盤があるみたい」

彼はそんな指まで食べてしまったように居なくなってしまって、思わずあたりを

見回します)と穏やかに死を認識する。静かなありし日の回想が文字になって

いつまでも思い出されて切ない。よほどその時の様子が愛おしかったのだろう。




また美しくて上品なご馳走も一緒に食べる相手によって不味く感じたり、

そこいらの庶民のランチもとても美味しく記憶に残るものと。

読み返しても納得のいく文庫本をまた元の本棚にしまったことだった。
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