夕庵にて

スマホでパチリ・・・
ときどき写真と短歌を

あの胸が岬のように遠かった

2022年05月23日 | 
『あの胸が岬のように遠かった』永田和宏著 新潮社



妻 河野裕子の残した日記と手紙で綴る若き歌人の命がけの愛

知らぬまま逝ってしまった きみを捨て死のうとしたこと
               死にそこねたこと   永田和弘

永田和弘 歌人 細胞生物学者 京大理学部卒 宮中歌会始選者

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が
             河野裕子 (絶筆)

お二人の青春の苦く悲しく切ない愛の書簡集。

なべて芸術家という人たちは自分を追いつめて追いつめて考えるのか?
3歳で母と死別、継母との確執、短歌と学問と恋人との結婚に
押しつぶされそうになって思わず手にしたブロバリンの箱。

人を愛するということはどういうことなのか、
自分のすべてを知っていて欲しいと思える存在を持つこと、
それが人を愛するという、もうひとつの側面かもしれないと

しかし、河野裕子は乳がんを患い64歳で逝去。
一人住まいの家には仏壇はなく彼女の写真だけが静かに日常を
見守っているそうだ。

以前、永田氏の講演を聞きに行ったとき、廊下ですれ違ったことがあった。
厚かましくも声をかけたことが思い出された。
「今日の御髪はきれいですね」と私
「女房からいつも櫛を持っていくようにと言われてます」と少年のように
はにかんで胸のポケットをポンと叩かれたこと。
永田氏は髪が多くて少し癖毛である。

読後感はお二人の深い愛情の試練に圧倒されたことだった。

コメント
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