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ストケソサウルス1



ストケソサウルスは、ジュラ紀後期チトン期に生息した原始的なティラノサウロイド(ティラノサウルス上科の一員)である。米国ユタ州クリーブランド・ロイドから発見された模式種ストケソサウルス・クレヴェランディが知られていたが、最近イギリスのドーセットから発見された獣脚類の化石がストケソサウルスの新種、ストケソサウルス・ランガミとして命名・記載された(Benson, 2008)。ジュラ紀後期のティラノサウロイドとしては、他にポルトガルのアヴィアティラニスと中国のグァンロングが知られている。

 Madsen (1974)はユタ州クリーブランド・ロイドのモリソン層から発掘された1個の左腸骨を模式標本として、ストケソサウルス・クレヴェランディを記載した。マドセンはこの他に、別の分離した右腸骨と前上顎骨をもストケソサウルスのものと考えた。
 Foster and Chure (2000)はサウスダコタ州ワンダーランドから発見された1個の腸骨をストケソサウルス・クレヴェランディとしたが、Benson (2008)はこれはティラノサウロイドではあるがストケソサウルスとは特徴が異なるとして、未同定のティラノサウロイドと考えるべきであるとしている。またマドセンがストケソサウルスとした前上顎骨は、Carpenter et al. (2005)によりタニコラグレウスとされたが、丈が高く前縁が垂直であることや歯の形から未同定のケラトサウルス類(ネオケラトサウリア)としている。(歯が4本なのでケラトサウルスではない。)さらにChure and Madsen (1998)はクリーブランド・ロイド産の分離した脳函をストケソサウルス・クレヴェランディと考えたが、Benson (2008)は比較ができない以上ストケソサウルスと認められないと述べている。
 ストケソサウルス・ランガミの化石は、関節状態ではないが約3平方メートルの範囲内から発見された、まとまった部分骨格で、1個の頸椎、5個の胴椎、完全な仙骨、5個の尾椎、分離した横突起、完全な腰帯、左右の大腿骨、左右の脛骨からなる。脊椎骨の神経弓と椎体が癒合していることや、腸骨と恥骨が一部癒合していることなどから成体と考えられ、全長はグァンロングよりもひとまわり大きく5m近いと推定される。

 頭骨が見つかっていない場合に、どのようにしてティラノサウルス上科と判定されるのか。(ティラノサウルス科ではpubic bootの形などが有名かもしれないが、原始的なティラノサウロイドの場合はどうなのだろうか。)
 ストケソサウルスは、以下のような形質に基づいてティラノサウルス上科と同定される。腸骨の側面の中央部(寛骨臼のすぐ上)に、顕著な垂直の稜があること、腸骨の輪郭の前背方部に凹みがあること、preacetabular notchの内側にはっきりした棚状部があること、座骨結節が顕著なこと、大腿骨に比較して脛骨が長いことである。
 他のティラノサウロイドと異なるストケソサウルスの固有の形質は、腸骨の輪郭が高く盛り上がった半卵形であること、腸骨側面の中央の稜が、正確に垂直でなく後背方に傾いていること、preacetabular notchが狭いことであるという。
 そのうちストケソサウルス・クレヴェランディでは中央の稜が太く、背方縁近くまで達しているが、ストケソサウルス・ランガミでは中央の稜が細く、また短く終わっている。クレヴェランディでは恥骨との関節面の周囲の縁が唇状に膨らんでいるという。

 論文の図ではストケソサウルス、アヴィアティラニス、ゴルゴサウルス、グァンロングの腸骨を比較していて、確かに他のティラノサウロイドでは中央の稜が厳密に垂直なのに対して、ストケソサウルスでは後方に傾いている。しかし何らかの基準で水平を定めないと角度は比較できないはずであるが、多分仙椎を水平に置いた場合ということだろうか。
 ストケソサウルスの恥骨は、他の多くの獣脚類と同様に前腹方を向いている。一方、グァンロング、フアシャグナトゥス、シノサウロプテリクスのようないくつかの基盤的なコエルロサウルス類では、恥骨が垂直に腹方を向いている。Pubic bootは後端が欠けているが、おそらくpubic bootの長さは恥骨の長さの1/2くらいで、グァンロングと同様に後方の膨らみの方がずっと長いと推定される。ティラノサウルス科では前方の膨らみと後方の膨らみがほとんど同じくらい長い。
 ストケソサウルスの座骨では、腸骨突起の後縁にくさび状の座骨結節がある。これはティラノサウルス科やオルニトミモサウリアと同様である。閉鎖孔突起は細長い三角形である。座骨の先端は欠けているが、先端に向かって少し拡がっていることがわかる。座骨の先端はディロングやグァンロングでは少し拡がっているが、進化したティラノサウルス科では拡がっていない。

 ゲニオデクテスは上下の顎、アレクトロサウルスは足先、ストケソサウルスは腸骨で定義されている。ということは仮にモリソン層で原始的なティラノサウロイドの化石が発見され、全身の75%くらい保存されていても、腸骨がなければストケソサウルスと同定できないことになる。米国とイギリスのストケソサウルスも、腸骨の形質が最も似ているということであって、もし双方とも頭骨などが見つかって明らかに属レベルの差異があれば、別属となるのだろう。それでもイギリスに原始的なティラノサウロイドが生息していたというだけで、心が豊かになる。

参考文献
Benson, R. B. J. (2008). New information on Stokesosaurus, a tyrannosauroid (Dinosauria: Theropoda) from North America and the United Kingdom. Journal of Vertebrate Paleontology 28(3): 732-750.


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