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エウパルケリア (1)後肢の復元姿勢 (エウパルケリア類)



爬虫類の中でも主竜類は、トカゲのように這う姿勢から恐竜のような直立姿勢、四足歩行と二足歩行など、非常に多様な姿勢と歩行様式の動物を含むグループである。そのため三畳紀中期の時点ですでに、主竜類と主竜形類の腰帯と足首の関節の構造には大きな多様性がみられる。主竜類の腰帯や後肢の形態と、姿勢や歩行といった機能の関係については、大部分が恐竜について研究されてきたが、主竜類の進化全体をとらえるためには、主竜類の祖先形がどんな状態だったかを研究する必要がある。

エウパルケリア・カペンシスは三畳紀中期アニシアン(Burgersdorp Formation)に南アフリカに生息した小型の主竜形類で、その形態は多くの保存の良い化石標本から知られている。エウパルケリアは、これまでの多くの系統解析で主竜類の祖先に近い位置にきている。さらにエウパルケリアは、形態学的にも生態学的にも主竜類の祖先に似ているのではないかと期待されており、主竜類の移動様式の祖先形を考察する上で理想的な材料である。

エウパルケリアの姿勢と歩行様式については、多くの仮説が提唱されてきた。移動の際に半直立姿勢をとった説もあれば、トカゲのように爬行した説も多い。前肢よりも後肢が長いことから、条件的二足歩行をしたという説も提唱されたが、これには疑問が呈されている。足先の姿勢についても一致しておらず、指行性digitigradeともしょ行性plantigradeとも解釈されている。これまでの説は、どれも母岩に埋まった化石標本を2次元的に観察したもので定量的な検討はしていなかった。エウパルケリアの足根部(足首)の関節については非常に詳細に観察され、記載されてきたが、個々の骨の正確な3次元的関節状態については、不十分であった。

そこでDemuth et al. (2020) は、エウパルケリアの多くの標本をマイクロCTスキャンし、腰帯と足根部の各骨の3次元形態と関節状態を再構築した。そして骨の可動域range of motion (ROM)などの機能形態学的解析を行った。

エウパルケリアのホロタイプ標本SAM PK 5867の腰帯は、全般に保存は良いが、大腿骨が腸骨の上に載っていたため、寛骨臼上縁supra-acetabular rimの部分がつぶれていた。2つめの標本SAM PK 6047Aでは腰帯の関節が外れていたが、左の腸骨では幸い、ホロタイプのような変形を免れて、寛骨臼上縁supra-acetabular rimの形がよく保存されていた。これを見ると、エウパルケリアでは寛骨臼上縁がよく発達し、深い寛骨臼の上を覆っていることがわかった。また仙肋骨が腹側方を向いているため腸骨が傾いており、寛骨臼はやや下向きに開いている、つまり大腿骨頭の上をカバーしていることがわかった。

3次元で腰帯の寛骨臼に大腿骨頭を関節させて、動かすシミュレーションを多数行った結果、エウパルケリアの腰関節はかなり可動性が大きく、大腿骨を垂直に内転して後肢を体の下に持ってくることも、より外転して這うような姿勢にすることも可能であることがわかった。ただし大腿骨を水平に近い角度にすると、寛骨臼上縁とぶつかるため前後に動かせないことがわかった。これはワニやイグアナのような這う動物にはみられない現象であるという。ある程度下向き斜めから垂直くらいの方向ならば歩行できたようだ。

同様に足根部についても3次元でそれぞれの骨を関節させて再構築してみたところ、エウパルケリアの足首の関節はoblique mesotarsal であるという。つまり距骨、踵骨、遠位足根骨と中足骨の間で直線的な関節をなしているという。ただし恐竜と異なり、エウパルケリアの足根関節の回転軸は膝関節に対しても中足骨‐指骨関節に対しても斜めになっている。つまり関節が足に対して斜めになっているので、後肢を垂直にして歩行することはできない。足先を安定して地面につけるために、最も大腿骨を内転した(直立に近い)姿勢は、少し足先を開いた「仁王立ち」あるいは脚立のような角度であるという。これからもう少し外転した(大腿骨を開いた)姿勢のどこかの角度で歩行したようである。
 つまりトカゲのような爬行姿勢でもなく、恐竜のような直立姿勢でもなく、その間の中間的な直立姿勢の可能性が高いということである。

エウパルケリアは、深い寛骨臼と寛骨臼上縁によりpillar-erect型(ラウイスクス型)の直立姿勢も可能な腰関節という進化的な形質と、斜めの足根関節という原始的な形質を併せ持っている。今回の研究で、pillar-erect型の腰関節は主竜類以前の段階(真鰐足類Eucrocopoda)で一度獲得されたこと、完全な直立歩行を可能とする足根関節はもっと後で進化したことがわかってきた。pillar-erect型の腰関節は、足根関節の進化を促すように働いた可能性もあるといっている。また、この研究では二足歩行について特に論じていないが、完全な直立姿勢が確立した後に二足歩行へ移行したと考えているようだ。


参考文献
Demuth, O.E., Rayfield, E.J. & Hutchinson, J.R. 3D hindlimb joint mobility of the stem-archosaur Euparkeria capensis with implications for postural evolution within Archosauria. Sci Rep 10, 15357 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-70175-y
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