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プシッタコサウルスとレペノマムスの格闘化石


中国遼寧省でまた、恐ろしく保存のよい化石が発見され、恐竜と哺乳類の関係の見方に一石を投じるものとしてニュースになっている。

発見された化石は2頭の動物が密接に絡み合ったもので、1頭は小型のケラトプス類プシッタコサウルスPsittacosaurus lujiatunensis(120cm)、もう1頭はより小型の哺乳類レペノマムスRepenomamus robustus (47cm)である。
 プシッタコサウルスの骨格はほとんど完全で、うつ伏せに横たわっており、頭と尾は左に曲げている。大腿骨の周長などから体重は10.6 kgと推定された。レペノマムスの骨格もほとんど完全で、大きく体を曲げており、恐竜の体の左側の上に乗っていた。下顎や歯の特徴は埋まっていてわからないが、比較的小型であることと矢状稜や頬骨弓の発達が弱いことからレペノマムス・ロブストゥスであり、さらに大きなレペノマムス・ギガンティクスではない。推定体重は3.4 kgで、前頭骨の縫合はそれほど顕著でないが長骨の骨端が閉じていることから亜成体と考えられた。レペノマムスの左手はプシッタコサウルスの下顎をつかんでおり、左足はプシッタコサウルスの膝関節に挟まれて、脛をつかんでいる。またレペノマムスの顎はプシッタコサウルスの前方の肋骨2本を咬んでいた。(写真の説明ではなぜか前腕を咬んでいるように書いてあるが、本文では一貫して肋骨になっている。直し忘れか)

この化石は発見者から博物館に寄贈されたものであるが、2種類の動物が密接に絡み合っていることから、過去の遼寧省にあったような贋作化石ではなく、本物であると考えられた。著者らは本物である確信を得るため、まだ母岩に埋まっていた下顎をクリーニングしたが、やはり肋骨を咬むように位置していた。
 また化石化の過程で川の流れによって単に2つの死骸が寄せ集められたものでもない。骨格がほとんど完全に保存されていることから、これは明らかに長距離を流されたものではなく、死亡した場所で火砕流などに埋もれたものと考えられた。

2種の動物が相互作用したとしても、いくつかの可能性があり、例えばプシッタコサウルスの死体をレペノマムスが食べていた(屍肉食)のかもしれない。この仮説はプシッタコサウルスの方がレペノマムスよりもずっと大きいこと、生きた動物の肋骨を咬むのは困難であるように思われることと整合する。しかし著者らは、プシッタコサウルスの骨に咬み跡がないこと、これらの動物が複雑に絡み合っていること、レペノマムスがプシッタコサウルスの上に乗っていることなどから、実際に捕食の過程を表しているという説を支持している。なるほど死体を漁るだけだったら、下顎をつかんだり足が恐竜の膝に挟まれたり、こんなアクロバティックな姿勢になることはないように思える。

プシッタコサウルスの方がずっと大きいことについては、著者らは捕食者と被捕食者のサイズ関係について多くのデータベースを検討した結果、ありえないことではないと言っている。現生種でも例えばクズリは、自分より数倍も大きいヘラジカやトナカイを襲うことが知られている。イタチ科で最小のイイズナも、自分より大きいライチョウやノウサギを襲うことがある。そういえばレペノマムスはよくタスマニアデビルのようながっしりした体形といわれるが、クズリのように気が強いのかもしれない。

肋骨を咬んでいることについては、獲物が生きたままの状態で食べ始めることは、リカオンやブチハイエナにみられるといっている。最初に捕食者からの攻撃を何度も受けた獲物は、体力の消耗とショックにより倒れてしまうことがある。急所であるノド付近を食い破り、さらに胸部をかじっている状態なのだろうか。そうだとすれば凄まじい攻撃の瞬間を見ていることになる。プシッタコサウルスの上にレペノマムスが乗っているのは、弱った獲物を制圧しているとも見えるという。

マイケル・スクレプニクさんの素晴らしい復元画が載っている。足を恐竜の膝に絡めてほしかったな。

参考文献
Gang Han, Jordan C. Mallon, Aaron J. Lussier, Xiao‑Chun Wu, Robert Mitchell & Ling‑Ji Li (2023) An extraordinary fossil captures the struggle for existence during the Mesozoic.
Scientific Reports (2023) 13:11221 https://doi.org/10.1038/s41598-023-37545-8
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