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肉食の系譜
サウロファガナクスはディプロドクス科竜脚類とアロサウルス科獣脚類のキメラである
サウロファガナクス・ロスで悲しむ人も、アロサウルス・アナクスがいればいいじゃないか。
再検討の結果、サウロファガナクスをアロサウルスから区別するのに用いられたいくつかの骨は、同じ産地のディプロドクス科竜脚類のものと考えられた。残りの骨はアロサウルス科で、一部は他のアロサウルス(フラギリスとジムマドセニ)とは異なる微妙な特徴をもつことから、アロサウルス属の新種アロサウルス・アナクスAllosaurus anaxとすることを提唱している。ただしホロタイプ標本である神経弓は、今のところ竜脚類とも獣脚類とも結論できないので、疑問名サウロファガナクス・マキシムスとして残している。将来もしこれが獣脚類であるとなれば、その時はサウロファガナクスが復活する望みはあるということである。まあ他のアロサウルスよりかなり大型のアロサウルス科が確かに存在しており、一応新種として記載されたということはひと安心である。
感想として、サウロファガナクスの特徴を示すとされた骨格要素の多くは、環椎、胴椎の神経弓、血道弓といった脊椎の骨であり、これらは専門家が詳細に研究しても、獣脚類と竜脚類で区別することが難しいとは意外である。椎骨は脊椎全体の中の位置によっても形態が異なり、また成長段階によっても変化するので、すべてが詳細にわかっているわけではないということだろう。

Copyright 2024 Danison et al.
まずホロタイプ標本である胴椎の神経弓には、神経棘の両側に、余分な稜accessory laminaeがあり、これがサウロファガナクスの特徴とされていた。accessory laminaeはアロサウルスにはないが、アクロカントサウルスやティランノティタンのようなカルカロドントサウルス類にはみられる。ただしこれらのカルカロドントサウルス類では、accessory laminaeがどの稜からどの稜につながっているかなど、位置関係がサウロファガナクスとは異なる。ルソヴェナトルの尾椎の神経弓では、サウロファガナクスと似たaccessory laminaeがあるが、ルソヴェナトルの胴椎にもあったかどうかは知られていない。サウロファガナクスが独自のaccessory laminaeをもつ獣脚類だった可能性はあるので、獣脚類という仮説も否定できない。
しかし一方でサウロファガナクスを産出したKenton 1 Quarryからは多くの竜脚類化石が知られており、一般に竜脚類の方が神経弓の稜や窪みが発達しているので、竜脚類の可能性も検討する必要がある。実はこの産地から産出したアパトサウルスの一種Apatosaurus sp.とされる標本の中に、似たような稜をもつものがある。例えばOMNH 1366という竜脚類の胴椎では、サウロファガナクスと同じような方向・構造の稜(sprl)がある。またサウロファガナクスのホロタイプ標本では、accessory laminaeの側面に深い窪みがあるが、これもOMNH 1440という別のアパトサウルスの胴椎ではsprlの側面に深い窪みがみられる。つまりサウロファガナクスのホロタイプとディプロドクス科の神経弓で、同じような稜や側面の窪みがあることは、このホロタイプが竜脚類に属することを示唆している。しかし化石が断片的であり脊椎の中での位置も定まらないので、獣脚類とも竜脚類とも確実に結論することは難しい。この稜はApatosaurus sp.とされる他のほとんどの胴椎に見られる一方で、ホロタイプ標本以外のサウロファガナクスとされる椎骨にはみられない。この辺りを読むとどちらかというと竜脚類の可能性が高いように思える。

アロサウルスと異なるサウロファガナクスの特徴の一つは、環椎にproatlas(環椎より前方にある骨)との関節面がないこととされてきた。獣脚類ではアロサウルス、シンラプトル、ティランノティタンの環椎にはいずれもproatlasとの関節面がある。またディロフォサウルス、ケラトサウルス、トルボサウルスの環椎にもある。竜脚類の中では、ディプロドクスにはあるが、アパトサウルスと一部のカマラサウルスの標本にはない。よってproatlasとの関節面がないことは、アパトサウルスやカマラサウルスのような竜脚類の状態と一致する。
またサウロファガナクスとされる環椎の間椎心には前腹方突起anteroventral protrusionがあることも、竜脚類と似ている。このような形状は、アパトサウルスやカマラサウルスを含むジュラ紀の多くの竜脚類にみられる。ディプロドクス科とディクラエオサウルス科にもあるが少し形状が異なる。一方、このような構造はアロサウルスにはなく、ティランノティタン、シンラプトル、トルボサウルス、ケラトサウルス、ディロフォサウルスにもみられない。よってこの特徴はこの標本が竜脚類の環椎であることを支持している。この環椎はディプロドクス科とは少し異なるので、新竜脚類Neosauropodaとしている。

もう一つのサウロファガナクスの特徴は、中央の尾椎の血道弓に前方突起anterior spineがあり、前後に長い肉切り包丁meat chopperの形をしていることであった。この形態は当初、ティラノサウルス科との収斂と考えられた。ティラノサウルスの中央の尾椎の血道弓には確かに前方突起がある。しかしティラノサウルス科以外の獣脚類では、アロサウルス、トルボサウルス、ケラトサウルスにもみられない。アロサウルスのこの部位の血道弓は、後方に曲がったL字形をしている。一方、顕著な前方突起は、アパトサウルス、バロサウルス、ディプロドクスのようなディプロドクス科の中央と後方の尾椎の血道弓に典型的にみられる。Kenton 1 Quarryからは主にこれらの竜脚類化石が多産しているので、最も可能性が高いのはこのサウロファガナクスの血道弓がディプロドクス科のものであることである。
サウロファガナクスの血道弓には、血道孔の上を閉じる骨橋bony bridgeが全くない。アロサウルスやティラノサウルスを含むほとんどの獣脚類では、血道弓に骨橋がある。一方ディプロドクス科の血道弓には、骨橋がなく前方から見て開いたV字形open v-shapeのものがみられる。この形はアロサウルス科でなくディプロドクス科の特徴なので、サウロファガナクスとされる血道弓はディプロドクス科に属する可能性が高い。

一方、サウロファガナクスの後眼窩骨は確かにアロサウルスと似ており、ディプロドクス類とは全く似ていない。またケラトサウルスやトルボサウルスとも異なる点があるので、この後眼窩骨は大型のアロサウルス科のものである。サウロファガナクスの後眼窩骨がアロサウルス・フラギリスやアロサウルス・ジムマドセニと異なる点は、外側面がなめらかで頭部の装飾cranial ornamentationをもたないことである。この骨の表面には化石化過程での損傷やプレパレーションの工具による傷跡があるが、その程度は装飾がないことを説明できるほどではない。また成長段階や個体変異による違いとも考えにくい。一般に獣脚類の頭部の装飾は体の大型化と相関しているが、アロサウルス・フラギリスやアロサウルス・ジムマドセニのより小さい標本にみられる頭部の装飾が、この大型の後眼窩骨にはみられない。アロサウルス・フラギリスやアロサウルス・ジムマドセニではこれまで知られているすべての後眼窩骨に何らかの装飾がある。さらにCarpenter (2010)は、アロサウルスの9個の後眼窩骨を観察しているが、装飾に変異があるとは報告していない。よって後眼窩骨の外側面に装飾がないことは、このアロサウルス科の標本の固有派生形質であると結論している。
また腹側突起の後縁に突出した隆起bulgeがあるが、これはアロサウルスのどの標本にもみられないので、このアロサウルス科の標本の固有派生形質かもしれないといっている。
参考文献
Andy D. Danison, Mathew J. Wedel, Daniel E. Barta, Holly N. Woodward,
Holley M. Flora, Andrew H. Lee, and Eric Snively (2024) Chimerism of specimens referred to Saurophaganax maximus reveals a new species of Allosaurus (Dinosauria, Theropoda). Vertebrate Anatomy Morphology Palaeontology 12:81–114.
再検討の結果、サウロファガナクスをアロサウルスから区別するのに用いられたいくつかの骨は、同じ産地のディプロドクス科竜脚類のものと考えられた。残りの骨はアロサウルス科で、一部は他のアロサウルス(フラギリスとジムマドセニ)とは異なる微妙な特徴をもつことから、アロサウルス属の新種アロサウルス・アナクスAllosaurus anaxとすることを提唱している。ただしホロタイプ標本である神経弓は、今のところ竜脚類とも獣脚類とも結論できないので、疑問名サウロファガナクス・マキシムスとして残している。将来もしこれが獣脚類であるとなれば、その時はサウロファガナクスが復活する望みはあるということである。まあ他のアロサウルスよりかなり大型のアロサウルス科が確かに存在しており、一応新種として記載されたということはひと安心である。
感想として、サウロファガナクスの特徴を示すとされた骨格要素の多くは、環椎、胴椎の神経弓、血道弓といった脊椎の骨であり、これらは専門家が詳細に研究しても、獣脚類と竜脚類で区別することが難しいとは意外である。椎骨は脊椎全体の中の位置によっても形態が異なり、また成長段階によっても変化するので、すべてが詳細にわかっているわけではないということだろう。

Copyright 2024 Danison et al.
まずホロタイプ標本である胴椎の神経弓には、神経棘の両側に、余分な稜accessory laminaeがあり、これがサウロファガナクスの特徴とされていた。accessory laminaeはアロサウルスにはないが、アクロカントサウルスやティランノティタンのようなカルカロドントサウルス類にはみられる。ただしこれらのカルカロドントサウルス類では、accessory laminaeがどの稜からどの稜につながっているかなど、位置関係がサウロファガナクスとは異なる。ルソヴェナトルの尾椎の神経弓では、サウロファガナクスと似たaccessory laminaeがあるが、ルソヴェナトルの胴椎にもあったかどうかは知られていない。サウロファガナクスが独自のaccessory laminaeをもつ獣脚類だった可能性はあるので、獣脚類という仮説も否定できない。
しかし一方でサウロファガナクスを産出したKenton 1 Quarryからは多くの竜脚類化石が知られており、一般に竜脚類の方が神経弓の稜や窪みが発達しているので、竜脚類の可能性も検討する必要がある。実はこの産地から産出したアパトサウルスの一種Apatosaurus sp.とされる標本の中に、似たような稜をもつものがある。例えばOMNH 1366という竜脚類の胴椎では、サウロファガナクスと同じような方向・構造の稜(sprl)がある。またサウロファガナクスのホロタイプ標本では、accessory laminaeの側面に深い窪みがあるが、これもOMNH 1440という別のアパトサウルスの胴椎ではsprlの側面に深い窪みがみられる。つまりサウロファガナクスのホロタイプとディプロドクス科の神経弓で、同じような稜や側面の窪みがあることは、このホロタイプが竜脚類に属することを示唆している。しかし化石が断片的であり脊椎の中での位置も定まらないので、獣脚類とも竜脚類とも確実に結論することは難しい。この稜はApatosaurus sp.とされる他のほとんどの胴椎に見られる一方で、ホロタイプ標本以外のサウロファガナクスとされる椎骨にはみられない。この辺りを読むとどちらかというと竜脚類の可能性が高いように思える。

アロサウルスと異なるサウロファガナクスの特徴の一つは、環椎にproatlas(環椎より前方にある骨)との関節面がないこととされてきた。獣脚類ではアロサウルス、シンラプトル、ティランノティタンの環椎にはいずれもproatlasとの関節面がある。またディロフォサウルス、ケラトサウルス、トルボサウルスの環椎にもある。竜脚類の中では、ディプロドクスにはあるが、アパトサウルスと一部のカマラサウルスの標本にはない。よってproatlasとの関節面がないことは、アパトサウルスやカマラサウルスのような竜脚類の状態と一致する。
またサウロファガナクスとされる環椎の間椎心には前腹方突起anteroventral protrusionがあることも、竜脚類と似ている。このような形状は、アパトサウルスやカマラサウルスを含むジュラ紀の多くの竜脚類にみられる。ディプロドクス科とディクラエオサウルス科にもあるが少し形状が異なる。一方、このような構造はアロサウルスにはなく、ティランノティタン、シンラプトル、トルボサウルス、ケラトサウルス、ディロフォサウルスにもみられない。よってこの特徴はこの標本が竜脚類の環椎であることを支持している。この環椎はディプロドクス科とは少し異なるので、新竜脚類Neosauropodaとしている。

もう一つのサウロファガナクスの特徴は、中央の尾椎の血道弓に前方突起anterior spineがあり、前後に長い肉切り包丁meat chopperの形をしていることであった。この形態は当初、ティラノサウルス科との収斂と考えられた。ティラノサウルスの中央の尾椎の血道弓には確かに前方突起がある。しかしティラノサウルス科以外の獣脚類では、アロサウルス、トルボサウルス、ケラトサウルスにもみられない。アロサウルスのこの部位の血道弓は、後方に曲がったL字形をしている。一方、顕著な前方突起は、アパトサウルス、バロサウルス、ディプロドクスのようなディプロドクス科の中央と後方の尾椎の血道弓に典型的にみられる。Kenton 1 Quarryからは主にこれらの竜脚類化石が多産しているので、最も可能性が高いのはこのサウロファガナクスの血道弓がディプロドクス科のものであることである。
サウロファガナクスの血道弓には、血道孔の上を閉じる骨橋bony bridgeが全くない。アロサウルスやティラノサウルスを含むほとんどの獣脚類では、血道弓に骨橋がある。一方ディプロドクス科の血道弓には、骨橋がなく前方から見て開いたV字形open v-shapeのものがみられる。この形はアロサウルス科でなくディプロドクス科の特徴なので、サウロファガナクスとされる血道弓はディプロドクス科に属する可能性が高い。

一方、サウロファガナクスの後眼窩骨は確かにアロサウルスと似ており、ディプロドクス類とは全く似ていない。またケラトサウルスやトルボサウルスとも異なる点があるので、この後眼窩骨は大型のアロサウルス科のものである。サウロファガナクスの後眼窩骨がアロサウルス・フラギリスやアロサウルス・ジムマドセニと異なる点は、外側面がなめらかで頭部の装飾cranial ornamentationをもたないことである。この骨の表面には化石化過程での損傷やプレパレーションの工具による傷跡があるが、その程度は装飾がないことを説明できるほどではない。また成長段階や個体変異による違いとも考えにくい。一般に獣脚類の頭部の装飾は体の大型化と相関しているが、アロサウルス・フラギリスやアロサウルス・ジムマドセニのより小さい標本にみられる頭部の装飾が、この大型の後眼窩骨にはみられない。アロサウルス・フラギリスやアロサウルス・ジムマドセニではこれまで知られているすべての後眼窩骨に何らかの装飾がある。さらにCarpenter (2010)は、アロサウルスの9個の後眼窩骨を観察しているが、装飾に変異があるとは報告していない。よって後眼窩骨の外側面に装飾がないことは、このアロサウルス科の標本の固有派生形質であると結論している。
また腹側突起の後縁に突出した隆起bulgeがあるが、これはアロサウルスのどの標本にもみられないので、このアロサウルス科の標本の固有派生形質かもしれないといっている。
参考文献
Andy D. Danison, Mathew J. Wedel, Daniel E. Barta, Holly N. Woodward,
Holley M. Flora, Andrew H. Lee, and Eric Snively (2024) Chimerism of specimens referred to Saurophaganax maximus reveals a new species of Allosaurus (Dinosauria, Theropoda). Vertebrate Anatomy Morphology Palaeontology 12:81–114.
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