届いたノニジュースをすぐさま開封し、クンクン匂いを嗅いでみた。甘いような、ちょっと生臭いような、濃厚なパッションフルーツの匂いがした。
キャバリアを飼っている訓練士さんが「うちの犬には30cc飲ませている」というのを思い出し、クリとブナには50cc飲ませることにした。免疫力がアップするというのなら、クリにだけじゃなく、一応年上のブナにもあげないと不公平だからね。
クリとブナのエサ皿に入れてやると、ブナはペチャペチャとすぐに飲み出したが、クリは匂いを嗅いだきり飲もうとしない!
「クリーッ、お前のために買ったのよ。高いジュースなんだから、ホラ、飲みなよ~」と叫ぶ私。それでも飲まないので、皿からジュースをシリンジで吸い上げて無理やりクリに飲ませたのだが、毎回こんなことじゃ困るじゃないの。
「クリちゃん、100ccで640円もするのよ」としつこく迫る私。「こんなちょっとでもお前の分だけで320円。残さず飲みなさい!」
毎日私が飲んでいる発泡系の健康ドリンク(発泡酒とか第3のビールとか呼ばれている)は、350ccで150円くらいだ。えらい違いである。とはいえ、いきなり犬にセコい発言を繰り返し、我ながらちょっと恥ずかしくなった。
元ケンネルの元お嬢さんは「水で薄めずに、原液で飲ませよ」と言っていたけれど、同封されてきたパンフレットを見ると、牛乳やヨーグルトに混ぜてもよいと書いてある。パンフに書いてあるのだからよかろうということで、翌日からは散歩のあとにあげる牛乳に混ぜてやることにした。
牛乳で薄めると、クリもちゃんとノニジュースを飲む。やれやれである。もうセコい人にならなくて済む。
人間用の健康ドリンクなのだから、私が飲んでもよいのだけど、そんな高価な栄養ドリンクなんて、もったいなくて自分では飲めなやしない。毎日2頭飲ませると10日でなくなってしまう量しかないのだ。あっ、またセコくなってしまった。
クリは激しい運動をさせなくても、普通に歩いていてもゼエゼエしていた。ブナは激しいパンチングでも、ハアハアが速くなるだけでゼエゼエはしない。明らかに呼吸が違っていたのだ。
21日に飲ませ始めて6日目、それが、クリのゼエゼエはかなり治まっている。今朝の散歩も歩いた距離は今までと同じ。なのに、散歩中にゼエゼエという息使いを聞かなかった。涼しかったせいかしら。それともノニジュースのおかげ?
何だかよく分からないけど、そのおかげであってもらわなくちゃ困るとも思う。それだけ高価なのだから、効果がなくては(ダジャレじゃなくって)困るじゃありませんか。
あと数日、とにかく飲ませ続けてみよう。もしクリのゼエゼエが改善されたら、私は「ノニがいい」と人に勧めるだろうか。分からないなあ。
どうも南方の植物らしいことは分かった。なぜなら「タヒチアンノニじゃないとダメよ」と元ケンネルの元お嬢さんはキリリと言ったからである。タヒチの果物のジュースのようだ。「薄めずにそのまま飲ませるの。そうすると免疫力が高まるのよ!」とも語っていた。
知り合いの訓練士さんからも買えるという。「そうすれば少しでも彼女が儲かるから」という。どうもその売買システムは「ニュースキン」や「アムウェイ」のようなマルチ商法的なシステムのようなのだ。
家に帰ってさっそく調べてみると、タヒチアンノニ・ジャパン公式サイトなるものがあった。でも、いくら読んでも何の成分比率が高いのかよく分からないし、何がどう作用して免疫力がアップするのかもよく分からなかった。
分かったことはノニジュースがめっぽう高いということだけだった。だって1本1000ccのボトルが6352円もするのですよ!
ノニというのは正式にはポリネシア産の「モリンダシトリフォリア」と呼ばれる果実で、ノニジュースにはそれとグレープ、ブルーベリーなどがブレンドされているようだ。
「フレンチポリネシア産ノニの有用成分がぎっしり詰まった逸品。できる限り自然に近い形で製品化」と書いてある。ううむ。
そして、やっぱり「タヒチアンノニビジネス」なるページがあり、「これまで200人近くの億万長者が誕生している」などと書いてある。こういうのはあまり好きくない。
だが、しかし、何となく気になる。クリの「ゼエゼエ」を解消してやりたい。肺浮腫や肺水腫だったらどうしよう。
こうしてガンとか難病とか言われた人の家族は藁をもつかむ思いで、「よい」と言われるものは何でも試してみるのだ。クリは別に難病でもなんでもないし、まだ診察も受けていないのだけど。
いつもなら、そういう売買システムは敬遠し、何だか分からないものをそんな高価な値段で買うことはないのに、私はなぜかふと、別の販売店のホームページからタヒチアンノニジュース1000ccを注文したのである。
「ペット本の原稿料が9月末に入るからいいや」って、ちょっと気が大きくなったということもある。でも、ものすごく迷ったわけじゃない。なぜだろう。魔が射したのか。
かくして21日、送料込みで6398円の払込書とともにノニジュースは届けられたのだった。
先々週の土曜日、茨城県小美玉市に行った。
借金が払えず管財人が管理することになった土地を有効利用するべく、子どもや犬に開放する広場を作ったとのことで、どういった方向性で運営していくのがよいかという意見を求められて、現地を訪れたのだ。我が家の犬2頭を連れて。
そこには、知り合いの訓練士さんや知り合いじゃない訓練士さん、かつて有名ケンネルだった家のお嬢さん(といっても、もはや「お嬢さん」と呼ばれるお歳ではない方だったが)などが集まっており、何頭ものシャパードやトイプードル、イングリッシュ・ポインターやらがアジリティーをしたり、訓練を入れられたりしていて、そんなのを座り心地のいいアウトドアチェアに座りながら眺め、久しぶりにのんびり過ごしていた。
最近クリの息使いが「ハア、ハア」ではなく、かなり苦しそうに「ゼエ、ゼエ」なることがあり、心肺機能が低下しているのかと心配していた。その日もあまり暑くなるようなら連れて行くのを控えようかと思っていたくらいだった。
そんなことを久しぶりに会った訓練士さんに何の気なしに話すと、「ノニジュースがいいよ」という。ノニジュース? 聞いたことはあるが、いきなりそう言われても……。
なのに、次から次へとノニジュースによって、容態が回復したという話をするのだ。
粘液状の嘔吐を繰り返していたのにノニジュースを飲ませたら翌日止まったとか、末期ガンで死にそうだったのにノニジュースによって数カ月を生き延びたとか。もちろんみんな犬の話なのだけど。
「ノニジュースのことならHさんに聞くといい!」と言って連れてこられたのが、元ケンネルの元お嬢さんだった。
「クリちゃんがゼエゼエしているんだって」と訓練士さん。
「そういう肺浮腫や肺水種にも、ノニジュースは効くわよ」と元お嬢さん。
(えっ? そういうって、クリの症状は肺浮腫や肺水種なのか)と私は目を白黒させながら、話を聞いていたのだった。
ノニジュースって、一体何よ?