門井慶喜著「銀河鉄道の父」の本を紹介したい。
<賢治を見守る親の切なさ>
自分の子供が宮沢賢治みたいだったら、賢治ファンはどうするだろう。賢治の生涯を父親の視点から描いたこの長編小説を読んで、つくづくそう思った。
親は、だれしもわが子に立派に育ってほしいと願うものだ。賢治ファンだって、間違ってもデクノボーと呼ばれるようになってほしいなんて望まないし、早死にもしてほしくないはずだ。だが、賢治は今でこそ国民的作家だが、生前は無名だったし、父親よりも先に死んだ。父・政次郎はそんなわが子をどう思い、どのように接していたのか。
賢治は富裕な質屋の長男として生まれた。子供のころから鉱物や物語に興味を持ち、勉強はできたが、世俗的な出世には関心が薄く、他人との交渉事も苦手。夢見がちな一方、頑固でぜいたく好きでもあり、時々は製飴(せいし)業を興したいとか人造宝石を造るなどと事業欲も出しても、資金は親の懐を当てにするばかり。頭にいっぱいの理想を抱えながら、生活力に乏しく、口にする言葉と実際の行動にはギャプがある。
好き勝手する息子を、応援してやりたいと思う一方、それで大丈夫なのかと心配でたまらない。厳しすぎないか甘過ぎないかと迷ううちに、親の教育方針はブレまくる。政次郎自身、「明治の男」らしく、長男は家業を継ぐのが当然と思う一方で、質屋という仕事に疑問を持つようにもなる。金を借りに来る客は、自分のずるさや不誠実を棚に上げて、質屋を悪者扱いするからだ。文化事業にも関心がある父は、うっすらと息子に共感するだけに、ずるずると譲歩することになる。
子どもは親の望み通りには育たない。結局、子どもの人生は子ども自身のもの。親は敗れ去る存在だ。愛が強い分だけ親は弱い。
賢治の作品が載った地元新聞を喜々として配り歩く老父には、思わず「良かったですね」と声を掛けたくなる。 (長山靖夫、文芸評論家)
「十勝の活性化を考える会」会員
注)門井慶喜
群馬県桐生市生まれ。同志社大学文学部文化学科文化史学専攻卒業。
[略歴]
出生は群馬県だが、3歳のときに転居した栃木県宇都宮市で育つ。宇都宮市立城山東小学校から宇都宮市立国本中央小学校を経て、宇都宮市立国本中学校、栃木県立宇都宮東高等学校、同志社大学文学部文化学科文化史学専攻(現・文学部文化史学科)卒業[6]。
大学卒業後、1994年から2001年まで宇都宮市にキャンパスのある帝京大学理工学部で職員として勤務。初めて文学賞に応募したのは2000年の創元推理短編賞。
2003年「キッドナッパーズ」で第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。2005年に歴史小説を書くのに適していて妻の実家のある大阪府寝屋川市に転居、自宅近くのアパートを借りて執筆場としている[4]。2006年『天才たちの値段』で単行本デビューする。2018年、『銀河鉄道の父』で第158回直木賞受賞。
(出典: 『ウィキペディア(Wikipedia)』)