私鉄駅から20メーターほどの所に小さな川が流れている。
ほんの数年前まではドブ川だったが、今は美しく蘇った。
川の周辺も遊歩道が整備され小さな公園まで出来た。
その日は昼頃から気温が上がり春の陽光が心地良い。
どこかのカラオケ店で歌いたいなと思い、散歩がてら家を出てその遊歩道を散歩した。
風が心地いい。
川を覗くと透き通った流れの中を水草がそよいでいる。
魚が群れている。
この川に魚が戻ってきたと新聞に載ったのはほんの2,3年前だ。
鮒か鯉かと思うが違うようだ、魚の名称は分らない。
川辺の小さな公園になっているところには何人かの人がそれぞれに時を過ごしている。
その公園は道路から一段低くなっていて、コンクリートの階段を下りてくることになる。
ひとつのベンチには野球帽を被った老人が本を読んでいる。
でも見たところ辞書を読んでいる様子だ。
英語の辞書のようにも見える、時々傍らの肩掛けカバンから水のボトルを取り出して飲んでいる。
近くに私が座って暫くしたら、腰を上げ去っていった。
足元がおぼつかない様子からしてかなりの老人だった。
もう一つのベンチに男が寝そべっている。
白いゴム長靴を脱いで陽光の中横になって寝ている。
どこか近所の料理人かとも見える。
暫くして起き上がって伸びをしてそのゴム長靴に足を通すと去っていった。
仕事の合間の一休みだったのかも知れない。
もう一組というか、老人と幼女がいて、ヨチヨチ歩く幼女の後ろを老人がついて回っている。
孫を預けられて散歩に来たのかもしれない。
手押しのついた子供用の三輪車が近くにおいてある。
手押しする部分に袋がぶら下げてある。
その老人は袋からお菓子とかジュースを取り出しては幼女に与えている。
食べ終わるとティッシュを取り出して口の周りを拭いてやっている。
驚くべきは、そのおっさん使い終わったティッシュをポイと川に捨てている。
私の目があることなど何も意に介していない。
その幼女が、ボーッと座っている私にヨチヨチと歩いて近づいてくる。
そのおっさんは追いかけてきて「ダメダメ」と幼女を抱きかかえる。
幼女は私に「バイバイ」と手を振る、私も思わず手を振る。
そして公園の端のベンチには2人のご婦人が日傘をさしてずっと話し込んでいる。
何の話かは知る由もないが、女の人は何でも真剣にエネルギッシュに話する。
話は暫く続きそう、というかずっと続きそうだ。
そんな中、市議会議員選挙の選挙カーが何度も拡声器を鳴らして通り過ぎるのが聞こえる。
すぐ横の橋の上を私鉄駅から乗り降りする多くの人達が通り過ぎていく。
すぐ近くは喧騒の渦なのに、その小さな公園の昼下がりはまるで別世界の「ひだまり」のように感じられた。
暫くぼんやり過ごして、カラオケは止めて帰ってきた。