(前ページよりつづく)
(4図)湾内で月山に向かう津波
(5図)月山に向かった津波のもどり波(反射波)
(2図)(3図)(4図)(5図)共にコンセプト図であり典型(パターン)図である。
実際の津波襲撃はこんなものではなく、もっともっと複雑かつ予想外の動きをするものと思われ、動きを具体的に把握して図面化する事は超高度な作業になる。将来、実物実験や実物シミュレーションで、またスーパーコンピューターで、その詳細な全貌がわれわれの前に現れる事を期待したい。
しかしながら、湾内を閉伊川水門・津軽石水門を含めて10.4mの防潮堤で囲むという岩手県庁の宮古湾擁壁囲み計画では、必ず、この4種パターン図の流れが含まれて津波が湾内を周遊襲撃する事は確信できる。もちろん東西、南北の流れだけでなく、それがお互い干渉して思わぬ高さや力が発生する事は、過去、津波のあるところでは常に観測され記録されている。上下、ななめの動き、また海上、海底の地形によっても複雑化する事は容易に理解できるはずである。津波がおとなしく湾内を周遊して時間とともにおとなしく退散していくという県土整備部の予想はあり得ない。それは逆に、特に湾奥における防潮堤、水門の破壊に始まり宮古湾要所要所の暴発、破壊をもたらす反自然計画といっても過言ではない。
宮古湾のあるべき防災計画
この計画をベースにした地区毎の防災計画(B)ついては別に議論するつもりである。
まず、宮古湾全体のあるべき防災計画ついては冒頭で述べたように「今回の津波がもたらした浸水や物理的被害を基準にして、湾全体で、将来の、地区ごとの被害調整を行う事である」。つまり特定の地区に片寄らない被害調整とは、平等に津波浸水を受入れる事である。そのための港湾の実用施設の手直し強化、建物の津波対応仕様の開発・建設、植生を活用した海岸丘の建設、防潮堤を低くする工夫、場所によっては高くする工夫。等のハード面の議論である。もっと正しく言うと、ハード面の議論の議論という事である。(県庁官僚の発言など)詳しくは他日に譲るが、同時代人として恥ずかしい時代錯誤のひどい話がテーマになる。
ハード面で一番大事な事は津波を阻止したり、直接防いだりする考え方をやめて、いわば柔軟に津波の破壊のエネルギーを殺(そ)ぎ、そらして、無害とは言わないまでも、凶暴な破壊力から津波を死んだ水かさに変える工夫である。そのためには、力学上からと、水量の問題から、どうしても閉伊川と津軽石川の活用を避けては通れない。二つの河川以外にも、津波の威力削減には遊水池等水量コントロールの施設の建設が必要になるが、かぎられた施設であり効果自体は小さい。
二つの河川をそれぞれ機軸とした遡上水域に圧倒的水量のプールを建設する事は、実用上、また力学的合理性からも反対意見がある事自体がおかしい。
宮古湾問題、あるいは防災のハード問題の範囲に入るかどうかは分からないが天然自然の問題と海浜景観の問題も深刻に残っている。その観点からも防潮堤はどこから見ても建設するべきではない。必要悪として、最小限にとどめる努力、工夫がまたれる。岩手県庁の宮古湾擁壁囲みこみ計画では、密閉されて津波の逃げ場がなく、予期せぬとか想定外の、ではなく明らかに人災といえる宮古湾沿岸地帯のくり返しくり返しの破壊が進む。その事を言いたい。