田老「第一防潮堤」の公共工事とは?
田老「第一防潮堤」の今(7)よりつづく
田老「第一防潮堤」の今(シリーズ)で何がいいたいのかという問い合わせを受けた。同じ事の繰り返しになるが、しつこく三つの事を強く訴えたい。
(1)津波に耐えた田老「第一防潮堤」はこの公共工事で破壊される。
(2)世界的防災遺構が消える。
(3)工法は洪水用
その前に、当公共工事の全体イメージを図示しておきたいと思う。
図1 工事前の防潮堤
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図2 工事後の完成図
図1は先の3.11大津波に耐えて残った田老「第一防潮堤」の威容。天板には流出防止柵と思われる鉄筋コンクリートブロックが並んでいる。このブロックはまた越流水勢を弱める半クラッチの役割でもあった。図2の完成図に見るかさ上げ壁は河川洪水用のかさ上げ工法の転用にすぎず津波には耐え得ない。いずれにしても地盤沈下70センチのうち20センチメートル(海抜2%)を挽回しようとしたものであったが、それが以下のような結果をもたらすとは…
(1)津波に耐えた田老「第一防潮堤」はこの公共工事で破壊される。
工事としては春に始まったばかりで工期は本年9月末予定であるが工期中には完成しないであろう。表には出ないがいろいろな問題がある事案であるからである。その最大の問題は当グログ本稿のテーマに関係する事ではなかろうか? と思う。復旧工事といいながら、その実、健康体を逆に重篤な病気にさせる処方だったからである。公共工事はその事に早く気づいて処方をやめてほしい。今更、元の健康体に戻るかどうかの技術的展望もないが…
a、最初の破壊 次の写真がその現場である。この取り返しのつかない破壊の現実を人は深く心にとどめるべきである。
写真<A>
ブログ<被災地ガイド岩手県宮古市田老地区を案内する男
の想い日記>128第一防潮堤の中身(2013.7.22)より
写真<B> 2013.8.5 撮影
そもそも2011.3.11の大津波に田老「第一防潮堤」はなぜ壊れずに生きのこったのかをいえば、第一にその躯体の一体性であろう。当時の人的一体化の事もあるが、ここでは設計家の設計思想と工事者の工事との一体化、設計図とコンクリートと土石と鉄筋のいわば有機的一体化のことをいいたい。田老「第一防潮堤」は頑丈なだけではなくまさに80年間水も漏らしていなかったのである。
今回の工事直後の写真<A>に見る通り、コンクリートの状態が良好なだけでなく填圧された土砂・礫石もしっかりして昨日の今日のように生きて見える。
それが、写真<B>を見ていただきたい。工事が始まってから、雨にでもあたったか?ひと月もたっていないのに土砂の上部に亀裂状のものが入って、心なしか土砂はへたり礫石もくたびれて見える。
自然の豹変(ひょうへん)とはそのようなものである。少なくとも昭和9年から今まで、先の津波を経てさえも、田老「第一防潮堤」の一体性=一体構造はびくともしなかったが、一度一体構造に傷が入るや、たったのひと月足らずで素人の目にもその急激な崩壊の始まりが見えるのである。
写真<C>
ブログ<被災地ガイド岩手県宮古市田老地区を案内する男の想
い日記>173宮古市鍬ヶ崎地区の住宅再建(2013.9.5)より
写真<C>は写真<B>から更に一ヶ月後、足場ができて、周りが濡れて見えるのは雨のせいであろうか土石やコンクリートの養生の水のせいであろうか? …一層事態が進行しているように見える。
b、一体構造が崩れる
図3 一体構造躯体
本体躯体の台形の安定的な形。天板のブロックの隊列は昭和35年~37年の改修の時期に作られたものであるが全体の大きな威容は今見ても変わらない。田老地区のアイデンティティである事に変わりがないといえる。昭和9年から始まる田老「第一防潮堤」(当時の呼称は「ぼうろうてい=防浪堤」)建設に汗を流した人たちはまさか後代にこの一体構造の躯体に重機のメスが入って乱暴にコンクリートがはがされるとは思っていなかったと思う。
図4 一体構造の破壊
図4は冒頭写真<A><B><C>の状態を断面的に図面化したものである。写真説明は必ずしも客観的な評価ではなかったかもしれないが、この図面のように一体構造を崩した事は事実、だれもが何かしら不穏な感覚におちいる事もまた事実である。
c、パラペットかさあげ工事
図5 パラペットかさ上げ工法(完成断面図)
図4でコンクリートを削り、土砂・礫石を再転圧(再填圧)したところに鉄筋コンクリート製の超重量級パラペットをはめ込む予定である。どこをとってもむずかしい工事である事が分かる。行程が信じられない…
写真<D>
ブログ<被災地ガイド岩手県宮古市田老地区を案内する男
の想い日記>162たまたま助かった命(2013.8.25)より
岩手県県土整備部が主管して田老地区海岸災害復旧事業として公共工事を進めているが、それが「パラペットかさ上げ工事」なのである。写真<D>の広報掲示板などで見るのは外観や部分だけ、図2の完成図と同じで、さっぱり中身がわからない。
d、パラペットはそこにただ置いただけ パラペットと防潮堤本体躯体の結合がないという事は最大のピンチである。本体への最初のメスに続いて、防潮堤の(将来の)破壊が始まっているといえる。 次ページに続く
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