ベッドに入ったばかりの夫をたたき起こして、まず産院に電話を入れる。
「ハロー? あの、たった今破水しました。」
私はこのとき産院の当直看護婦と話をしているつもりでいた。
だって産院のいつもの番号にかけているんだから、この電話に出た看護婦が指示を出すものだと思い込んでいた。
「名前は?」
聞かれるままに名前を名乗る。
「電話番号は?」
私は家の電話番号を答えた。っというのも、よく電話番号を登録ナンバーにしてコンピューターで管理しているでしょ。
この看護婦も私のデータを引き出しているんだと思ったの。
「ドクターが折り返し電話をします、では。」
は?
「あ、ちょっと待ってください。じゃぁその電話番号じゃだめです、今かけている電話の電話番号をいいます。」
分かった、この人は看護婦でもなんでもないオペレーターかなにかだ。
夜間だから電話サービス会社か何かに転送されたんだ。
しかし気付くのが遅かった。
電話の向こうのおばちゃんはすごい剣幕でがなりたてる。
「はぁ~~?じゃぁ、今言った電話番号はいったいなんなのよ!!!」
「いや、登録ナンバーに使われているとおもっ」
私が喋っているのに上からかぶせるように怒鳴りたててくる。
「ちょっとあんた?なんのために電話してんのぉ?あぁ~? いったい何がしたいわけぇ?えぇ~~?」
受話器に耳をあてていられないほどの大声で怒鳴りたててくる。
「ちょっと勘違いしただけです、そんなにおこらないでくださいよ。今からここの電話番号を言いますから。え~っと510のぉ」
ガチャン!
・・・切られてしまった。
なんなんだ?あいつはいったい。
感じ悪いのぉ。こういうところってすっごくアメリカ。
日本ではいくらなんでもこういう対応はありえんでしょう。
こまったなぁ、何かあったらまず電話するように言われているし、気を取り直してもう一度電話をする。
「ハロー」
うわ、さっきのばばぁだ。とりあえず自分の名前を名乗る。
「電話番号は?」
ばばぁはぶっきらぼうに訊いてきた。
「今かけているこの電話の電話番号を言えばいいんですよねぇ。」
確認してみる。
「なんでもいいから電話番号は?」
また大声でどなるばばぁ。むっかつくなぁ。
「510のぉ・・・」
電話番号を言い終えるのと同時に
ガチャン!
また切られてしまった。
ドクターが折り返し電話してくると言っていたのに、30分経っても電話が来ない。
その間にも羊水は少しずつ流れ出る。
もういいや、電話なんて待たずに病院に行こう。
あの電話のせいで悶々とした気分で病院に向かう。
なんだか幸先わるいのぉ~。
この時まだ陣痛はなし。
午前2時半ごろ病院に入ってチェックを受ける。
流れ出ている液体が羊水であることを確認。
看護婦が言う。
「破水したら感染の恐れがあるから普通そのまま病院にいてもらうことになってるの。自然に陣痛が始まらなければ、12時間から24時間以内に薬で陣痛を起こさせるのよ。でもあなた、もし帰りたいなら帰っていいわよ。また明日の朝いらっしゃい。」
は?言っていることが矛盾しているじゃないか。
こんなに羊水が滴り落ちているのに家になんか帰れるかぁ。
「あの、できればこのまま病院にいたいんですけど。」
無理やりお願いすることにした。
「仕方ないわねぇ。じゃぁ、部屋を準備するからちょっと待っててね。」
待たされること30分ほど、若い看護婦がやってきた。
「今晩あなたの担当をするローラよ」
めちゃくちゃ愛想のいいねぇちゃん。
「あなたはラッキーよぉ。今日は一般分娩室が全部使われているからデラックスルームを使うことになったの。本当なら特別料金を払わなきゃいけない部屋よ。」
へぇそうなんだ。
じゃぁ、あの感じ悪い電話とデラックスルームでプラスマイナスゼロってところね。
ベッドに横たわった時、その晩当直の医者が入ってきた。
「明日の朝自然に陣痛が始まらなければ、薬で陣痛を起こさせるから今晩のうちにゆっくり休んでおくことね。」
ほぉ~い。
夫は早速ソファーに寝そべり早くもグーグーといびきをかいて寝ている。
のんきなもんだ。
ゆっくり寝ることといわれたものの、次から次へと渡される書類にサインをしたり、色々な質問に答えたり、30分か1時間に一回くらい血圧を測ったり体温を測ったり、寝られやしない。
それに若いねぇちゃん看護婦はよくしゃべる。
まだこの仕事を始めたばかりのようで、何がどこにあるかもよく知らない。
しょっちゅう先輩看護婦を呼んでは聞いている。
「今のうちに点滴用の針を刺しておきましょうね。」
用心深く血管の場所を見定めて、ブス。
しかし血管に針が入らない。
皮膚の中で針を動かして血管探し。
なかなか見つからない。
気を取り直してもう一度、ブス。
お、血管に針が入った。
若いねぇちゃん看護婦は先輩看護婦を呼ぶ。
「これでいいんですよねぇ。」
おいおい、自信がないなら先に呼べよ。
先輩看護婦は針をみて一言。
「いやこれじゃダメよ。」
なに?
場所をかえて結局最初っからやり直し。
「ごめんなさいねぇ~」
頻りに謝る看護婦。
いやぁいいよ。
陣痛の苦しみに比べればこれくらい蚊に刺されるようなものだから。
その間夫はずっとグーグーといびきをかいて寝ていた。
午前7時、シフトが変わって若いねぇちゃんの代わりに、中年のおばちゃん看護婦が入ってきた。
「私の名前はジョアンナ。今日産むわよ~~~、私がいる間に産ませてあげるからね。」
この人ならなんだか頼りになりそう。
そう直感した私だった。
(続く)
「ハロー? あの、たった今破水しました。」
私はこのとき産院の当直看護婦と話をしているつもりでいた。
だって産院のいつもの番号にかけているんだから、この電話に出た看護婦が指示を出すものだと思い込んでいた。
「名前は?」
聞かれるままに名前を名乗る。
「電話番号は?」
私は家の電話番号を答えた。っというのも、よく電話番号を登録ナンバーにしてコンピューターで管理しているでしょ。
この看護婦も私のデータを引き出しているんだと思ったの。
「ドクターが折り返し電話をします、では。」
は?
「あ、ちょっと待ってください。じゃぁその電話番号じゃだめです、今かけている電話の電話番号をいいます。」
分かった、この人は看護婦でもなんでもないオペレーターかなにかだ。
夜間だから電話サービス会社か何かに転送されたんだ。
しかし気付くのが遅かった。
電話の向こうのおばちゃんはすごい剣幕でがなりたてる。
「はぁ~~?じゃぁ、今言った電話番号はいったいなんなのよ!!!」
「いや、登録ナンバーに使われているとおもっ」
私が喋っているのに上からかぶせるように怒鳴りたててくる。
「ちょっとあんた?なんのために電話してんのぉ?あぁ~? いったい何がしたいわけぇ?えぇ~~?」
受話器に耳をあてていられないほどの大声で怒鳴りたててくる。
「ちょっと勘違いしただけです、そんなにおこらないでくださいよ。今からここの電話番号を言いますから。え~っと510のぉ」
ガチャン!
・・・切られてしまった。
なんなんだ?あいつはいったい。
感じ悪いのぉ。こういうところってすっごくアメリカ。
日本ではいくらなんでもこういう対応はありえんでしょう。
こまったなぁ、何かあったらまず電話するように言われているし、気を取り直してもう一度電話をする。
「ハロー」
うわ、さっきのばばぁだ。とりあえず自分の名前を名乗る。
「電話番号は?」
ばばぁはぶっきらぼうに訊いてきた。
「今かけているこの電話の電話番号を言えばいいんですよねぇ。」
確認してみる。
「なんでもいいから電話番号は?」
また大声でどなるばばぁ。むっかつくなぁ。
「510のぉ・・・」
電話番号を言い終えるのと同時に
ガチャン!
また切られてしまった。
ドクターが折り返し電話してくると言っていたのに、30分経っても電話が来ない。
その間にも羊水は少しずつ流れ出る。
もういいや、電話なんて待たずに病院に行こう。
あの電話のせいで悶々とした気分で病院に向かう。
なんだか幸先わるいのぉ~。
この時まだ陣痛はなし。
午前2時半ごろ病院に入ってチェックを受ける。
流れ出ている液体が羊水であることを確認。
看護婦が言う。
「破水したら感染の恐れがあるから普通そのまま病院にいてもらうことになってるの。自然に陣痛が始まらなければ、12時間から24時間以内に薬で陣痛を起こさせるのよ。でもあなた、もし帰りたいなら帰っていいわよ。また明日の朝いらっしゃい。」
は?言っていることが矛盾しているじゃないか。
こんなに羊水が滴り落ちているのに家になんか帰れるかぁ。
「あの、できればこのまま病院にいたいんですけど。」
無理やりお願いすることにした。
「仕方ないわねぇ。じゃぁ、部屋を準備するからちょっと待っててね。」
待たされること30分ほど、若い看護婦がやってきた。
「今晩あなたの担当をするローラよ」
めちゃくちゃ愛想のいいねぇちゃん。
「あなたはラッキーよぉ。今日は一般分娩室が全部使われているからデラックスルームを使うことになったの。本当なら特別料金を払わなきゃいけない部屋よ。」
へぇそうなんだ。
じゃぁ、あの感じ悪い電話とデラックスルームでプラスマイナスゼロってところね。
ベッドに横たわった時、その晩当直の医者が入ってきた。
「明日の朝自然に陣痛が始まらなければ、薬で陣痛を起こさせるから今晩のうちにゆっくり休んでおくことね。」
ほぉ~い。
夫は早速ソファーに寝そべり早くもグーグーといびきをかいて寝ている。
のんきなもんだ。
ゆっくり寝ることといわれたものの、次から次へと渡される書類にサインをしたり、色々な質問に答えたり、30分か1時間に一回くらい血圧を測ったり体温を測ったり、寝られやしない。
それに若いねぇちゃん看護婦はよくしゃべる。
まだこの仕事を始めたばかりのようで、何がどこにあるかもよく知らない。
しょっちゅう先輩看護婦を呼んでは聞いている。
「今のうちに点滴用の針を刺しておきましょうね。」
用心深く血管の場所を見定めて、ブス。
しかし血管に針が入らない。
皮膚の中で針を動かして血管探し。
なかなか見つからない。
気を取り直してもう一度、ブス。
お、血管に針が入った。
若いねぇちゃん看護婦は先輩看護婦を呼ぶ。
「これでいいんですよねぇ。」
おいおい、自信がないなら先に呼べよ。
先輩看護婦は針をみて一言。
「いやこれじゃダメよ。」
なに?
場所をかえて結局最初っからやり直し。
「ごめんなさいねぇ~」
頻りに謝る看護婦。
いやぁいいよ。
陣痛の苦しみに比べればこれくらい蚊に刺されるようなものだから。
その間夫はずっとグーグーといびきをかいて寝ていた。
午前7時、シフトが変わって若いねぇちゃんの代わりに、中年のおばちゃん看護婦が入ってきた。
「私の名前はジョアンナ。今日産むわよ~~~、私がいる間に産ませてあげるからね。」
この人ならなんだか頼りになりそう。
そう直感した私だった。
(続く)